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第30話 神槍

 朝食後、車内から戻ってきたユエさんによって、急遽原宿へと移動する事になった。

 なんでも、"UnRuleモンスター"に詳しい国家研究員の裏部さんを、そこで見かけたという情報があったという。


 つまり、ここでこの高級ホテルとは一旦離れる事になる。

 それはヒナとの別れも表していた。


「もう行くんですか!?」

「すぐ行かないと、また移動されるかもしれないしな」

「そうですか⋯」

「まぁ、次何かあったら飯原さんが対処してくれるはずだ。最悪、こっちに連絡くれてもいいぞ」

「はい⋯」


 ヒナに感謝し、背を向ける。

 またどこかで会えるはず、そう思いながら。

 すると、


「!?」


 急に後ろから抱き着かれた。


「ちょ、ヒナ!?」

「⋯私も一緒に行きます!」

「いや、でも」

「だろうとは思ってたぜ」

「シンヤ!?」


 前を見ると、謎にいるシンヤ。

 こいつさっき、ユキと一緒に車へ行ったんじゃ!?


「ひなひーさ、昨日ずっとお前の事聞いてきてたんだよ。だからなんとなく、こうなるとは思ったわ!」

「でも原宿は絶対危険だ。ヒナじゃさすがに」

「戦えますから! 私も!!」


 そう言うと、ヒナは三叉の黄色い槍を出現させた。

 先端から小さな電気が一定間隔置きに走り、ただの槍ではない事を示している。


 全長は2メートル近くあるだろうか?

 ユキの持っている鎌と同じくらいの大きさがあった。


「うおぉ! なんかゴッツいの持ってんのなぁ!」

「はい。ELの方ほどの強さは無いんですけど、迷惑かけないように頑張りますから!」

「だってよ、ルイ。いいじゃねぇか! ひなひーが一緒にいてくれるなんて、普通じゃありえねぇ凄い事だぜ!?」

「まぁそうだけど」

「なんだよ、なんか不満あんのか?」

「⋯アオさんの事、頭に過って」

「んだよ! いつまでも引っ張んなって!」


 んな事分かってんだよ。

 でも、俺はあの時知ったんだ。

 人はいとも簡単に死ぬ。


 ⋯謎の空撃だった

 それでアオさんはバラバラにされた。

 それがヒナにされたらと思うと⋯考えるだけで吐き気がする。


「ひなひーがここにいたって、いつまで安全かなんて分からないぜ?」

「そ、そうです! 一緒にいた方がむしろ安全だと思います!」

「な? それに、お前は"同じミス"はしない、そうだろ?」


 シンヤは挑発するように言った。

 こいつ、俺に勝ちたくて、ずっと俺の事を研究してやがる。

 なら、研究のデータを常に超えていくしかないのが研究者だ。


「⋯わかったよ」


 言った瞬間、ヒナの顔がぱぁっと明るくなった。

 なんか表情豊かなんだよな、ヒナって。


「やったな、ひなひー! 一緒に総理をぶっ壊すまで頑張ろうぜ!」

「そ、そこまでやるんですか!? わ、わかりました!!」


 謎に気合いを入れる二人。

 こんな現状じゃなければ、単純に楽しめるのに。


「ってかルイ、お前なんか"ポケットのとこ"光ってね?」

「ほんとですね、何か入れてるんですか?」

「いや、特に何も」


 光るポケットに手を入れ、出してみると、


「⋯おまッ! それってッ!! "アイツの姿"そっくりじゃねぇかッ!!」


 なんだこれ?

