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第55話 終砂

 "白いアイツ"に睨まれた瞬間、全面の景色が入れ替わった。

 暗闇の中、小さな明かりだけが周囲を照らしていく。 


「⋯ッ!!」


 ヤツの切り返しだけで後ろへと飛ばされ、バク転でどうにか体勢を立て直す。


 なんで⋯なんでコイツがここに⋯

 みんなは⋯どこ行ったんだ!?


 誰もいない。

 俺とアイツだけしかいない。


 それに、ここは間違いなく"渋谷スカイ"だ。

 都庁にいたはずなのに、なんでこんなところへ⋯

 静かな風と小さな月明りが、"ここは本物だ"と訴えてくる。


「ぐッ⋯!?」


 "首元まで迫ったソレ"を、俺は完全に勘で止めていた。

 "もう一つの見えない何か"が、確実に俺の首を狙っていた。

 それがとうとう正体を現し、


 ― 白と黒の蝶の羽根が舞い上がった


 このままじゃ、殺される⋯!

 俺は腕が折れそうな勢いで思いっきりはじき返すと、シンズノウの下から3つ目〈虹光の屈折弾2(スペクトル・リフレクブラスター2)〉で、反撃を図った。


 2の方を使えば、一度で2発撃つ事ができる。

 七色の長い光線が、複雑な屈折をしながらヤツへと向かっていく。


 何度も撃つが、なんとヤツは"あの複雑な弾"に一度も当たらなかった。

 まるで"この攻撃の弱点"が分かっているかのようだった。


「くッ⋯!」


 俺は考えうる限りの策をアイツへとぶつけていく。

 でも、そのどれもが読まれ、ここまで一度も当てる事が出来ていない。

 なのに、


「⋯うっ」


 この見た事も無い強さは、どれも俺を蝕んでいく。

 もう腹には5つの大きな穴が開き、さっきから血が止まらない。

 口の中は血で塗れ、吐き気しかしない。


 こんな苦しい思いするんなら、何もかも捨てて逃げだせばよかった?

 そういった気持ちさえ出てしまう。


 でも、俺には待ってる人がいる。

 期待してくれてる人がいる。

 ⋯信じてくれてる⋯人がいる⋯!


「⋯はぁ⋯はぁ⋯ちッ!!」


 今まで対峙したどんなヤツよりも、コイツは次元が違う。

 見た事無い速さ、感じた事無い一撃の重さ。

 なんで俺を殺そうとするのか、何も分からない。


「ぐぁぁぁぁッ!!!」


 自分が生きているのかさえ、もう分からない。

 限りある声を振り絞り、死ぬ思いで次を防いだ瞬間、"シンズノウの最後"が解禁されたのが分かった。


 ⋯俺は⋯まだ⋯

 お前を⋯超える⋯!


 ― 〈二蝶剣銃ノ示ス世界〉は左手に"新たな銃剣"を追加した


 予想していない追撃だったのか、とうとうアイツを後ろへと下げた。

 これはアイツが持っている"もう一つの銃剣"。


 ― 大きな白黒蝶の羽根が、死を否定するように舞い上がった


 白と黒の羽根は、時間を刻み始めた。

 1時、2時、3時と針が進んでいく。

 進む度、"死生刻蝶の銃剣"は威力を増していき、これが微かな生をもたらしてくれている。


 そして針が12時を示す時、"隠されていたシンズノウ"から"2つの銃剣"が組み合わさった。

 他の全てが効かないなら、もうこいつに全てを賭ける。

 残りの体力から考えるに、これで決めなければならない。


 アイツも温存していたのか、"こっちと同様の姿"へとさせた。

 こんな夢の存在などに負けたりしない、俺は自分を、ユエさんの言葉を信じてる。

 早く帰って、みんなと合流する。


 ― お互いの"大きな銃剣"から、激しい光と共に"4種の粒子"が溢れた


「「⋯」」


 決着は一撃だった。

 全ては一瞬だった。


 何もかも出し尽くしてしまった。

 何もかも使い果たしてしまった。


 また歩けそうにない。

 こんな状況で迷惑をかけるなんて、最低だ俺は。


 他の人だって、助けなきゃいけないのに。

 こんなところで、倒れてる場合じゃないのに。


 でも少し休んだら、また頑張るから。

 大丈夫、あいつらは凄いんだ。


 俺はまたユキと、ヒナと、シンヤと、アスタと、みんなと先へ進んでいく。

 総理を止めるために、明日を生きるために。

 真犯人を、見つけるために⋯


 ♢


「ねぇルイ、今日で春休み終わりだって」

「らしいな」

「全然家から出てないよ~。夜だけどちょっと出かけない?」

「まぁ、いいけど」

「"渋谷スカイ"行こうよ、久しぶりに」

「夜景見たいのか、もう飽きたろ」

「飽きないよ全然。でも、カップルとか多いかなぁ」

「いっつも多いだろ、あっこは」

「私たちもカップルに見せないとね!」

「いや、いつも通りでいいって」

「え~、でも今日はそうしたいな~」

「急になんだ」

「だって⋯"いつかルイと会えなくなったら"って考えたら、寂しくなっちゃって」

「な~に言ってんだ、ほぼ毎日会ってるぞ」

「まぁまぁ~、今日だけ、ね?」

「⋯しゃあねぇ、今日だけな」

「うん!」


 ♢


 なんか不意に思い出したよ。

 また一緒に行こうな。


 いつだって会える。

 また、一緒に。


 帰ったらまた、部屋来るのかな。

 アイツたまには一人で寝ないと、変な癖付かないか心配なんだよ。


 俺が本当にいなくなったらどうすんだ。

 他の誰かと一緒に寝るのか?


 やめろよ、そんなの。

 俺はもう変な癖付いちまった。


 また一緒に寝よう。

 これまでも、これからも。


 待ってるよ、ずっと。

 本当は嬉しかったんだ。


 ほら、変な癖付いた。

 全部お前のせいだよ。

 全部、お前の。




 ⋯




 ⋯⋯




 ⋯⋯⋯




 ⋯ユ⋯キ⋯に⋯す⋯べ⋯て⋯を⋯


 ― 俺の大きな銃剣は割れて消え、俺の身体全体は砂のように粉々に散っていった


 ※ここで前編が終了となります

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