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第37話 新生

 このUnRuleはそもそも前提が狂っている。

 "何か"によってリアル化されてしまった事で、実体への負担があまりに大きすぎる。


 本当はこんな事なく、作られたはずだ。

 ズノウも身体をここまで酷使せず、ちょっとの動きで実現されていたと思う。

 誰でも出来るよう自動調整され、アシストも細かく効き、こんな事にはならなかっただろう。


 それが全て不明瞭になり、その"不明瞭なモノ"で対応しなければならず、いくらAR慣れしていても限界がある。

 特にヤツと対峙して感じた、あの天魔神よりも強いヤツにこれ以上はもう⋯


 俺には⋯

 ふらつき、倒れそうになった時、


「⋯うッ!!」


 またあの頭痛が始まった。

 いい加減にしろ。

 どこまで苦しめる?


 歪んだ視界の先に、また"白いアイツ"が立っていた。

 右手には"あの銃剣"。


「⋯いい加減にしろ⋯誰なんだお前ッ!!」


 ヤツがこっちを見る。

 その瞬間、銃口が俺へと向けられた。


「⋯俺を⋯撃つのか⋯?」


 ヤツは喋らない。

 静観だけを続ける。


「⋯ッ!!」


 限界を貫き、七色蝶の銃口をヤツへと突き付ける。

 二つの銃剣が呼応するように、お互いの羽根が激しく輝いた。


 すると、ユキの笑った顔、ヒナの明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、デジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。


 次第に、ユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。

 色んな人の喜んでいる様子が、俺たちの周りを回り続ける。


「⋯ルイ⋯わたし⋯いっしょにいたい⋯いきて⋯いっしょに⋯いたいよ⋯」


 最後にユキの声が響いた。

 一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。


「ユキ⋯俺は⋯」


 倦怠感や痛み、寒気や痺れが動きの邪魔をする。

 どこまでも纏わりつく。

 それでも、


「⋯ぐっ⋯」


 引き金を強く握った。


「⋯お前もヤツも⋯超えるッ!!!」


 同時だった。

 俺とお前。

 トリガーを引いたのは。


 現実世界へ戻ると、俺の銃剣は粉々に割れていた。

 なんで⋯俺の⋯

 と思った時、ズノウが全て搔き消され、一つだけ"消えかかった虹の項目"が現れた。


 〈大蝶だいちょうから虚無限蝶きょむげんちょうへの新生しんせい

 〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉


 〈大蝶だいちょうから虚無限蝶きょむげんちょうへの新生しんせい

 〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉


 〈大蝶だいちょうから虚無限蝶きょむげんちょうへの新生しんせい

 〈螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕〉


 それは砂嵐を繰り返し、文字化けと交互に表示された。


 まだ⋯やれる⋯?

 コイツは⋯俺をまだ⋯


 限界をとうに超えた俺の脳は、勝手に選び取っていた。

 その瞬間、割れた銃剣から"新しい蝶の羽根"が生えた。


 羽根は粉々になった銃剣を取り込むと、"0の形をした銃口"から姿を映し出していった。

 銃剣腹部からは"カーテンのような光"が左右へ溢れ、羽根は輪郭以外が空間となって"∞のような形"へとなっていく。


 これはあの"白いアイツ"が持っていたものと全く同じ物だった。

 ズノウは"シンズノウ"へと上書きされ、新たに追加されていく。

 俺はその中から1つを選んだ。


 〈これは身体が耐え切れず、焼身する可能性があります。それでも使いますか?〉


 もうここにはいられないかもしれない。

 もうみんなと一緒にいられないかもしれない。

 全てを覚悟した俺の脳は、〈はい〉を押した。


 〈インフィニット・ネオシンギュラリティドライブ〉によって、人体損傷を無視した行動が始まった。

 ヤツか俺が倒れるまで、無限に攻撃し続ける。


 俺の銃剣は"不可解な点滅光"を左右から噴射し、外観をグリッチ状にしながら振り回された。

 振り回すたび、"∞模様と0模様の粒子"を発する。


「死刑ノ邪魔ヲスルナァァァァッ!!!!!!」


 ヤツも今までに見せていない"黒炎を纏った赤鋭刃"と、人間離れした速さで追い付こうとしてくる。

 今まではまだ手加減していたのか、温存していた全てを放ってくる。


 対抗しようと、全身に焼けるような痛みが駆ける。

 死ぬほどの頭痛が「これ以上やればお前は死ぬ」と、訴え続けてくる。

 なのに、何もかもを無視する俺の意志は、止まる事を選ばなかった。


 手の感覚なんてとっくに無い。

 あるのは"理不尽ヲ壊ス覚悟"。


 この戦いは、ほんの少し俺の覚悟が上回っただけだと思う。

 22撃目から付いてこれなくなったヤツは、"ある事"を囁きながら砂のように粉々になった。

 確かに聞こえた、「ソウカ、オ前ハ総理ノ⋯」という声。


「⋯おいッ!!! 大丈夫か、ルイッ!!! おいッ!!!!」

「⋯」

「おい、ルイッ!!! おいッ!!!!」


 シンヤの最後の声の後、全てが真っ暗になった。

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