「ほぉ、私を知っているかね。近頃の若いのは、政治家など興味無いと思っていたが」
⋯鋭い目つき
まるで俺たちの内側を見抜くような⋯
この人は圧がヤバい。
テレビで何度か見た事がある。
確か、法務大臣をしている人だ。
「⋯紀野さん、あなたは"まだ人"ですか?」
「気になるかね? なら、"ここ"なら全てが分かるかもしれないな」
その瞬間、赤ビルのドアが開いた。
あれだけ開かずの間だった場所なのに。
時間は"PM10:00"を示している。
「来ないのか? 用があるんだろう? この中に」
⋯なんなんだこの人
俺たちのやろうとしている事に気付いている⋯?
紀野大臣は驚く様子もなく、毅然と中へ入ろうとする。
「⋯オーラヤベぇな」
「怖い感じ、しますよね」
シンヤとヒナがひそひそと話す。
どちらにせよ、俺たちは中へ行くしかない。
「行きましょう、私たちも」
「⋯選択肢は無いしな」
こうして俺たちは、連れられるようにして、とうとう"赤ビルの中"へと入った。
そこで待っていたのは、"異世界のような空間"だった。
「んじゃこりゃぁ!? こんなん誰が好きなんだよぉ!?」
上を見て叫ぶシンヤ。
それもそうだ。
天井には"L.S.のクソデカい版?"のようなものが、俺たちを見下すようにぶら下がっている。
周りはどこまでも赤黒い壁。
さらには、不規則に散りばめられた"赤いクリスタルの置物"。
これ以上は言葉では表しにくい。
右端にはエレベーターと思われるものが見える。
そこが開き、紀野大臣が先に入っていくと、
「悪いが、一般人は"階段とエスカレーターのみ"になっている。全てを知りたいなら、最上階まで上って来たまえ。"上がれるなら"、だが」
そう言い残すと、一人乗って行ってしまった。
「お、おいッ!! コラッ!! 俺らは乗れねぇってどういうことだよッ!!」
シンヤがエレベーターを無理やり開けようとするが、ビクともしない。
奥にある"階段とエスカレーター"でしか、本当に上がれないのか?
引き返す事ももちろん出来ない、次にこのドアが開くのは4時間後の14時だ。
「どうする?」
「どうしますか?」
ユキとヒナが同時に俺の方を向いてくる。
やっぱり俺が決めるしかないか⋯
まず、このビルは"10F"まである。
なぜなら、"エレベーターの階数表記が10"まであるからだ。
次に、紀野大臣が「"上がれるなら"、だが」と言っていた事からして、もし普通に1階ずつ上がったとすると、何事も無く行けるとは思えない。
つまりは、あの人を"人間では無い"と仮定して進む必要がある。
考えていると、後ろから"青い何か"が歩いてきた。
あれ、これってユエさんの!?
『上って様子を見ていくしかなさそうね』
「この声、ユエさん!?」
『"プロトロア"で後を付けさせもらったわ、邪魔にならない距離でね』
なんと、プロトロア1体がユエさんの声で喋っている。
あの眼のAIカメラで俺たちを見ているようだ。
「体調は大丈夫なんですか!?」
『動くのは難しいけど、これくらいならできるわ。こっから先は私が先頭行くから、囮に使ってちょうだい』
プロトロアことユエさんは『慎重に行きましょう』と言うと、エスカレーターへと乗って行ってしまった。
「んだよ、頼もしいじゃねぇか! 俺らも行こうぜ!」
まさかのユエさんが途中参加し、5人でここを上る形となった。
1~8Fまでは、予想通り戦闘を強いられた。
それぞれ20体以上のネルトやUnRuleモンスターが配置されており、常にモンスターハウスのような状態だった。
だとしても、こんなとこでひるんでなんていられない。
帰る事は出来ないんだ。
俺とユキ、ヒナとシンヤのツーマンセルを組み、次々とヤツらをなんとか薙ぎ払っていった。
こういったARゲームのようなヤツは、散々やってきたからな。
やり方さえ分かってくれば適応は出来る、例えそれが、リアルだとしても。
ヒナも配信で、よくこういうゲームを遊んでいたというのが大きい。
ただ、3階と6階は様子が全く違った。
いわゆるボス部屋?のような雰囲気が漂っていて、他より部屋全体が薄暗い。
前方奥に"1体大きいの"がおり、それはあの"赤いネルト"が毎回
待機していた。
初めの頃は苦戦したアイツだったが、ズノウを駆使すると難なくやれた。
ここで一つ分かった事がある。
ネルトというこの"人食いアンドロイド"、食う前の姿は大したことない。
アイツらは食ってからが、特に厄介になるようだ。
「よぉぉぉし!! これで8FはOKかぁ!?」
「あぁ、もう大丈夫だろう」
「さすがにちょっと疲れてきましたね」
「ね、ちょっと休憩してから上に行きましょ」
『なら皆、これを食べるといいわ』
プロトロアのお腹から、"細長い固形物?"が出てきた。
所々に"水分の塊?"のようなものがある。
「おぉ! こいつぁなんだぁ!?」
「見た事無い形してますね」
『非売品のハイパーフード、"ウォートリズム"よ。三大栄養素と水分を摂取出来るように考えたスナックなの。疲労回復効果もあるわ。ちょっと前に興味があって、知り合いの栄養士と作ったのよ』
「ユエさんはこんなのも出来るんですね」
『研究してると時間無くて、片手間に簡単に食べれるものが欲しくなるのよ、それの完全版がこれ。さぁ、みんな食べて』
「ありがとうございます、いただきます」
見た目は結構美味そう。
これ販売してたら普通に買いたいかも。
頬張ると、味はレアチーズ?
それっぽいスイーツの味がする。
後味に、邪魔にならないようにと工夫された水分が入ってくる。
スキマ時間に食うには、めっちゃいいな。
ってか、プロトロアのお腹って保冷庫になってんのか。
通りで冷たくて食べやすいわけだ。
「うーっし!! 俺はいつでもいけっぞ!!」
「私も大丈夫」
「⋯いけます!」
『残るは後2階よ! 9Fにはまた"赤いヤツ"がいるかもしれないから、ここが踏ん張りどころ! 危ないと思ったらすぐ下がりなさいね!』
「ありがとうございます。それじゃ、行こう!!」