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第29話 血痕

「や~っと帰ったかよ!」

「待ってました!」


 帰ると、ヒナとシンヤ、さらには飯原さんまでもがホテル前で待っていた。

 そして突然、


「申し訳無かった!!」


 飯原さんは頭を下げてきた。


「⋯どうしたんですか?」


 聞くと飯原さんは、


「今回起きた"事件"は全て管理不足の私の責任だ、本当にすまない。君が止めなかったら、もっと大きな被害になっていただろう」


 実は、首謀者だと思っていた飯原さんは小柴に騙されており、契約最後に足されていた追記は"特殊仕様"が施されていた。

 どうやら最後まで記載すると、数時間経ってから"追記が浮かび上がる"よう、細工されていたらしい。


 騙されていた女性は多くおり、あのまま放っておけば、言う通り被害はとんでもない数になっていそうだった。

 契約書は飯原さんによって本当に"善意で作られたもの"であって、あのような事実は一切無かったという。


 ホテル内に戻ってからも、むしろ感謝された。

 守ってくれてありがとう、と。

 でもこれは、ヒナが必死に説明してくれた事、警察が既に機能していない事の二つが大きかったんだと思う。


 俺のやった事が決して正しかった訳じゃない。

 本当はあそこまでやる必要は無かった、なのに身体が勝手に⋯


 今は警察があれな分、正しさは自分たちで決めないといけない。

 状況が状況だったとはいえ、俺は本当は刑務所行きだったかもしれない。


 急激に来る冷静さと同時に、自分がしてしまった事がどういう事なのか、まだ考え続けている。

 シャワーで流れていく湯を横目に。


 俺の右手に"ヤツの血"はもう無い。

 無いはずなのに、焼き付いて離れない。


 小柴の死ぬ時の顔が。

 血が溢れる瞬間が。


 ⋯分かってる

 どれだけ責められなかろうと。


 ⋯


 ⋯⋯


 ♢


「人殺しのバケモンがぁッ!! 付いてくんじゃねぇッ!!!」


 ♢


 もう一度右手を見る。

 視界が霞み、また"あの血"が見える。

 それはいつまでも訴えてくる。


 ― オ 前 ハ 人 ヲ 殺 シ タ


 ⋯


 ⋯⋯


 俺はもう⋯


 帰 レ ナ イ ?


「ルイさん、入りますね」

「⋯ん?」


 誰だ?

 後ろを見ると⋯

 水着姿のヒナが勝手に入ってきていた。


「今日は私が身体洗いますから」

「いや、いやいやいや、いいって!」

「そう言わずに! えいっ!」


 ここからなぜか、あまり覚えていない。

 途中からのぼせてたような⋯

 それほどヒナの洗い方が気持ちよかったんだろうか。


「⋯ルイ?」 


 ふと意識が戻ると、いつの間にかユキとベッドに横たわっていた。

 記憶が少しずつ鮮明になっていく。


「生きてる?」

「⋯生きてる」

「とか言って、お風呂の後すぐにご飯も食べず、ここで寝てたじゃない」

「⋯あれ、そうだっけ」


 結局のぼせて疲れて戻って来たんだっけ。

 天井を見て考えていると、ユキはのそのそと傍に寄って来た。


 ⋯ん?

 なんか左手に変な感覚が⋯


「⋯ちょ!? どこ挟んでんだよ!?」

「いいでしょ、今は」


 見ると、まさかの俺の左腕を太ももに挟んでいた。

 これ、下着が手に当たってるって!?


「こんなに誘ってるのにさ、ルイって襲わないよね」

「は!? なに言ってんだ急に!?」

「私⋯さ、汚されたから、もうダメ⋯?」


 さっきの勢いは何処に行ったのか、急に悲しそうに俯く。

 "アイツのせい"で私は汚された、そう思っているらしい。


「⋯どこが汚れてんだ。変わんねえよ、何も」

「ほんと⋯? まだいける⋯?」

「お、おいおい!?」


 ユキは突然スカートをたくし上げ、水色のショーツを脱ごうとし始めた。

 どうにか必死に止めると、


「でも、中まで見てもらった方が」

「んな事せんでいいッ!! そのままで綺麗ッ!! な~んも汚れ無しッ!!」

「ふっ、なにそれ、どこかの掃除業者みたいな、ふふっ」

「どんな格好で笑ってやがる」

「だって、ふふっ」


 ったくこいつ。

 俺じゃなきゃ襲われてるぞ、絶対。

 あんな事があったら、男へのトラウマとかなりそうなのに、前より積極的になってるじゃねえかよ⋯

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