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第33話 赤都

「ほぉ、私を知っているかね。近頃の若いのは、政治家など興味無いと思っていたが」


 ⋯鋭い目つき

 まるで俺たちの内側を見抜くような⋯

 この人は圧がヤバい。


 テレビで何度か見た事がある。

 確か、法務大臣をしている人だ。


「⋯紀野さん、あなたは"まだ人"ですか?」

「気になるかね? なら、"ここ"なら全てが分かるかもしれないな」


 その瞬間、赤ビルのドアが開いた。

 あれだけ開かずの間だった場所なのに。

 時間は"PM10:00"を示している。


「来ないのか? 用があるんだろう? この中に」


 ⋯なんなんだこの人

 俺たちのやろうとしている事に気付いている⋯?

 紀野大臣は驚く様子もなく、毅然と中へ入ろうとする。


「⋯オーラヤベぇな」

「怖い感じ、しますよね」


 シンヤとヒナがひそひそと話す。

 どちらにせよ、俺たちは中へ行くしかない。


「行きましょう、私たちも」

「⋯選択肢は無いしな」


 こうして俺たちは、連れられるようにして、とうとう"赤ビルの中"へと入った。

 そこで待っていたのは、"異世界のような空間"だった。


「んじゃこりゃぁ!? こんなん誰が好きなんだよぉ!?」


 上を見て叫ぶシンヤ。

 それもそうだ。

 天井には"L.S.のクソデカい版?"のようなものが、俺たちを見下すようにぶら下がっている。


 周りはどこまでも赤黒い壁。

 さらには、不規則に散りばめられた"赤いクリスタルの置物"。

 これ以上は言葉では表しにくい。


 右端にはエレベーターと思われるものが見える。

 そこが開き、紀野大臣が先に入っていくと、


「悪いが、一般人は"階段とエスカレーターのみ"になっている。全てを知りたいなら、最上階まで上って来たまえ。"上がれるなら"、だが」


 そう言い残すと、一人乗って行ってしまった。


「お、おいッ!! コラッ!! 俺らは乗れねぇってどういうことだよッ!!」


 シンヤがエレベーターを無理やり開けようとするが、ビクともしない。

 奥にある"階段とエスカレーター"でしか、本当に上がれないのか?

 引き返す事ももちろん出来ない、次にこのドアが開くのは4時間後の14時だ。


「どうする?」

「どうしますか?」


 ユキとヒナが同時に俺の方を向いてくる。

 やっぱり俺が決めるしかないか⋯


 まず、このビルは"10F"まである。

 なぜなら、"エレベーターの階数表記が10"まであるからだ。


 次に、紀野大臣が「"上がれるなら"、だが」と言っていた事からして、もし普通に1階ずつ上がったとすると、何事も無く行けるとは思えない。

 つまりは、あの人を"人間では無い"と仮定して進む必要がある。


 考えていると、後ろから"青い何か"が歩いてきた。

 あれ、これってユエさんの!?


『上って様子を見ていくしかなさそうね』

「この声、ユエさん!?」

『"プロトロア"で後を付けさせもらったわ、邪魔にならない距離でね』


 なんと、プロトロア1体がユエさんの声で喋っている。

 あの眼のAIカメラで俺たちを見ているようだ。


「体調は大丈夫なんですか!?」

『動くのは難しいけど、これくらいならできるわ。こっから先は私が先頭行くから、囮に使ってちょうだい』


 プロトロアことユエさんは『慎重に行きましょう』と言うと、エスカレーターへと乗って行ってしまった。


「んだよ、頼もしいじゃねぇか! 俺らも行こうぜ!」


 まさかのユエさんが途中参加し、5人でここを上る形となった。

 1~8Fまでは、予想通り戦闘を強いられた。

 それぞれ20体以上のネルトやUnRuleモンスターが配置されており、常にモンスターハウスのような状態だった。


 だとしても、こんなとこでひるんでなんていられない。

 帰る事は出来ないんだ。

 俺とユキ、ヒナとシンヤのツーマンセルを組み、次々とヤツらをなんとか薙ぎ払っていった。


 こういったARゲームのようなヤツは、散々やってきたからな。

 やり方さえ分かってくれば適応は出来る、例えそれが、リアルだとしても。

 ヒナも配信で、よくこういうゲームを遊んでいたというのが大きい。


 ただ、3階と6階は様子が全く違った。

 いわゆるボス部屋?のような雰囲気が漂っていて、他より部屋全体が薄暗い。


 前方奥に"1体大きいの"がおり、それはあの"赤いネルト"が毎回

待機していた。

 初めの頃は苦戦したアイツだったが、ズノウを駆使すると難なくやれた。


 ここで一つ分かった事がある。

 ネルトというこの"人食いアンドロイド"、食う前の姿は大したことない。

 アイツらは食ってからが、特に厄介になるようだ。


「よぉぉぉし!! これで8FはOKかぁ!?」

「あぁ、もう大丈夫だろう」

「さすがにちょっと疲れてきましたね」

「ね、ちょっと休憩してから上に行きましょ」

『なら皆、これを食べるといいわ』


 プロトロアのお腹から、"細長い固形物?"が出てきた。

 所々に"水分の塊?"のようなものがある。


「おぉ! こいつぁなんだぁ!?」

「見た事無い形してますね」

『非売品のハイパーフード、"ウォートリズム"よ。三大栄養素と水分を摂取出来るように考えたスナックなの。疲労回復効果もあるわ。ちょっと前に興味があって、知り合いの栄養士と作ったのよ』

「ユエさんはこんなのも出来るんですね」

『研究してると時間無くて、片手間に簡単に食べれるものが欲しくなるのよ、それの完全版がこれ。さぁ、みんな食べて』

「ありがとうございます、いただきます」


 見た目は結構美味そう。

 これ販売してたら普通に買いたいかも。


 頬張ると、味はレアチーズ?

 それっぽいスイーツの味がする。


 後味に、邪魔にならないようにと工夫された水分が入ってくる。

 スキマ時間に食うには、めっちゃいいな。


 ってか、プロトロアのお腹って保冷庫になってんのか。

 通りで冷たくて食べやすいわけだ。


「うーっし!! 俺はいつでもいけっぞ!!」

「私も大丈夫」

「⋯いけます!」

『残るは後2階よ! 9Fにはまた"赤いヤツ"がいるかもしれないから、ここが踏ん張りどころ! 危ないと思ったらすぐ下がりなさいね!』

「ありがとうございます。それじゃ、行こう!!」

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