「や~っと帰ったかよ!」
「待ってました!」
帰ると、ヒナとシンヤ、さらには飯原さんまでもがホテル前で待っていた。
そして突然、
「申し訳無かった!!」
飯原さんは頭を下げてきた。
「⋯どうしたんですか?」
聞くと飯原さんは、
「今回起きた"事件"は全て管理不足の私の責任だ、本当にすまない。君が止めなかったら、もっと大きな被害になっていただろう」
実は、首謀者だと思っていた飯原さんは小柴に騙されており、契約最後に足されていた追記は"特殊仕様"が施されていた。
どうやら最後まで記載すると、数時間経ってから"追記が浮かび上がる"よう、細工されていたらしい。
騙されていた女性は多くおり、あのまま放っておけば、言う通り被害はとんでもない数になっていそうだった。
契約書は飯原さんによって本当に"善意で作られたもの"であって、あのような事実は一切無かったという。
ホテル内に戻ってからも、むしろ感謝された。
守ってくれてありがとう、と。
でもこれは、ヒナが必死に説明してくれた事、警察が既に機能していない事の二つが大きかったんだと思う。
俺のやった事が決して正しかった訳じゃない。
本当はあそこまでやる必要は無かった、なのに身体が勝手に⋯
今は警察があれな分、正しさは自分たちで決めないといけない。
状況が状況だったとはいえ、俺は本当は刑務所行きだったかもしれない。
急激に来る冷静さと同時に、自分がしてしまった事がどういう事なのか、まだ考え続けている。
シャワーで流れていく湯を横目に。
俺の右手に"ヤツの血"はもう無い。
無いはずなのに、焼き付いて離れない。
小柴の死ぬ時の顔が。
血が溢れる瞬間が。
⋯分かってる
どれだけ責められなかろうと。
⋯
⋯⋯
♢
「人殺しのバケモンがぁッ!! 付いてくんじゃねぇッ!!!」
♢
もう一度右手を見る。
視界が霞み、また"あの血"が見える。
それはいつまでも訴えてくる。
― オ 前 ハ 人 ヲ 殺 シ タ
⋯
⋯⋯
俺はもう⋯
帰 レ ナ イ ?
「ルイさん、入りますね」
「⋯ん?」
誰だ?
後ろを見ると⋯
水着姿のヒナが勝手に入ってきていた。
「今日は私が身体洗いますから」
「いや、いやいやいや、いいって!」
「そう言わずに! えいっ!」
ここからなぜか、あまり覚えていない。
途中からのぼせてたような⋯
それほどヒナの洗い方が気持ちよかったんだろうか。
「⋯ルイ?」
ふと意識が戻ると、いつの間にかユキとベッドに横たわっていた。
記憶が少しずつ鮮明になっていく。
「生きてる?」
「⋯生きてる」
「とか言って、お風呂の後すぐにご飯も食べず、ここで寝てたじゃない」
「⋯あれ、そうだっけ」
結局のぼせて疲れて戻って来たんだっけ。
天井を見て考えていると、ユキはのそのそと傍に寄って来た。
⋯ん?
なんか左手に変な感覚が⋯
「⋯ちょ!? どこ挟んでんだよ!?」
「いいでしょ、今は」
見ると、まさかの俺の左腕を太ももに挟んでいた。
これ、下着が手に当たってるって!?
「こんなに誘ってるのにさ、ルイって襲わないよね」
「は!? なに言ってんだ急に!?」
「私⋯さ、汚されたから、もうダメ⋯?」
さっきの勢いは何処に行ったのか、急に悲しそうに俯く。
"アイツのせい"で私は汚された、そう思っているらしい。
「⋯どこが汚れてんだ。変わんねえよ、何も」
「ほんと⋯? まだいける⋯?」
「お、おいおい!?」
ユキは突然スカートをたくし上げ、水色のショーツを脱ごうとし始めた。
どうにか必死に止めると、
「でも、中まで見てもらった方が」
「んな事せんでいいッ!! そのままで綺麗ッ!! な~んも汚れ無しッ!!」
「ふっ、なにそれ、どこかの掃除業者みたいな、ふふっ」
「どんな格好で笑ってやがる」
「だって、ふふっ」
ったくこいつ。
俺じゃなきゃ襲われてるぞ、絶対。
あんな事があったら、男へのトラウマとかなりそうなのに、前より積極的になってるじゃねえかよ⋯