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第61話 足枷

「うわ~きれい~!」

「こんな場所が」


 隣の二人が周りを見渡す。

 つられて私も。


「これ全部、私が植えたの」


 しゃがんで彼女が言う。

 ケースに入ってる青い花を前にして。


「花も喜んでるように見えますね」

「そう? なら頑張って植えた甲斐があるわね」


 少し嬉しそう。

 この数は相当苦労したはず。


 下から上まで花だらけの一室。

 この1か所だけ、別世界のよう。


 上に"Little Life Garden"とある。

 可愛い字で書いてある、自分で書いたのかな?


 こんな壊れた都会の小さな庭園。

 ほんの少し、癒しを感じられた気がする。


「そういや、お互い名前を知らないわね。住吉カレンよ、ここのみんなには"代表"と呼ばれてる」

「新崎ユキです、こちらが町田ヒナ、それであちらが」

「⋯黒夢ニイナです」


 ニイナが一歩出て言う。


「あなたさっき"黒い能面"を付けていたわね。あの速さ、特別な能力が付いてる?」

「⋯身体能力を1.5倍にします。"弓の場合は1.7倍"ですが」


 ヒナが「そうだったんだ」と呟く。

 使用武器に応じて上昇具合が変わるなんてのがあるんだ。


 全然知らなかった。

 まだまだ知らない事ばかり。


「似てるわね。私のこれの場合は"2倍"、ただし"接近戦の場合だけ"。その黒い能面みたいに常にってわけじゃない」

「"接近戦だけ"、ですか。弓では使いものになりません」

「そうね。私が剣じゃなかったら⋯だからこれは運命だと思った」


 不意にニイナが"花の鎧"を指差す。


「それはどうやって手に入れたのですか?」


 カレンさんが立ち上がる。


「⋯覚悟を決めて外に出た日の夜だったわ。それまで、本当はこのまま死のうと思ってたの」

「⋯意外です」


 私が小さく言うと、


「そうでもないわ、強がってるだけだから。未だに怖いもの、"アイツら"に近付く時は」


 ⋯同じだった

 ELの恩恵があろうと、怖い物はやっぱり怖い。

 安心なんて言葉はどこにもない。


「初めてアイツを見た時、そこにいた人全員が倒れてた。そんな中で、ただ一人がこっちへ叫んだの、"コイツをやれ"って。どうせ死ぬんだったらと思って、走って剣で突っ込んでやった、そしたら⋯」


 カレンさんは横にある"花の鎧"を見る。


「私だけが手に入れて、他の人は死んでしまった⋯あの人たちのおかげで弱ったところをやれただけなのに。今でも考えてしまうの、ELもこれも、私でよかったのかなって」


 その時、ニイナが突然弓を出した。


「弱音はそこまでにしてもらえますか」

「ちょっと、ニイナ!?」

「あなたは"選ばれた人"なんです。それなのに、私でよかったのかなんて⋯なりたかった人だっているんですよ? 私のようにッ!」


 弓を必死で抑える私を見て、カレンさんは"いいの"と首を横に振った。


「⋯言う通りね、こんなんだと代表失格。みんなには⋯特にノノには見せられない顔だわ」


 カレンさんのどこか悲しそうな顔。

 ⋯この人も苦労してきたんだ


 ♢


 ニイナを落ち着かせるため、私たちは他を見て回る事にした。

 後でもう一度、新宿花伝の部隊とは合流する予定。

 それまではこの建物内を探索した。


 他にも様々な施設がここにはあり、ここら一帯は新宿花伝が使っているそうだ。

 カラオケ、ボーリング、ビリヤード、バー、最新ゲーム等、まだまだ他にも。

 ちょっと気分転換をさせてもらったところで、ヒナが途中で寝てしまった。


 さすがに昨日から寝てない分、疲れがどっと来たんだわ。

 ヒナをベッドルームへ運び、私たち二人が残る。


「⋯さっきはすみません」

「どうしたの、急に」

「先輩がいなかったら、もっと抑えられなかったと思うので」


 私は近くのイスへ座った。


「⋯言えた立場じゃないけど、ニイナと同じ状況だったら、私もそうしてたかもしれないなってさっき思った。ELになれれば、一般人とは違う特殊な力が手に入って立ち向かえる、上の立場になって言う事を聞かせる事だってできる、100人のうちの一人なんだって自慢だってできる、だけど」


 少し水を飲んで私は続けた。


「なって分かった、それだけでしかないの。ELだろうと結局は人それぞれ。悪く使う人間もいれば、逃げる選択をする人間もいる。そして、上手く使ってやったとしても、誰もが総理まで行けるわけじゃない。行けたとしても、総理を止められるのは⋯」


 口を紡ぐと、ニイナは静かに「ルイ様、なんですよね?」と。


「私はアスタ様がやると思っていました。でもアスタ様から、"イーリス・マザー構想の成功者"だと聞いて⋯あぁ、もうこの人なんだなと直感しました」

「⋯どんな状況でも、ルイなら何とかしてしまう。この人といれば、何でもできるんだろうなっていつも思うの。だけどそれはどこか、"幼馴染っていう贔屓してるのかも"ってあったんだけど、それを知って全部納得したわ」

「⋯生きています、絶対に。ルイ様もアスタ様もカイも」

「それとシンヤ君もね」

「あの一緒にいた"チャラい方"ですか?」

「うん。彼も実は凄いの、今や"eスポーツAR部門の日本代表"になっちゃって、まだあまり報道はされてないけど、アスタ君に引けを取らないかもよ?」

「でもあの方って、ELに選ばれてないですよね?」

「⋯言われてみれば」


 そういえば、なんでシンヤ君は選ばれなかったんだろう?

 言われてみれば、しっくりくる。

 なんでなんだろう?


 それでも、ELの私たちに負けず劣らず強い。

 あの大臣の猛攻だって耐えていたらしいし。


 その後もニイナとの会話は続いた。

 ニイナは自分の事を足枷だと思ってたみたいだけど、私はとにかく否定した。


 ノノと戦って、特にそれを証明したと思う。 

 EL相手に、一般武器で同等の戦いが出来る者はそうそうにいないはず。

 例え、黒能面を活かそうとも。


「あなたなら"Another ELECTIONNER"になれるチャンスが来る、ヒナやノノみたいに。二人とも"特殊なアイテム"でなったみたいだし、ニイナも不意になれるかも?」

「⋯ありますかね」

「あるある!」


 ニイナはちょっと喜んでいた。

 私の言葉で希望が湧いたのかな。

 なんか年の近い妹ができたみたい。


 この後、ヒナが起きてきて、新宿花伝と捜索開始となった。

 絶対に見つけるから、みんな、もう少しだけ辛抱していて。

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