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第69話 金弓

 突如L.S.が起動し、その"小さな金のフィギュア"は消えるように入っていった。

 アイテム欄を見ると、〈全ての犯罪者を蹴散らす【LWS-611】の輝金神物〉といったものが新しく入っており、〈弓の真の姿と邂逅するために使用可能〉と書かれている。


 ⋯ってことは

 使える人物がここに一人いる。

 と感じた瞬間、勝手に手の上にまた出現した。


 すると、〈"反撃の立体弓"を真の姿へと上書きしますか?〉とL.S.から表示された。

 "反撃の立体弓"を持つのは⋯そんなの彼女しかいない。


「ニイナ、これであなたを"A.EL"へとさせられる」


 発すると、ニイナは黒能面を取り、口が開いたままの驚いた顔を見せた。

 その顔のまま、ゆっくりと口を動かす。


「そ、それによって、私が、私が"A.EL"に、なれるんですか?」

「えぇ。"反撃の立体弓を真の姿へと上書きしますか?"ってL.S.に出てるわ。この弓を持ってるのはニイナだけでしょ?」

「⋯そう、ですね」


 いつもの彼女は何処へ行ったのやら、火照った顔で荒く口呼吸をしている。

 このまま使うのもいいけど⋯

 ごめんね、ちょっと利用させてもらう。


「使う前に、一つ条件があるわ」

「⋯はい?」

「私にもし何かあった時は、ニイナが"総理を操る真犯人"を探し出して」

「⋯それは出来かねます。私たちは今、協力関係にあるんです。ユキ先輩もしっかり生きて、それで一緒に捕まえるんです。もし何かあったらなんて⋯そんな事は起きません」

「ニイナちゃん、ユキちゃんが起きるまでずっと手を握ってたからね~」

「ちょ、ヒナ先輩っ!? それは言わない約束って!?」

「え~? そうだっけ~?」


 ヒナとニイナのやり取りに少し吹いた。

 ニイナは咳払いすると、私に向かって「⋯一応、了解です」と。


 その瞬間、彼女の弓へと吸い込まれるように"小さな金のフィギュア"は浮き始めた。

 数秒の浮遊後、弓内へと入っていくと、突然弓が霧に包まれた。

 そのまま霧状の弓が頭上へと上がる。


「⋯大丈夫なん⋯ですよね?」


 不安そうな顔をするニイナに、ヒナが代わりに「大丈夫だよ」と返事する。

 霧が晴れた先で落ちてきたもの。

 まるで"最新戦闘機を模したような弓?"だった。


 L.S.のホログラム画面には、〔"反撃の立体弓"は"マルチロールフェイル・ヴィーナス"へと上書きしました〕と出ている。


「これが⋯ELになった弓」


 どこまでも金色が眩しい新型の戦闘機弓。

 端にはしっかりと刻まれた"A.EL"の印。


 真ん中部分に"金のエンジン?"が4つも付いている。

 もう見ただけで分かる、この弓は他と一線を画すという事が。


「あ~あ、もう追い付かれちゃったのか~」


 ふと、ノノが口にする。


「これでもう喧嘩は売れなくなった?」

「なったから、それこっちに向けないで!?」


 ニイナが「本当にありがとうございます、ユキ先輩」とこっちに一礼してくる。

 感謝されるべきは私じゃない。


「それはルイに会ったら言ってあげて。残していってくれたの、彼だから」

「⋯ルイ様が」


 そういえば、ニイナって前は"三船様"って呼んでなかったっけ?

 今更そんな気にすることでもないんだけど⋯なんか引っかかるわね⋯


 戻って来た新宿花伝と合流後、カレンさんは「七色蝶はどこにもいなかった」と報告した。

 残念な気持ちはもちろんあるけど、まだ上に階は残ってる。


「では、7階へ行きましょう。私はもう身体は平気ですので」

「分かった」


 残りはあと3階。

 本当にあと少し。


 アスタ君たちはいる。

 ルイだっている。


 そう思うと気力がどんどん沸いてくる。

 足が先へ先へと勝手に進む。


 新しくなったのはニイナだけじゃない。

 私の"この鎌"だって。


 ♢


「この階には、特に何もないね」


 7階を回りながら、後ろのヒナの声が静寂に響く。

 残りはあと2階。

 最後の休憩をはさみつつ、8階へのエスカレーターへと進んだ。


「次が8階ですね」

「そうね。天井には常に気を付けないと」


 あの"赤いの"が降ってくる数も増えてきていた。

 強いわけではないけど、不意に来るのが鬱陶しい。


「小野田はどうやっても⋯帰って来ないんだよな」


 前を向きながら言う竹の人に、カレンさんと松の人が肩を叩いた。

 ⋯この先もまだ何があるか分からない


 まず私たちのすべき事は、彼の犠牲を無駄にしない事。

 気を抜かないよう改めて身を引き締めると、エレベーターは8階へと辿り着いた。

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