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第58話 新宿

 この"赤いヤツ"と対面する度に思い出す。

 陸田さんから逃げたあの日を。


 あの人はまだ大学にいる?

 今ならどうにかできる?

 思いが尽きないまま、戦いは進む。


 〈白雪の飛棍棒スノーホワイト・ブーメラン〉をズノウから選ぶと、鎌は青白いブーメランへとなり、それを全力で投げた。

 これには自動で〈N-飛弾〉が付与され、Nは敵の数によって変わる。


 3つとなったブーメランは、それぞれの腕を貫通して吹き飛ばした。

 私だって、何も変わってないわけじゃない。


 返ってくるブーメランによって、さらに反対の腕も引き裂いた。

 これでアイツらはもう銃を使えない。


 今まではルイの〈虹女神の真加護〉でヤツらの銃撃等を防いでいたけど、今はヒナが頼り。

 ヒナが代わりの〈天魔神の超重力〉を張ってくれている。


 撃たれても、弾が勢いを無くして目の前で落ちていく。

 これがなかったら、何回死んでる事か。

 たぶんこういった違いが、"ELかそうでないか"なのかも。


 最後はヒナの黒い雨と、ニイナの矢の雨が降り、アイツらの動きを完全に止めた。

 あの部分だけ地面がかなり変形してしまっている。


「さすがですね、先輩。私には追い付けません」

「そうですか? ニイナちゃんも凄いですけど」

「⋯私は"ELECTIONNER"ではないので」


 黒能面を外し、どこか遠くを見るような虚ろな顔。

 "初めて見た時のヒナ"にどこか少し似ている。

 あの時のヒナもELに憧れていた。


 私には"あの力"で、ELに充分近付いてると感じたけど⋯

 それでは足りないみたい。

 でも、私たちは選ばれたくて選ばれたわけじゃない。


「行きましょう。止まってるとまた来ます」


 先を歩き出すニイナ。

 ヒナがこちらへと駆け寄って来た。


「ね、ユキちゃん。ニイナちゃん卑下しすぎのような⋯」

「経緯は違うけど、前のあなたに少し似てるのかも」

「あー⋯」

「ヒナの言葉が効くのよ、良くも悪くも」


 アスタ君の件で、余計に葛藤があったのかもしれない。

 選ばれてれば、もっとやれたのにって。


 ⋯言えた立場じゃない

 選ばれた私は"大事な人"を置いて行ったのに⋯


 この後も何度かモンスターやネルトと対峙した。

 赤いヤツらほどじゃないにしても、常に油断は出来ない。


 ♢


「新宿駅ね」


 ここに来るまでに全く人を見かけなかった。

 一人もいないなんて、そんな事ある?


 見かけたのは"無用なサイネージ"だけ。

 AI総理の宣伝、最新AIの紹介、新施設のあらすじなど。

 ⋯どこまでも侵食されている


 いつもは緑の光漂う新宿駅、今は赤く光っている。

 駅構内を歩いていると、やっと人を見かけた。


「あ、やっと人がいましたね」


 ヒナが少し安堵する。

 よく見ると、あの人たちの背中には大きく"新宿花伝"と書いてあった。


 目立つ緑の服に黒い大きな文字。

 どこかのグループ?

 その中に一人、目を疑う存在がいた。


 え⋯?


 あれって⋯!!!


 ― 蝶の羽根に、よく似た形の銃剣


 絶対に間違いない。

 絶対にそうだ。


 私は一目散に走った。

 背中にピンクの文字で"新宿花伝"とある人物のもとへ。


 いるならなんで連絡くれないの?

 こっちからは出ないくせに!


 生きてた!

 ちゃんと生きてた!!


 そう思い、肩に手をやった。

 振り向いたその顔は、




 ⋯




 ⋯⋯




「⋯⋯え」

「ユキちゃん待ってください!」


 ヒナとニイナが近寄る。


「⋯⋯誰?」


 言う人物は⋯




 ⋯




 ⋯⋯




 ― 彼ではなかった


「なに?」

「あ、いや⋯」

「今ここで何をしてるんですか?」


 ニイナが聞く。


「わざわざ処理してあげてんの、見て分からない?」

「⋯なにその態度」

「はぁ?」

「まぁまぁ、ニイナちゃん」


 あっちも数人の男が"あの女"をなだめている。

 "あの女"は「ELでもない雑魚が」とキレている。


 性別も性格も、何もかも彼と違った。

 一つも似ていなかった。

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