 "金色のフィギュア?"が出てきた。

 シンヤの言う通り、姿形はアイツにそっくりだった。


 すると突然L.S.が展開され、UnRuleのアイテム欄が表示された。

 その中に、"アイツのフィギュア?"の項目があり、〈黄泉帰る三翼の天魔神物〉と書かれている。


 〈槍の真の姿と邂逅するために使用可能〉と表示され、ヒナの槍に反応したのか、自動で出て来たようだ。

 現に、〈"雷撃走る三叉槍"を真の姿へと上書きしますか?〉と言われている。


「それはなんだよ!?」

「たぶん、"強化アイテム"みたいなもんかもな。アイツを倒した時、勝手に入ったらしい」

「へぇ~! 何を強化できるんだ?」

「見るからに、ヒナの槍を強化できそう」

「私の、ですか?」

「正直どうなるかは分からないけど、たぶん強くなるはず。ヒナ、してみるか?」

「うーん、急に言われましても⋯強く出来るならお願いしたいですが」

「まぁそうだよなぁ。シンヤはどう思う?」

「そりゃすべきだろ!! コイツを使えば"アイツのような力"が手に入るって事だろ!? だったら一択じゃねえか!!」

「俺もそうは思うけど、絶対安全とは分からない。もしかしたら罠で、またアイツが出てくるかもしれないし」

「それ言われると怖ぇな⋯でもそん時はそん時だろ!! どっちにしろ、これからもっと危ない橋渡んなら、こんなとこで引く意味ねぇ!!」


 確かにそうだ。

 ここで怖気づいてたって何も進まない。

 結局俺たちは、進み続けるしかないんだ。


「だな。ヒナ、俺を信じてやってみないか?」

「⋯はい! ですけど、私に使って本当にいいんですか? 他の誰かとか」

「いや、ヒナでいい。その代わり、コレの実験対象ってことで」

「わかりました! ヤバい事になったら助けてくださいね!?」

「おう! 俺とルイがいりゃ大丈夫だッ!!」

「それじゃ⋯いくぞ」


 急に静かになり、緊張感が伝う。

 俺は一呼吸し、〈本当に使います、よろしいですか?〉の忠告メッセージに〈はい〉を選んだ。

 良かったんだよな、本当に⋯


 数秒後、右手にあった〈黄泉帰る三翼の天魔神物〉は宙に浮き、ヒナの槍へと吸われるようにゆっくり飛んでいった。

 そしてそのまま槍内へと入っていくと、突如、槍が霧に包まれた。


「ひゃ!?」

「なんだ!?」


 怖がったヒナが、槍から手を離す。

 すると、槍は霧に包まれたまま上へ浮き、徐々に霧が晴れていくと、ヒナの手元へと戻っていった。

 その姿は原型が無く、神々しい光を放っていた。


「おいおい! なんじゃこりゃ!? クソ強そうじゃねぇか!?」

「すごい⋯ですね。まるで"天使みたい"ですね」


 3つの翼とウェディングベールを羽織った姿は、まさに"対峙したアイツの面影"が残っていた。

 三叉型は一本型へとなり、槍というか剣に近い形へと変わっている。


「一先ず安心か」


 L.S.のホログラムパネルには、〔"雷撃走る三叉槍"は"黄泉翼天魔神槍よみよくてんましんそうヘルヘブン・ゴッデス"へと上書きされました〕と出ていた。


「あ! この槍、変身できるみたいですよ!」


 そう言うと、ヒナは槍を変身させてみせた。

 神々しい姿から、なんとドス黒い姿へと豹変した。


 3つの翼は変わらずとも、一本型からまた三叉型へとなっている。

 持ち手周りに"多くの赤い丸球"、三叉の左右に"白い丸球"が付いているが、あの場所から眩しい光が放たれている。


 この姿にも、やっぱり"アイツの面影"があるように見える。

 これから先は、ヒナの守護神として役に立ってくれよ。


「おぉ、どっちもヤバそうだなぁ!! ⋯ん? この下にある"A.EL"ってマークはなんだ?」

「なんでしょう、これ?」

「まぁ後で調べるとして、一旦車へ行こう。二人を待たせっぱなしだからな」


 この後、車内で"A.EL"のマークが"Another ELECTIONNER"だと分かるまで、時間はかからなかった。

 前にユエさんが裏部さんと話した時、教えてもらったそうだ。


 UnRuleには"隠しEL"が存在するらしく、L.S.は変わらないが、武器だけELになる特殊な方法があるようで、それがこれだそう。

 "Another ELCTIONNER"か⋯他にもこれを使う人間はいるんだろうか。

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