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第53話 都庁

 ユエさんは、"真実の直前"にまで辿り着いていた。

 失敗作の年齢が俺たちと近い事、総理を裏で操作しているんじゃないかというところまで。


 後もう少し、もう少し一緒にいられたら⋯

 ユエさん、あなたがアイテム欄にくれた"コレ"は大事に使わせてもらいます。


 新宿駅に着くと、20人ほどが待機していた。

 こっちではあまりみない格好をしたのが結構いる。


「待ってました。援軍に感謝します」

「いえ、これも進展に繋がればと思いますので、これからも協力していきましょう」


 主催者同士が会話しながら、先頭を歩いて行った。

 俺たちはあえて一番後方から付いて行く。


 何人かに「七色蝶だよね? 活躍みたよ」と話しかけられたりもあったが、今はそんな気分じゃない。

 それでもやっぱり期待はされるもので、都庁内でも前線で行って欲しいと打診された。


 ⋯いちいち他人事のように

 お前らがユエさんの代わりに死ね。

 そんな気持ちが徐々に沸いてきたが、首の根本で何とか留まった。


 期待の裏にある本音。

 予想外の事が起きるのが怖い、死にたくなんてない、結局はそればかりだ。

 俺だってそうに決まってるだろ。


「すっかり有名人ね、良い意味でも悪い意味でも」

「⋯」

「先陣切ってくれなんて、自分たちの場所なのにね。プライドとか無いのかな」

「まぁその分、倒せばお金、アイテム、経験値だって得られる。新宿の分も僕たちが貰っていけばいいよ」


 黙る俺を見て、アスタが代わりに口を開いた。


「そうだけど⋯」


 ユキがずっと俺を見てくる。


「僕たちで上手くやってやろうよ。きっと僕らより強い人間はここにはいない」


 ユキは終始、俺を心配そうに見続けていた。

 分かっていたけど、今は話したい気分じゃなかった。

 シンヤとヒナも察したようで、一歩後ずさって付いてきていた。


 どうにか一呼吸し、冷静を装う。

 まだ頭はクリアだ、ちゃんと自分を保っている。


 気分も落ち着いてきた気がする。

 一旦現状を整理しよう。


 人数は今までの比じゃない。

 アスタたちだっている。

 都庁奪還は、赤ビルよりかなり楽になるはずだ。


 ♢


「ふぅ⋯こんなとこね」

「もういないですか!?」

「見る限りはね」


 後方から襲ってきたネルト共を、ユキとヒナ含む女性陣がやり返し、火力の高さを見せつけた。

 ユキは日に日に動きが洗練され、ヒナはどんどん隙が無くなっている。


「ひ~! この二人に逆らったら生きて帰れそうにねぇなぁ。おい、ルイ! 今のうちに事務所に勧誘しとけ?」

「⋯まぁ、そうだな」

「っと、あっちも負けず劣らずってか?」


 アスタ、カイ、ニイナの3人衆へと目を向ける。

 瞬きすら難しいほど、凄まじい手数と動きで、一つもミスが無い。


 黒能面を使うと、あんなに速くなるのか?

 そんなアイツに俺は勝ったのか。


「⋯事務所に勧誘しとけ?」

「⋯まぁ」


 他も対処が終わり、安全になったところで、とうとう都庁内へと侵入した。

 本番はここからだろう。


 だと数秒前まで、誰もが思っていた。

 ⋯なんだこれは?


 いない。

 上がっても上がっても、何もいない。


「⋯? "赤い発令がされている場所"で、こんな何も無いなんて事があるのか?」

「おかしいですね⋯数時間前まで、"この中は地獄だ"と言われていたのですが⋯」


 主催者同士が声を上げる。

 それに伴い、周囲がざわつき始める。


 その声の中、俺は聞き逃しはしなかった。

 「うっ⋯」という、鈍い声がしたのを。


「な、なにやってんだお前!?」

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然響いた悲鳴。

 固まっていたグループが散乱していく。


「おい! 皆離れろ! おかしなヤツがいるッ!!」


 スエに従い、すぐに全員が後ずさる。

 俺たちもすぐに下がった。

 そこには、"男の腹部へ長い剣を刺したヤツ"がいた。


「貴様! 何をやっているッ!!」


 新宿区の主催者が声を荒げると、


「何って、見て分かるだろ? 楽にしてあげてるんだ、"幸せな麒麟"が」

「なに言ってんだ⋯? 早くその手を離せッ!!」

「⋯ふっ」


 ヤツが笑いだすと、全方面が急に黄色へと塗り変わっていった。


「⋯君しゃがんでッ!! そこに透明人間が剣をッ!!」

「え?」


 アスタの叫び声に、スエは反応出来なかった。

 結果、血しぶきとなってそれは表れた。


「⋯なにが⋯」


 もう遅かった。

 スエの後は連鎖のように最悪な音が伝い、人が次々刺されていく。

 床が大量の血で溢れ始めた。


「早くこっちへ来るんだッ!! そっちにもいるッ!!」

「⋯おいッ!! お前ら指示くらい従えッ!!」


 俺とアスタを無視し、前に進むあいつら。

 ⋯もしかしてあいつらも


 シンズノウの〈虹女神の覇眼〉を使うと、あいつらの近くに3人ほどの透明人間がいた。

 ⋯仲間か


 俺はこれによっていろんな異常を見分ける事ができるが、アスタも似たようなのを使っているんだろうか?

 今はそんなことを考えている場合じゃない。


 全部で15人くらいだろうか?

 透明人間が"黄色のフード"を被り、そいつらが襲っていた。


 〈虹女神の覇眼〉のもう1つの効果で、あいつらの透明化を全て解除してやると、その瞬間、こいつらが誰なのかがすぐに判明した。


 ― 黄色いパーカーを羽織った集団

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