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第63話 受付

「全員、覚悟はいいわね?」


 カレンさんの一言が響き渡る。

 周りが一斉に声を上げる。


 新宿警察署を前にして思う事。

 なんでこんなところにいるんだろって。

 犯罪したわけじゃないのに。


 むしろ犯罪してるのはコイツらだ。

 東京から逃げようとした人を無差別に殺した。

 正義の裁きを下すのは、今度は私たち。


「それじゃ、入るわよ!」


 カレンさんを筆頭に、松と竹のチームが続いて入っていく。

 最後に私たち。


 ふーっと深呼吸をする。

 大丈夫、ここに来るまでに充分準備はしてきた。


 新宿花伝はここら辺りで有名らしく、道中でよく話しかけられていた、その後に私たちも。

 とうとう新宿花伝と七色蝶チームが手を組んだぞと話題になり、それが新宿警察署へ入るって事だから、人だかりが出来ている。


「頼んだぞ~! 俺らはここら辺を守っとくから~!」

「松竹梅の三銃士と七色蝶のとこが組めば、ここもいけるだろ!」

「俺もELになれたら参加できたのかな~。まぁでも死にたくねぇ~」


 後ろで様々な声がする。

 もう引き返す事はできなそう。

 ニイナは黒能面を付け、私たちもフードとお面を付けた。


「いいですか、署内は私に続いてください。内部構造はよく知ってますから。その格好なら、最悪犯罪になっても逃げきれるでしょう」

「やめてよ、入る前から犯罪者になる前提なの」

「だって、私だけだと庇いきれませんよ。弁護士のアスタ様と探偵のカイがいればどうにかなりそうですけど」

「え、アスタ君って弁護士だったの!?」

「ほぇ~!」


 アスタ君は大学生で弁護士という、特殊ルートでなったそう。

 警察、探偵、弁護士の三人が揃ってるって、どんなグループなのここ⋯

 そういやアスタ君、胸元に弁護士バッジ付けてたかも。


「行きましょう! ユキちゃん!」

「あ、ごめん」


 そして私たちは、"死人の巣窟"へと足を踏み入れた。


「⋯違う」

「?」

「私が知ってるのと違う!」

「構造がってこと?」

「こんな大きく【受付】なんて⋯真ん中もここまで広くない!!」

「!?」


 突然、床が揺れ始めた。

 同時に【緊急地震速報】が全員のL.S.から鳴る。


『緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください。緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』


「全員しゃがめ!!」


 カレンさんの注意喚起に各々が応じる。

 数秒の強い揺れの後、静かに揺れは収まった。


「!? 見てください!! 地震はここでしか起きてませんよ!?」

「え!?」


 ヒナのL.S.画面が共有される。

 そこには東京で地震が起きたなんてものは一つもなかった。


「どういうこと⋯?」

「一旦出ましょう、ここは」


 ニイナが出口に手をやると、


「⋯っ!! 開かないッ!!!」


 私も一緒に開けようとしてみた。

 だけどビクともせず、さっきまでの自動ドアの開閉が嘘のようだった。

 鎌を使って攻撃しようにも、すぐに修復され、攻撃より早く元に戻ってしまう。


「なんなのこれ⋯」

「⋯他を当たるしかないのか」


 松の人が言う。

 軽い話し合いの後、それぞれに分かれて探索する事にした。

 もうここに留まっていても意味が無い。


 4つに分かれて1階を探る。

 梅チーム10人、松チーム8人、竹チーム8人、私たち3人。

 一緒に行動しても、人が多くて却って邪魔になるから。


 何かあったらすぐL.S.で連絡を取れるようにはしてる。

 まるでダンジョンみたいなこの新宿警察署、まだ上にも9階まで階層がある。


 この【受付】と上に大きく書かれた場所。

 漂う異様な感じが、より恐怖に感じさせられる。


 室内はどこも赤く照らされており、外観から赤く光っていたけど、やはり中もそうだった。

 赤く光るという事は、"赤いアイツ"も確実にいると考えた方がいい。


 この赤さも相変わらず慣れない、気持ち悪さを感じる。

 心臓の鼓動もいつもより早く、長くいてはいけないと身体が警告してくる。


「どこも書類が散らばってますね」

「きっとあの地震のせいだわ」


 私とヒナが話していると、ニイナが奥の隅々まで探り始める。

 ここには特に目新しい物は無いように見える。

 が、ニイナはしゃがんで"一つのネームプレート"を拾い、


「⋯」


 そこには【地域課所属 石切リウ】とある。

 血まみれのネームプレート。

 茶髪でボブヘアーの女性が写っている。


「知り合い?」

「⋯警察学校からの」


 一瞬の間の後、


「困難な捜査を手伝ってくれる事もありました。ご飯に一緒に行く事も⋯良き相談相手ってところです」


 呟くように彼女は言った。

 声色から、悔しさが伝わる。


「それなら、その人も探さないとね」

「⋯⋯リウはもう」


 ニイナはネームプレートを胸元へとしまうと、


「さぁ、もうここに用は無いです。次へ行きましょう」


 そう言って隣の部屋へと行ってしまった。

 ヒナが「行っちゃったね」と私に近寄る。


「ねぇヒナ、私たちは生きて出ましょうね」

「うん! まだまだやらなきゃいけない事、いっぱいありますからね!」

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