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第32話 竹下

「こっからだと"赤くてデカいの"がよく見えるなぁ~!」


 この原宿駅竹下口改札からだと、アレの全貌が見える。

 ユキと見てきたあの"赤ビル"、そのまんまだ。


 中には何があるのか。

 とうとう今日、アレに入るわけか⋯


「SNSでめちゃくちゃバズってませんでした? "AIだけ"で造られたそうですね」

「らしいよなぁ! 俺らが一番に中を拝んでやろうぜぇ!」

「それもいいが、まずは"目の前のコレ"が気になるな」


 竹下通りに連なる多くの人。

 今までの日本だったら、観光客や旅行客でいっぱいになるのは分かる。

 でも、今こうなるのはさすがにおかしい。


 それだったら、他で全く人がいないっていう説明がつかない。

 ここがこんなにいるんだったら、他でも多くいるはずだ。


「ルイ、一人で突っ走っちゃダメだからね?」

「わかってるって」


 俺とシンヤが先を行き、ユキとヒナが後ろから続く。

 適当に竹下通りを歩いてみてはいるが、周りの人たちは普通に観光を楽しんでいるように見える。


 当たり前の光景だったはずなのに、違和感しかない。

 まさか、ここにいる人だけ"影響を受けない"ようになってるとか?

 そんなことあるのか?


 【タイムリミットまで後24分】


「シンヤ、誰でもいいから話しかけてみてくれよ、本当に人なのか確かめてくれ」

「え、俺が!?」

「お前得意だろ、そういうの」

「え~、別に得意もねぇぜ?」


 と言いながらも、シンヤはポニーテールの女性に話しかけに行った。

 この違和感を拭うには、シンヤくらいコミュ力あるヤツがやった方が分かりやすい。


「シンヤ君、似合うわね」

「ほんとはあーやって裏で毎日ナンパしてたんじゃね?」

「ふっ」


 ユキに笑われるシンヤ。

 あれだけ一緒に遊んできたのに、実は裏でやってたら最高すぎる。


 【タイムリミットまで後15分】


 シンヤが戻って来た。


「なぁ、俺には"普通の人"にしか感じなかったぜ?」

「⋯」

「おい、ルイ?」


 普通の人。

 なら、なんであの人は"アイツら"に襲われてないんだ?

 俺は"この方向を見ろ"と、顔で合図した。


「ん? なんだ?」

「⋯全員武器を出せッ!!」

「おぅ!?」


 シンヤが慌てて銃を取り出す。

 それに伴い、ユキとヒナも出した。


「ねぇ、あっちにもいる!」


 ユキの視線の先にも、同様に10体ほどのネルト集団がいた。

 マズい、ここに時間を割くわけにはいかない。

 ⋯ここは


「俺とヒナで左、ユキとシンヤで右だ!」

「わかったわ! 行くわよ、シンヤ君!」

「お、おうよ!」


 【タイムリミットまで後12分】


「ここは私がやってもいいですか!? いけそうなんです、コレなら!」


 ヒナは天使の槍を掲げ、光らせた。

 赤青黄の三翼が広がり、半透明のウェディングベールが展開されていく。


「そんじゃ、頼む!」

「はい!」


 3分かからないほどでヒナは倒してしまった。

 白い雨を降らせたり、先端から巨大剣を出したり、ストレス発散するように暴れていた。

 ここに来るまでに教えた"ズノウの使い方"も、ちゃんと分かってるようだ。


「ELの武器って、凄いですね!」

「それもあるけど、ヒナのやり方が上手いよ」

「いえいえ! それもルイさんが"コレ"をくれたおかげです! ありがとうございます!」


 律儀に頭を下げるヒナ。


「んな、いいって。ちょうどあっちも終わったみたいだし、"赤ビル"に行こう!」

「あ、ちょっと待ってください!」

「ん?」

「これ見てください!」


 ん?

 おい、これって⋯

 そこには"さっきからの違和感の正体"があった。


「急に入ってきたから攻撃当たっちゃって⋯そしたらこれが」

「⋯ってことは、ここにいるヤツら"全部ネルト"なのか!?」


 普通に歩く通行人、それの避けた腹部から大量の精密機器やICチップが見えていた。

 やっぱ、人じゃなかったんだ。


 だけどコイツら、"俺らを襲う"気配が全くない。

 だって今、俺たちの横だって、何事も無かったように普通に素通りして行ったぞ?


 こいつらは飾り⋯?

 意味が分からなかった。


 ⋯って、ヤベえッ!

 もう考えてる時間は無い!


 走って着く頃には、【タイムリミットまで後3分】の状況だった。

 なんとか間に合ったが、予想外の人物がそこにはいた。


「君たちは"ここ"に用が?」

「!? あなたは⋯紀野大臣!?」

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