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第27話 死撃

「どうするよ!?」

「これだと私たちも危なくない?!」


 二人が慌てる。


「⋯」


 ⋯落ち着け

 このタイミングになんでこんな事が⋯?


「二人とも落ち着け! 警護だってまだいる」

「あ、あぁ⋯」

「⋯そうだけど」


 こういう時こそ、情報を一旦整理しといた方がいい。

 1階に"ヤツら"が入って来た事はおそらく間違いない。


 警護部隊が弱ければ、ここにも来る可能性はある。

 ⋯この可能性は低いと信じたいけど


 そして、もう後3分で23時。

 保護管理契約書によると、"朝8時~夜23時まで"しか警護はされていない。

 ここには女子が多い、誰もが自分の身を自分で守らなくてはいけない時間になる。


 そもそも、この警報はホテル内に響き渡っているんだ。

 小柴たちだって"慌てている"ってのが普通。


 だったら、なぜヒナに通話が繋がらない⋯?

 あっちでも既に何かあった⋯?


 ⋯どうする


「⋯俺は"4528の部屋"へ行く。二人は1階の援護に行ってくれ」

「ルイ一人で!? 警護がいるなら、あっちは任せて私たちも一緒に行った方が」

「本当はそうしたいけど、下が全滅する可能性も捨てきれない。そうなったら⋯もうここは終わる」

「んじゃ、すぐ終わらせてそっち行くからよ!! ひなひーを頼んだぜ!!」


 シンヤが先にエレベーターの方へと走って行く。


「あ、シンヤ君!?」


 ユキが一瞬、俺の方を見た。


「頼んだ」

「⋯無茶しちゃ、ダメだからね」


 こうして俺たちは二手に分かれた。

 どの場所も真っ赤な光が点灯し、警報が鳴り続ける。


 心臓の鼓動が早くなる。

 早くなる度、嫌な予感が脳裏を過る。


 45階に着き、奥を見ると、なぜか一つだけドアの開いている部屋があった。

 急いで行くと、そこは"4528の部屋"だった。

 中に侵入すると、そこには⋯


「⋯⋯は?」


 誰もいなかった。

 そんなはずがない、だってヒナは⋯


 突如部屋の時計が鳴り、23時である事を示す。

 ヒナは、ヒナはどこだ!?


 近くの部屋からも、物音すら聞こえない。

 おかしい、何かがおかしい。


 俺はすぐにユキに通話してみる事にした。

 これは何かがおかしい。


「⋯なんで⋯なんで!!」


 あいつがこんなに出ないなんて初めてだった。

 シンヤも出ない。


 どうして二人出ない!?

 例え繋がらなくとも、"不在着信"には決してならない。

 なんでだ!?


「⋯んだよこれッ!! みんなッ!! ユキッ!! シンヤッ!!  ヒナッ!!」


 今から1階に行く?

 いや、そしたらヒナは?


 じゃあここで待つ?

 それだと1階の二人は?


 時間だけが経っていく。

 あの針は絶対止まってくれない。


 どうしたら⋯

 どうしたら⋯!!


 ッ!?

 待てよ!?

 俺の頭の中に、"あの時の出来事"がフラッシュバックした。


 ♢


『こんなとこにいた! トイレじゃなかったの、ルイ』

『!? やっぱバレるよな...』

『そりゃね。L.S.で位置共有してるでしょ、私たち』

『はは...』


 ♢


 位置⋯共有⋯

 俺はすぐさまL.S.でユキとシンヤの位置を確認した。


 ⋯?


 二人の場所がそこにはあった。

 だが、明らかにおかしい位置に二人はいた。


「なんで⋯"この部屋"にいる⋯?」


 ⋯どういう⋯ことなんだよ⋯?

 理解した瞬間、脳内にアナウンスのような言葉が流れた。


 〈コノ現実ハオカシイデスカ?〉


 は⋯?

 今、「この現実はおかしいですか?」って言ったか?


 誰だ?

 誰が喋ってる!?


 〈モウ一度問イマス。コノ現実ハオカシイデスカ?〉


 よく見ると俺の銃剣が出現し、呼応するように光っていた。

 これは⋯!?


 答えろって⋯ことか⋯!?

 どちらにしろ、それしかもう方法は無い。


「この現実は⋯おかしい!!」


 答えた瞬間、頭痛が走った。

 耳鳴りも激しい。


「んで⋯こんな時に⋯ッ!!」


 視界が一瞬白くなり、ふらつきながら前を向く。

 すると、"知らない誰か"が立っていた。


「!? 誰だ、お前ッ!?」


 全身真っ白い服を着ており、"白いパーカー?"を被っている。

 その下には、髑髏のような白い仮面に、2本の鋭い角。


「⋯俺と⋯同じ⋯?」


 ヤツは俺と同じような銃剣を右手に持っていた。

 いや、厳密には少し違う。


 ヤツが一瞬こっちを見たかと思うと、視界は晴れていった。

 ヤツが霧のように消えていく。


 今のはなんだったんだろうか?

 理解が追い付かないままに、視界は晴れていく。


「お、お前なんで!?」


 聞き覚えのある声。

 小柴だった。


 晴れた先に小柴を含む、あの時の3人がいた。

 ベッドに座っており、その横には、


「んー!!」

「ん~~~!!!」


 下着姿のユキとヒナがいた。

 口にテープのような何かを付けられ、喋ることが出来ないようだった。


 足と腕にも"透明な何か"で縛られているように見える。

 アイツらは、そんな二人の下着を脱がそうとしていた。


「なにやってんだ⋯お前ら」

「俺の"設置した幻覚"は完璧なはずなのに、なんで、なんで戻って来てんだよぉぉぉぉ!!」


 突然小柴が叫んだ。

 そうか、"今までの現実"はコイツが用意した⋯


「ん~~~ッ!!」

「うるさいッ!! じっとしろッ!! じっとしないヤツは⋯こうだからなッ!!!」

「ん~~~~ッ!?!?」


 不意に"最低最悪"が目に映った。

 ヤツはなんと、ユキのブラジャーを脱がし、ショーツの中に手を入れ始めた。


「ははッ!! はははッ!! 今日から僕が、僕が本当の彼氏だぁぁぁぁぁッ!!!!」

「ん~~~~~~ッ!!! ん~~~~~~ッ!!!!」


 頭が真っ白になった。

 俺は何を見せられている?


 ― 何 ヲ 見 セ ラ レ テ イ ル ?


「いッ!!」


 また"頭痛"が⋯!!

 俺は⋯助けないと⋯!!


 また視界が白くなる。

 そこには、さっきのあの仮面の人物がいた。

 俺と目が合うと、"その人物の思い?"のような何かが俺へと流れ込んできた。


 ― 理 不 尽 ヲ 壊 セ


 視界が現実へ戻ると、強烈な悲鳴が響いた。

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」「人殺しがここにいるぞーッ!!!」と。

 男二人がこの場から去って逃げていく。


 ― 目に映る現実


 小柴の頭部が撃ち抜かれ、うつ伏せになっている。

 それをやったのは⋯




 ⋯




 ⋯⋯




 俺だった。

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