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第41話 真相

 それから俺たちは場所を変えた。

 何で赤ビルに閉じ込められていたのか、紀野大臣は何をしようとしていたのか、どういう関係だったのか、聞きたい事が山ほどある。


「聞きたいって事ですよね。僕がなぜあんなところにいたのか」


 意外にも、その話を切り込んだのは裏部さんの方からだった。


「紀野さんとは仲が良かったんですか?」

「いえ、それが全く。一番"UnRuleのモンスター"に詳しいのが僕だと、どこからか情報を得たようで、拘束されてあの場所へ⋯君たちも見たと思いますが、彼はただネルトになっただけでありません」


 次に裏部さんは衝撃の一言を放った。


「⋯覇天鱗はてんりんローガハルト。三船君が倒したというあの"三翼の天魔神"と同じ立ち位置にいるモンスター、それを自分の表面に憑依させたんです」

「はぁ!? どうやってそんな事出来んだよ!?」


 シンヤが食い気味に裏部さんを問い詰める。


「大臣クラスには"特殊な金と黒のネルト"が用意されているようで、"最強クラスのUnRuleモンスター"を与えられてる人もいるみたいなんです。そのモンスターに対し、これを使ったんです」


 なんだこれ?

 赤い注射器?


「これを当てると、"モンスターを一定の確率で自分の物にし、表面に憑依させる"事ができるんです。でもそれは"ゲーム上の話"であって、現実世界では何が起こるか不明。それを話したら、部下に実験させ始めたんです」

「⋯どうなったんですか?」

「全て失敗し、逆にモンスターに食われました。非常に危険なアイテムと化しているんです、これは。なのに、なぜか自分なら出来ると、あの人だけは成功させたんです」

「とんでもねぇ野郎だなぁ」

「強力なネルトと最強モンスターの2つの力の持ち主、もうどうしようも無かったです」


 紀野大臣は"自信に満ち溢れた人"だった。

 それが前は受けていたけど、最近は時代もあって、存在感が薄れたというかなんというか。

 AIになっても、その性格は受け継がれていたのかよ⋯


「そんな大臣クラスには"23区エリア"を任されているようで、紀野大臣は"渋谷区エリアの原宿"を管理していて、"その管理場所があの赤ビル"なんですよ」


 赤ビルって、"そういう場所"だったのか。

 急に出来たと思えば、そんな事をしていたなんて。

 これに気付いている人はいるんだろうか?


「特に"都心5区"は最近一気に変わって、原宿で"不自然な人通り"があったでしょう?」

「ありましたね」

「あれは"渋谷区エリアの実験"なんですよ。"ナチュラルAI化計画"のための」

「⋯"ナチュラルAI化計画"?」

「なんだそりゃぁ!?」


 聞いたこと無い。

 なんだそれ?

 これ以上聞きたくないような、そんな気持ちが溢れつつも、俺は聞いてしまった。

 "ナチュラルAI化計画"という、あまりにクソイカれた計画の内容を。


「AIが人間のふりをして自然に溶け込み、次第に人間にどっちか分からなくさせ、密かに殺して計画です。今行われているネルトによる食い殺しと人間体への変化は、"その始まり"に過ぎないんですよ」

「なッ⋯!?」

「い、意味分かんねぇって!? なんでそんな事しようとしてんだよ!?」

「まだそこまでは分かっていません。ですが、何となく気付きませんか? この新経済対策と、このナチュラルAI化計画を踏まえて考えるとその意味が」


 ⋯何となく分かる気がする

 人間を消しつつ、残った金を回収し、違和感なく人間界に溶け込んでさらに消していく。

 仮説だが、こんな感じだろう。


「始まりの新経済対策、終わりのナチュラルAI化計画、それらを総称して、総理は"ホワイトシンギュラリティ・プラン"と呼んでいるそうです」


 その瞬間、全身に悪寒が走った。

 これが表すのは、いつどこで殺されるか分からないだけでなく、例え生き残ったとしても、あのAI総理がいる限り、そんな世界で生き続けないといけないという事。


 ⋯常に見られている、アイツらに


「終わってんだろそんなの!? だったら金だけ回収でもしときゃいいだろ!!」

「私もそう思ったけど、いつ問題が起きるか分からない存在は放っておかないっていう、AIの最適解なんでしょうね⋯」


 ユキが声を抑えて言う。


「マジで終わってるって⋯だったら生き残ったり倒したりして金を支給されてる、これはなんなんだよ⋯」

「⋯こんなのは誰がどう見てもイカれてる。最後まで生き残っても、結局は同じ結末。やっぱり誰かがアイツを止めないといけない」


 怒りが込み上がってくる。

 やっぱりアイツを壊さない限り、何も変わらない。

 最悪生き残ればなんとなるなんて気持ちもあったけど、たった今その選択肢は潰された。


 ⋯やらなきゃやられる。

 この"新経済対策の真相"を知った今、やる事は本当に一つに絞られた。


 なら、"UnRuleモンスター"に詳しいこの人に、今のうちにいろいろと聞いておかないといけない。

 紀野大臣に気に入られた裏部さんだからこそ、さらに分かる事もあるはずだ。


 深夜にも関わらず、さらに議論は続いた。

 明日からの俺たちの行動は、より濃くなっていくと思う。

 それでも、リスクを取らなきゃ死ぬだけだ。


 ♢


 帰り際、3人と一旦別れた後、


「ヒナ、聞こえてたか?」

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