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第39話 横顔

「いよいよ明日なんですね」


 ⋯ん⋯

 ⋯ここは


 ⋯なんだここ?

 "研究室?"

 そこに俺はなぜか立っていた。


 体を動かそうとすると、全く動かない。

 今、俺はどうなってる!?


「あのー、所長」


 "所長"?

 え、俺!?


 なんで"所長"って呼ばれてるんだ?

 そんな呼ばれ方なんてされた事無いぞ?


「私が行かないでって言ったら⋯"ここ"にいてくれますか⋯?」


 さっきから話しかけてくる"この人"は誰だ?

 ユキに少し似ているかも。

 眼鏡を頭にかけ、ラフな格好をしている。


 行かないでってなんだ?

 意味が分からない。

 それより、俺って生きてるんだよな!?


 ついさっきまで、確かに紀野大臣と戦っていた。

 その感覚は今でも脳に焼き付いている。


 でも、"この体"はなんだ?

 まるで"他人視点を見ている"ようなこれは。

 ってか、目の前のこの"ヤバそうな機械"はなんだ?


「(⋯うッ!?)」


 突如、辺りが強烈な光に包まれた。

 徐々に光は消えていき、少しずつ目が開けられる。


 そこは、"どこかの墓場?"だった。

 打って変わって静寂が漂う。

 "俺?"が勝手に線香を置き、視線を上げた先には"名前"があった。


 そこには⋯




 【 新 崎 ユ キ 】




 ⋯は?


「また来てたんですね、こんな夜中に」

「⋯」

「どうしても、"あの場所"に戻るんですよね」

「⋯」

「いくら止めても、行くんですよね」

「⋯」

「だったら私、決めましたッ! 私も一緒に行きますッ!」

「⋯」

「どうしてダメなんですか!? 私が邪魔だからですか!?」

「⋯」

「ならどうして!?」

「⋯」

「⋯所長⋯」

「⋯」

「分かりました。なら、一つだけ約束してくださいね」

「⋯」

「必ずまた一緒に研究すること! それまでは私が代わりに、お墓参りしておきますね」


 そう言うと、彼女が"他の墓"に線香を置き始めた。


 【 町 田 ヒ ナ 】


 【 有 川 シ ン ヤ 】


 【 白 石 ア ス タ 】


 【 三 船 ノ ノ 】


 この"墓"はなんなんだ⋯?

 分からない。

 何も分からない。


「(うッ!! またッ!!)」


 考えていると、また辺りが強烈な光に包まれた。

 その先はさっきの"研究室?"へと移動していた。

 "俺?"は勝手に歩き始め、"ヤバそうな機械"へと近付く。


「それでは、準備はいいですか」


 "ヤバそうな機械"が突然動き始めた。

 あらゆる部分が高速回転し、中心と思われる部分に集約されていく。

 どうやら数十人規模で動かしているらしい。

 『こちらからお乗りください』というアナウンスが急に響くと、不思議な形をしたドアが開きだした。


『この後悔旅行は〈2030年9月27日20時36分〉へ設定されました。只今の成功確率は0.000014%となります。非常に危険なため、今すぐ停止する事を推奨します』


 ⋯おい、こいつ!?

 アナウンスは停止しろって言ってるだろ!?

 "俺?"は"ヤバそうな機械"へと躊躇なく歩き始めた。


 さっきから止めようとしても、何も言う事を聞かない。

 勝手に動くなよ、止まれってッ!!

 次第に機械の内部が見え始め、中では【Extreme Danger】という文字が凶悪な色で光り続けている。


 止まれよッ!!

 止まれよってッ!!

 くそッ!!


 結局どうにもできず、この中に入ってしまった。

 "俺?"は胸ポケットから1枚の何かを取り出すと、それは"俺とユキ"が笑顔で映っている写真だった。


 あれは小学校卒業の時に撮った写真⋯!

 やっぱり今の身体は俺なんだよな!?


 その下に現在時刻が書いてあった。

 〈2035.09.27 PM22:13〉とある。


 ⋯は!?

 5年経ってる!?


 俺はあの後5年間眠って⋯?

 いや、それだとおかしい。

 さっきから目の前で起こっている事、全部が現実的じゃない。


 そう仮定すると、一つの答えが出てきた。

 ⋯5年後の未来を見ている、とか?

 何故見られているのかは不明だ、でももうそれしかない考えようがなかった。


 "俺?"は上を向くと、強烈な赤い光に照らされ、ドアの閉まる音がした。

 その瞬間、誰かに抱き着かれた。


 激しい機械音と供に、彼女の体に異常が起き始めた。

 足から分解されていくように、砂状へとなっていく。


「えへへ⋯ダメ⋯でしたね⋯私は」

「⋯」

「⋯所長⋯もう⋯下を向いちゃ⋯ダメですよ⋯?」


 彼女の何もかもが分解されていく。

 なのに、彼女は最期まで笑顔だった。


 赤い光が消えると、お面のようにして残った頭蓋骨の破片。

 俺はこれを見た事があった。


「(これは"アイツ"の⋯!!)」


 起きるあの頭痛。

 その時に現れる"白いアイツ"はいつも"これ"を付けていた。

 "俺?"は数滴の涙を落としているように感じた。


「⋯」


 頭蓋骨の破片を拾うと、顔へと近付ける。


『(⋯わたしを⋯つれていって⋯くれるんですか⋯)』


 !?


 背後から"死んだはずの彼女の声"が聞こえた。

 束の間、透けた彼女の手が"俺?"を包んだ。


『(大丈夫です⋯なんたって⋯AI総理を倒した"超ヒーロー"⋯なんですから⋯)』


 今、AI総理を倒したって言った!?

 5年後の"俺?"は倒しているのか!?


 すると、"俺?"の姿が鏡に映る。

 それは何度も見た"あの姿"だった。

 だが、一つ違った。


 "全身真っ白い服"。

 左右には"二つの銃剣"。


 閉まったドアが開いていく。

 俺は白い光に遮られていった。

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