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第34話 神明

 エスカレーターを上る度、徐々に薄暗さが増していく。

 危険なのかどうか、常にユエさんが教えてくれるからスムーズに戦いやすい。


 今の時間は12時。

 前までだったら、ゆっくり食事をしたり、ゲームしたり、そんな日々を送ってるんだろうか。


 そんな日常はもう存在しない。

 死なないようにはどうすべきか、総理を止めるにはどうすべきか、それらが今の俺たちを覆っている。

 この"死のヴェール"が拭える事は今後無い。


『⋯ここはちょっとヤバいかもしれないわね』


 9F付近へと足早に行ったユエさんから警告が入る。


「どんなヤツがいるっすか!?」

『あれは⋯"神明官フォルセティウス"。三翼の天魔神ほどではないけど、厄介なボスモンスターね』

「なんでもかんでもしやがってッ!! あのクソジジイッ!!」

「勝てるでしょうか⋯? ルイさん⋯」


 ヒナが不安そうな表情でこっちを見る。

 ユキまで俺の方へと視線を移す。


「俺が前で戦う。怖けりゃ下がってていい」

「でも、ルイにばかり任せるわけにはいかないわ。あまりに負担が大きすぎるもの」

「車内でも少し教えてもらいましたけど、この槍の元のモンスターの時はどうやって戦ったんですか?」

「あー、アイツはルイが"一人で"やっちまったんだよなぁ」

「え!? 一人で!?」


 仰天した目でヒナが見てきた。


「皆のおかげだよ。他を全部やってくれたから、俺はなりふり構わずやれたんだ」


 あの時の事が脳裏で再生される。

 俺は結局ずっと引きずっている、"あの人"の事を。

 察するように、シンヤが肩に手を置いてきた。


「次は大丈夫だって、な?」

「⋯」


 ユキまで俺の肩に手を置く。

 いつまでも引きずってられないのは分かってる。

 ⋯分かってんだよ


 長いエスカーレーターが終わりを迎え、ついに9Fへとやって来た。

 10mほど先に、"金色の何か?"が椅子に座って待っているのが見えた。

 目をこらして見ると、明らかにヤバい見た目をしたものがいた。


『アイツの攻撃は2つだけ知ってる。"同じモーション"なんだけど、光り方で違うの。青い方は"地面からジグザグに"炎が沸いて、紫の方は"天井からジグザグに"炎が降って近付いてくる。他は、裏部がいれば分かるんだけど⋯』

「後はやって覚えていくしかないってことですね」

『えぇ。私のこのプロトロアだと、ここからはもう付いていけないわ、ごめんなさい⋯でもあなたたちなら、すぐ対応できるはずよ』

「⋯ここからはユエさん無し、か」


 俺が言うと、


「まぁここまで来てんだ!! いけんだろ、俺たちならよぉ!!」


 シンヤが鼓舞するように大声を上げた。


「⋯まぁ、なんとかなるんじゃない? そりゃ怖いけど」

「ルイさんがいますから、私は信じてます! 攻撃避けれる自信ないですけど⋯」

「おいおい俺もいるぜ!? ひなひー!?」

「そ、そうでしたね?」


 この先に裏部さんがいる。

 ⋯総理をぶっ壊すには必要なんだ

 もう覚悟を決めて行くしかない。


「俺が最初に様子を見るから、そこから始めるぞ。ヒナは俺がカバーする」


 各々が返事する。

 ここから先は1つでもミスればたぶん死ぬ。


 本当はみんな怖いはず。

 やりたくないはず。

 それでも、前を向いている。


 ⋯連れてってやる

 全員をこの先に。


 〈恐虹離散放ドレッドアーク・ディスクレティ〉の初撃から戦闘は始まった。

 散らばった色彩砲が一気にヤツの全身へと直撃する。

 ヤツはくらった瞬間立ち上がり、反撃の様子を見せた。


「くるぞッ!! 注意しろッ!!」


 とにかく俺が前線に立ち、ヘイトを買い続けなきゃいけない。

 少しでも距離を離せば、アイツは他へと攻撃しようとする可能性が高いからだ。

 だったら、武器による恩恵が強い俺が受けた方がいい。


「⋯ッ!!」


 俺は至近距離で、次々ズノウを放った。

 なるべく体力消耗を少ないのを選び続ける。


 今、強力なズノウを使い続ける訳にはいかない。

 また動けなくなったら、元も子もない。


 その後、ついにユエさんが言っていた攻撃が来た。

 あの"青いの"は⋯下からジグザグに炎が沸いてくる。

 準備時間の隙を見て一旦離れた俺は、ヒナのとこへと滑り込んで抱えた。


「うわぁ!? ルイさん!?」

「アイツの攻撃をよく見といてくれ! たぶん次はここに来れないッ!!」

「は、はい!」


 自信が無いヒナを補い、次からは自分で対処してもらう。

 そうするしかないと思った。


 ヒナは動きも軽いし、判断も良い。

 一回見れば案外どうにかなるはずだ。


 ユキとシンヤは今までの経験からの慣れがある。

 二人だったらどうとでもしてしまうだろう。


 ここはヒナを助ける事に徹底した。

 予想通り、二人は上手い事避けている。


「悪いな、急にこんな事して」

「い、いえ!」

「終わったらセクハラで殴ってくれていいから」


 その後は意外にも、俺単体を狙うばかりだった。

 体を捻らせ、バク転や側転、なんとか間一髪避けていく。

 これなら、避けれられない範囲じゃない。


 だが、さっきからおかしな点があった。

 黄金体であるヤツは、なぜか怯み一つ見せる様子が無い。


「硬すぎだろッ!! んだよこれッ!?」


 シンヤが走りながら叫ぶと、


『そいつ! "怯まないスキル"を持ってるみたい!! 何体かがそれを持ってるの!!』

「なんすかそれェッ!!」


 撃つ威力を増し、さらに追撃しだした。

 手を止めれば、アイツに楽させてしまう。

 もちろん俺も止める事は決して無い。


「同じ攻撃を連続で出すと、はじかれますッ!!」

『それもまたアイツのスキルよ!! そういうのを持ってるヤツもいる!! 違う技を組み合わせて畳み掛けて!!』

「卑怯なのを何個も何個も使いやがってッ!! オラァッ!!」


 雨のように光の槍を降らすヒナと、まるでガトリングのような連射を始めたシンヤを横に、ユキが走って迫ってきた。


「ルイッ!!」


 呼び声の方に向いて俺は頷くと、俺はユキの後ろへと移動。

 さっきからユキはシンヤの援護や俺の援護と、様々な距離から戦ってくれている。


 そういった連携で結構な時間が経った時、とうとうヤツの黄金体にヒビ割れが見え始めた。

 それに伴い怯むようにもなったヤツは、ユキの凄まじい氷斬撃によって、たった今よろけだした。


「ユキッ!! 下がれッ!!」


 見逃さなかった俺は、最後に〈細虹伝染リトルアーク・インフェクション〉を叩き込んだ。

 光った七色蝶の羽根から細かな鱗粉が幾つもヤツへと注がれていく。


 数秒後、たちまち連鎖のように大爆発していった。

 豪爆が全身に周ると、ようやくヤツは霧のように消えていった。

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