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第36話 法務

 刹那、俺と大臣の鋭利な刃がぶつかり、強烈な火花が舞った。

 あまりの速さに、そう対応せざるを得なかった。


「オ前ハ付イテクルカ」

「⋯んぁぁぁッ!!」


 叫び、どうにか押し返す。

 さらに返してこようとするが、他3人による一斉攻撃によってそれは阻止された。

 大臣は後ろへと大きく飛び、距離を取ろうとする。


 ⋯ここしかない!

 ズノウの〈壊滅虹一波アークデストラクション・ワン〉を即座に解き放つ。


 両手持ちになった丸いイーリスから、溜め込まれた激しいスペクトラムが一気に射出された。

 どこからどう見ても大臣の全身に直撃したそれは、大きな光爆を起こす。


 三翼の天魔神の時、片腕を吹き飛ばすほどの威力だったんだ。

 相当の致命傷をこれでくらわすことが出来た、そう感じていたのは俺だけじゃなかったと思う。


「なっ!?」


 煙幕の中、飛んで来たのは"無傷のヤツ"だった。

 黒い鱗纏ったヤツは、冷静な様子に変わりない。


 どういうことだ!?

 なんであんな平気な!?


 考える隙など無いまま、ヤツが真っ先に捉えたのは、なんとユキだった。

 一歩遅れた俺の行動は、ユキには届かなかった。


 さっきまで片手のみだった"赤いクリスタル状の鋭刃"は、気が付けば両手に持たれており、それらによってユキは大きく後ろへと吹き飛んだ。


「ユキッ!!!」


 声空しく、勢いのまま壁へと強く打ったユキは、頭部から流血し、ぐったりするように倒れた。

 気にする暇など与えられず、次に狙われたのはヒナだった。


 ヒナの強力な白い雨も光の槍も、全てが"障壁?"のようなもので弾かれ、一瞬で迫られる。

 くそ⋯これじゃ間に合わないッ!!


 ⋯そんな限界、誰が決めた?

 俺は⋯違うッ!!!


 両足が焼き切れたかと思うほどの超反応を起こした俺の身体は、一瞬にしてヤツとの距離を詰めた。


「ナニ!?」


 "七色の炎を纏った光刃"が現れ、蝶の羽根が燃え盛る。 

 大きく反った俺の上半身は、感覚が分からなくなるほどの速さで連撃を繰り出した。


七色蝶新星セブンズ・スーパーノヴァ〉と〈七色虹炎刃セブンズ・インフレイムエッジ〉を組み合わせたそれは、9Fで得た新システム。


 〈七色虹炎刃セブンズ・インフレイムエッジ〉を3回連続で行う〈七色虹炎三重刃セブンズ・インフレイムエッジ・トリニティ〉は、止まる事無く21連撃を発する。


 だが、違和感があったのは1ループ目が終わった後だった。

 なんとコイツは、この速さに追いつき、どこまでも防いできた。


 2ループ目から最後までは、ヤツの身体に届いておらず、致命傷にもなっていない。

 横から来る二人の追加攻撃さえも読んで対応され、ただ俺の疲労感だけが蓄積されていった。


「⋯はぁ⋯くっ⋯」

「危険ナ男ダ、失セロッ!!」


 不意に鋭刃を投げられ、何とか気力を振り絞って避ける。

 しかしそれは囮であって、本当の狙いは"彼女"だった。


「ッ!! ヒナぁぁぁッ!!!」


 俺の隙を狙ったアイツは、シンヤとヒナの連携を掻い潜り、とうとうヒナに強烈な蹴りを入れた。

 肝臓深くへと入ったそれは、「おえっ」という鈍い声と共に、ユキの近くへと飛ばされた。


 彼女は激しく嘔吐し、切れた唇からだらだらと血を垂らしている。

 「ごめん⋯なさい⋯」と力無き声が聞こえ、次第に動かなくなっていった。


「⋯ヒ⋯ナ⋯?」


 俺の脳は、突然シャットダウンを始めた。

 視界が消えていく。


 ⋯俺は何をしてきた?

 連れて行くんじゃなかったのか?


 ユエさんの声が微か聞こえる。

 小さな視界には、二人に応急措置をしている姿が映る。


「⋯なにしてやがるッ!! お前ぇぇぇッ!!!」


 シンヤがヤツへと反撃するが、何も通っていない。

 あの赤い銃はELの武器じゃない。

 あんなものでは、通用するわけがない。


 それでも持ち前の身体能力で、血を吐いて倒れても、何度も立ち向かっている。

 諦めないシンヤを前に、俺は何をしてきた?


「なにしてんだルイッ!! 突っ立ってんじゃねえッ!! やるんじゃなかったのかよッ!!!」


 シンヤの必死な声が聞こえる。

 でも⋯俺は⋯失敗した。


 体力限界のズノウを使った。

 身体がもう言う事を聞かない。

 全身に尋常じゃないほどの倦怠感と痛み、寒気と痺れまで起きていた。

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