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第64話 赤影

 一通り1階は見終わった。

 人は一人も見つかっていない。


「ん? 小野田はどうした?」


 カレンさんが竹チームを見て言う。


「ん? どこ行った? お前ら見てないのか?」


 竹の人の声に、誰も知らないと返事する。

 確かに一人いない。


「トイレでも行ったか? 先走って上行ったか?」

「いえ、さっきまで後ろにいたはずなんですが⋯」


 「何やってんだ」「迷子?」と周囲から声が上がる。

 もちろん私たちも見ていない。


「仕方ない。俺たちは一旦、小野田を連れてから行く。カレンたちは先に上へ行ってくれ」

「お前たちだけで大丈夫か?」

「散々見ただろ、ここには何もいない」

「まぁ、そうだな」


 ここで竹チーム以外で2階へと行く事になった。

 エスカレーターへと、チーム順に乗っていく。


 下を見ると、「お前たちはあっちを探してくれ」と竹の人が指示を出している。

 小野田さんはどこに⋯?


 2階へ着くと、上に大きく【地域課】と書いてあった。

 ってことは、ここは普段交番や見回りなど、外で見る一般的な警察官が所属するところ、おそらくニイナも同じ。


「ねぇ黒夢、ここも違うの?」


 ノノがこっちを向く。


「⋯違う。私がいた時、こんなんじゃなかった。もっと個人まりしてるというか⋯こんな区切られた区間は無かった。ちなみに、私がいつも座ってたのはあの辺りで」

「っ!?」


『緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください。緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』


 また全員のL.S.から【緊急地震速報】が一斉に鳴った。

 すぐにしゃがむ姿勢を取る。


「なんなんだ、さっきからこの揺れは!?」


 カレンさんの指示で無事を確認し合う。

 幸い、誰もケガはしていない。

 それにしても緊急地震速報のあの音、何回聞いても心臓に悪い⋯


 揺れたせいで、物が常に散乱している。

 棚の書類や机の物など、一気に散らばっている。

 カレンさんを見ると、L.S.で誰かと通話を始めていた。


「おい、揺れただろ。そっちは無事か?」

「ん? こっちは揺れてないが?」

「⋯え?」

「揺れたのか? またさっきみたいに」

「⋯」

「おい、カレン?」

「⋯そういう事だ。それで、小野田は見つかったか?」

「それがどこ探してもいない。アイツは一体どこ行ったんだ」


 すぐ後ろから竹チームが上って来た。

 すると、


「っ!!」


『緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください。緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』


 さらにまた全員のL.S.から【緊急地震速報】が鳴り響く。

 すぐに全員がしゃがむ。


「くそ! ふざけやがってッ!!」


 竹の人が声を荒げる。

 厄介すぎるこの地震。


 たぶん次、3階に上ったらまた起こる。

 これは"何が地震を起こしている"の?

 階層それぞれに独立して地震を起こすなんて、あまりに不自然すぎる。


「よし、それでは2階の探索をする。また同じように分かれ」

「待ってください代表! 小野田いました!」


 一人の男性がふらふらと近付いてきた。


「ん? おい小野田、なに勝手に2階に行ってる! 一人だと危険だろ!」


 カレンさんが彼の肩に手を置いた瞬間、


 ― 彼の頭が落ちた


 "小野田さん?"の首からは"赤く透明な何か"が伸び始めた。


「⋯カレン下がれッ!! そいつは小野田じゃないッ!!」

「ど、どうして⋯」

『ふけあじぇじゃいえいへじゃうおいえ? おああてかまじぇかけならくられ?』

「早く下がれッ!! ⋯ええい、くそっ!!」


 竹の人が容赦なく"小野田さん?"を切り刻み、吹き飛ばした。

 カレンさんの手はまだ震えている。


「す、すまない⋯」

「あんなのは小野田ではない。動揺するな」

「⋯そうだな、悪かった」


 今何が起きたか私も分かっていない。

 他の人もまだ唖然としている。

 アレが喋っている言葉も、意味不明だった。


「ここからは邪魔がいる、という事か」


 松の人が小さく口を開いた。


「各員、油断するなよ! 引き続き"本物の小野田"も探すぞ!」


 一斉に響く「は!」という声。

 カレンさんも気合いを入れ直している。


「⋯⋯よし」

「大丈夫ですか、代表。あれは私でもあーなります⋯」

「ノノも気を付けろ、また来るかもしれない」

「は!」


 さっきのは本当になんだったの?

 "小野田さん?"が飛んだ方向を見ると⋯


 ― 赤い影のような跡だけが残っていた

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