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第48話 疑惑

「ドア、ちゃんと閉まってるな」

「うん、何回も確認した。えらく慎重になるんだね」

「まぁな」


 病室に静寂が漂う。

 俺は"黒い資料"をテーブル上に広げた。 


「なにこれ?」

「さっきアスタから渡されたやつ。"新東大の金庫"にコレがあったらしい。ユキ、あったのは君野研究室だ」

「え? どういう事?」

「あの先生の部屋にこんなのが隠されてたらしい」

「そこからアスタ君が取ってきたってこと?」

「そうなるけど、これはコピー。本物はアスタが持ってる」


 あいつを疑う訳じゃないが、まだ半信半疑なとこはある。

 でも、嘘をつくとも思えない。

 それをしてもメリット無いだろうから。


 ♢


 さっきのエレベーターから出る直前、


「それはルイ君に渡しておくね」

「え、いいのか?」

「うん、それコピーだから。そっちでも調べて欲しいって言っといて、渡さないのも変でしょ。でも僕と君だけだよ、それを今持っているのは」


 そう言って慎重に管理するよう言われた。

 明日盗まれてもおかしくないってあいつは言ってたっけか、厳重に保管しないとだな。


 ♢


「【イーリス・マザー構想の失敗作の捜索について】って⋯なんなのこれ⋯? 失敗作なんて聞いた事無いんだけど」


 ユキが目を見開き、手に取ってページをめくる。


「これ⋯君野先生は⋯全部知ってたってこと?」

「分からない、どこまで知ってたのかは。ただ一つ分かるのは、先生はイーリス・マザー構想の一団ではあったけど、俺たちの味方で間違いないって事。俺の親とも関係が深かったみたいで、俺の事を匿ってくれていただろうし、たぶん」


 この後、何も知らずポカンとした顔をしていたヒナに全てを説明しつつ、"話し合いを続けた。

 ユエさんに聞きに行く前に、情報を整理しておこうと思う。


 ・性別不明

 ・年齢は俺たちに近いかも

 ・東京内にいるはず

 ・記憶におかしな点がある

 ・両親がいない

 ・AIへの依存度が誰よりも強い

 ・質量無い物に質量を与えられる


 一旦こんなところだろうか?

 まだ情報が少ないな。

 体積付与症候群に関しては、まだ嘘だと思ってしまう。


「こんなヤツ存在すんのか? ゲームやマンガじゃねんだぞ?」

「私も信じられません⋯」


 ユキはどう思ってんのかな。

 見ると、ヒナやシンヤとは裏腹に、異様なほど険しい顔をしていた。


「ユキ、どうした?」

「⋯さっきから気になる事があって⋯こんな時にこんな事、言っていいのかな」

「なんだよ、俺たちしかいないんだから気楽に言えよ」

「そうだぜ! 水臭いじゃねぇか!」

「なんでも言ってください、ユキちゃん」

「それじゃ、シンヤ君にいい?」

「ん? 俺か?」


 ユキは直前まで溜まっていたものを捻りだすように、次の言葉を言った。


「先に言っておくと、あなたを疑う訳じゃない。ただ長い付き合いとして、知りたいだけ。この"記憶におかしな点がある"と"両親がいない"ってところ、特にあなたに当てはまらない?」


 次の瞬間、全員シンヤの方を向いた。


「⋯どうしてですか?」


 そうか、ヒナは知らないもんな。


「シンヤ君は記憶喪失で、両親がいないのよ」

「え!?」


 ヒナが驚いた顔でシンヤを見る。

 実は俺も少しその線を考えてしまったが、まぁありえない。

 だってこれは、"総理側に付いてる者のやる事"だからだ。


 もしシンヤが犯人だったとしたら、俺たちを助けるメリットはどこにもない。

 それにこいつはいつも一緒にいたんだ、変な行動があればすぐ分かる。


「こんなのが黒幕だったら、もう諦めるしかないだろ。ユキだって、今までこいつの行動見てきただろ? これは"総理側に付いてるヤツ"だ」 

「はは! ありがとよ、ルイ! キスしてやろうか!?」

「汚ねぇから近付くな」

「酷すぎだろ!? まぁでも、新崎さんの言う事も分かるぜ。これは"前の俺"に当てはまってる」

「"前の俺"?」

「お前らに話してなかったけどよ、実は記憶が戻ったんだよ、"高校卒業後"に」

「そうなの!?」

「おう。俺は大学行かずに、ルイと事務所作って"eスポーツAR部門のプロ"になっただろ? プロ初の大会で優勝した時、脳にイカれるほどの痛みが走ってな、戻ってきたんだ」


 こんなタイミングで、"知られざるシンヤの記憶"について、とうとう聞く事になった。


「けどそいつはよぉ、最悪だったんだ。だって、俺のおとんとおかんは小2の時に起こった新幹線爆破で死んだんだ、俺の目の前で」

「⋯え⋯」

「⋯それって、絶対安全と言われてた"新型の新幹線"が突然爆破したって当時ニュースで見ました⋯今でも鮮明に覚えてます」


 思い出した。

 ネットで調べてみると、当時の記事やニュースが出てきた。


 2017年12月25日、クリスマス当日。

 東京駅目前まで来ていた、"新型のぞみの突然の爆発"。

 死者は300名を超え、500名近くの重軽傷者が出た、"前代未聞の大事故"とある。


 確かにニュースで見た気がするぞ。

 ここにシンヤがいたってのか!?


「⋯ごめんなさい、それなのにわたし⋯」

「いいって! 言ってなかった俺が悪いんだからな!」

「いいえ、こんな"トラウマになる記憶"、人に話したいわけないわ⋯」

「そう思った時もあったけどよ、今はもうネタにしてくれ! それの方が、天国のおとんとおかんも喜んでくれるはずだしな」


 シンヤは底抜けに明るかった。

 少し疑ってしまった自分を殴りたくなった。


「そこからは大きい施設に拾ってもらって、何不自由なく過ごせて今があるんだ。お前らにも会えたし、ひなひーにも会えたし、最高の人生じゃねぇか! 逆にあの事故が無かったら、平凡な人生で終わってたかもしれねぇんだぜ!?」

「お前⋯見直したよ」

「おう! キスして欲しいか?」

「なんでだよ」


 シンヤがいるからこそ、辿り着ける気がしてきた。

 未だ"黒い霧の奥の奥にある真実"に。


 まだ俺たちが掴んでいるのは小さな点かもしれない。

 でも、この点はいつかきっと繋がるはずだ。






 ― ソ コ デ マ ッ テ ル ノ ハ ダ レ ナ ン ダ ?

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