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第35話 死刑

 さらに長いエスカレーターの先。

 最上階には、紀野大臣が座って待っていた。

 大臣はガラス超しに竹下通りを見下ろしている。


 クリスタル状の赤いデスクには、【法務大臣 紀野裕司きのゆうじ】と書かれた木彫りのネームプレートや様々な物が置かれ、デスク横には日本国旗が掲げられている。

 そうそうに一般人が入れない厳格な雰囲気がここには漂っている。


「おいッ!! そっから呑気に俺たちを弄びやがってッ!! 裏部さんをどこにやったんだよッ!! おっさんッ!!」


 そんな雰囲気など、1ミリも気にする様子も無いシンヤが一言を投げかけた。

 すると、


「おっさん? 誰のことを言っている?」

「あんた以外誰がいんだよッ!!」

「おい、シンヤ。まぁ落ち着けって」

「ふん。私の事をそう呼ぶのは、君が初めてだな」


 座っているクリスタルチェアを回転させ、とうとうこちらを向いた。

 何かを見通すようなあの鋭い目つき、やっぱりこの人は見るだけで畏怖する。

 高圧的なその有様からは、まるで圧迫面接を受けさせられているように感じた。


 これが法務大臣という立場に就き、法を管理してきた人間の権力の有様なんだろうか。

 いや、この人がそういう性格の人なんだ。


「普段ならば黙れと一掃するところだが、今回は特別だ。ここまで来た君らに一つ提案をしよう」

「⋯提案ですか?」


 黙っていたユキが口を開く。


「君たちを"例外有能者"として総理に推薦しよう」

「は、はぁ!!? 総理に推薦だぁ!!?」

「えぇ!!?」

「(⋯これって、"チャンス"ってこと?)」


 真横のユキが耳へと囁いてきた。


「(⋯分からない。とにかく最後まで聞こう)」


 この人の考えがまだ分からない。

 どこまで本当で、どこまで先を考えているのか。

 ここはよく最後まで聞いた方がいい。


「総理は有能な人間は残そうと考えている。その有能と考えられる要因を占めるのは、"理不尽に対して抗い、改革を起こしていこうとする力"だ。それはどこまでも自分を成長させると言われている」


 紀野大臣は立ち上がると、再び背を向けた。


「だが、その力の本質を知る人間が何人いる? 行動に起こせる人間が何人いる? おそらく東京人口の0.01%にも満たないだろうな。つまりは何が言いたいかというと、君らは"その枠"に入っていると私は思う」


 ⋯なんだ!?

 なんかここ動いてないか!?


「うおぉ!?」

「なに!?」

「足場動いてますよね!?」


 突如足場が動き、大きなテーブルとイスが用意された。

 これはなんだ?

 座れとでも言っているのだろうか?


「まぁ座り給え、今はやり合うつもりはない。"裏部タキトの居場所"も探りに来たんだろう?」


 大臣が示したのは、奥のミラーガラスだった。

 どういうことだ?

 あれは"ただのガラス"じゃなかったのか?


『あの先に"裏部"がいるということで?』

「その通り、ドクター飯塚」

『わ、私のことをご存知で!?』

「まぁな、私もかつては国家研究員をしていた事もある。君ほどの者は声で分かる」


 その後、紀野大臣はさらに話を続け、


「さて、先程の件に話を戻す。総理に推薦する件だが、これには"一つ条件"をのんでもらう」

「"条件"?」

「まぁそう硬く構えるな、"悪い条件"では無い。それは"総理の施す実験"になってもらうという事だ」

「⋯それはどういった内容ですか?」

「総理は"有能者の構造"を把握したいとも考えておられる。ただの烏合の衆では無く、"特に君"のような」


 一気に俺へと視線が注がれる。


「その"七色の眼"といい、動きと判断力、まだ若さゆえに粗い部分はあるだろうが、"他に無い素質"を感じる。そんなレアな人体構造を知りたいと、総理は仰るだろう」

「それは"解剖の実験体"になれ、と?」

「恐れる事は無い、私たちAIはミスなどしないのだから。例えしたとしても、それは即座に修正されていく。それほど悪い事にはならない、衣食住と他欲しいもの全ても用意しよう」

「だってよ、お前AIに気に入られてんな」


 向かい側に座るシンヤが口を開いた。


「他人事じゃないだろ、結局ここにいる全員そうなる」

「だったら、"答えは一つ"、だろ?」


 シンヤは、そっと銃を出現させた。

 やる覚悟はできている、と。


 俺が最初に立ち上がり、銃口を大臣へと向けた。

 その瞬間、七色蝶の銃剣が強烈に光った。


「"それ"を選ぶか。私がAIだと、知ってしまったからか?」

「いいえ。あなたがAIだろうと人だろうと、俺たちは"あの総理"には従わない、そう決めたからです」

「ふん、良い面をしているな。どこか総理のような、いや、これが"例外有能者"たる所以か」


 紀野大臣は立ち上がると、足場を変え始めた。

 辺り全体が展開図のように広がっていく。


「な、ななな、なんですかこれ!?」

「どうなってるの!? この部屋!?」


 展開し終わる時、そこは大きな屋上のようだった。

 完璧なプロジェクションマッピングが施され、床以外は東京の夜景のような景色一面が広がっている。


「法務大臣という役職は"ある命令"を下す事が出来る、それは知っているか?」


 紀野大臣が全身を金と黒へと染めていく。

 全てが覆われた時、それは"本当の姿"を現した。


「ソレハ死刑執行。オ前タチノ死刑ヲ只今カラ開始スルッ!!!」

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