「どうするよ!?」
「これだと私たちも危なくない?!」
二人が慌てる。
「⋯」
⋯落ち着け
このタイミングになんでこんな事が⋯?
「二人とも落ち着け! 警護だってまだいる」
「あ、あぁ⋯」
「⋯そうだけど」
こういう時こそ、情報を一旦整理しといた方がいい。
1階に"ヤツら"が入って来た事はおそらく間違いない。
警護部隊が弱ければ、ここにも来る可能性はある。
⋯この可能性は低いと信じたいけど
そして、もう後3分で23時。
保護管理契約書によると、"朝8時~夜23時まで"しか警護はされていない。
ここには女子が多い、誰もが自分の身を自分で守らなくてはいけない時間になる。
そもそも、この警報はホテル内に響き渡っているんだ。
小柴たちだって"慌てている"ってのが普通。
だったら、なぜヒナに通話が繋がらない⋯?
あっちでも既に何かあった⋯?
⋯どうする
「⋯俺は"4528の部屋"へ行く。二人は1階の援護に行ってくれ」
「ルイ一人で!? 警護がいるなら、あっちは任せて私たちも一緒に行った方が」
「本当はそうしたいけど、下が全滅する可能性も捨てきれない。そうなったら⋯もうここは終わる」
「んじゃ、すぐ終わらせてそっち行くからよ!! ひなひーを頼んだぜ!!」
シンヤが先にエレベーターの方へと走って行く。
「あ、シンヤ君!?」
ユキが一瞬、俺の方を見た。
「頼んだ」
「⋯無茶しちゃ、ダメだからね」
こうして俺たちは二手に分かれた。
どの場所も真っ赤な光が点灯し、警報が鳴り続ける。
心臓の鼓動が早くなる。
早くなる度、嫌な予感が脳裏を過る。
45階に着き、奥を見ると、なぜか一つだけドアの開いている部屋があった。
急いで行くと、そこは"4528の部屋"だった。
中に侵入すると、そこには⋯
「⋯⋯は?」
誰もいなかった。
そんなはずがない、だってヒナは⋯
突如部屋の時計が鳴り、23時である事を示す。
ヒナは、ヒナはどこだ!?
近くの部屋からも、物音すら聞こえない。
おかしい、何かがおかしい。
俺はすぐにユキに通話してみる事にした。
これは何かがおかしい。
「⋯なんで⋯なんで!!」
あいつがこんなに出ないなんて初めてだった。
シンヤも出ない。
どうして二人出ない!?
例え繋がらなくとも、"不在着信"には決してならない。
なんでだ!?
「⋯んだよこれッ!! みんなッ!! ユキッ!! シンヤッ!! ヒナッ!!」
今から1階に行く?
いや、そしたらヒナは?
じゃあここで待つ?
それだと1階の二人は?
時間だけが経っていく。
あの針は絶対止まってくれない。
どうしたら⋯
どうしたら⋯!!
ッ!?
待てよ!?
俺の頭の中に、"あの時の出来事"がフラッシュバックした。
♢
『こんなとこにいた! トイレじゃなかったの、ルイ』
『!? やっぱバレるよな...』
『そりゃね。L.S.で位置共有してるでしょ、私たち』
『はは...』
♢
位置⋯共有⋯
俺はすぐさまL.S.でユキとシンヤの位置を確認した。
⋯?
二人の場所がそこにはあった。
だが、明らかにおかしい位置に二人はいた。
「なんで⋯"この部屋"にいる⋯?」
⋯どういう⋯ことなんだよ⋯?
理解した瞬間、脳内にアナウンスのような言葉が流れた。
〈コノ現実ハオカシイデスカ?〉
は⋯?
今、「この現実はおかしいですか?」って言ったか?
誰だ?
誰が喋ってる!?
〈モウ一度問イマス。コノ現実ハオカシイデスカ?〉
よく見ると俺の銃剣が出現し、呼応するように光っていた。
これは⋯!?
答えろって⋯ことか⋯!?
どちらにしろ、それしかもう方法は無い。
「この現実は⋯おかしい!!」
答えた瞬間、頭痛が走った。
耳鳴りも激しい。
「んで⋯こんな時に⋯ッ!!」
視界が一瞬白くなり、ふらつきながら前を向く。
すると、"知らない誰か"が立っていた。
「!? 誰だ、お前ッ!?」
全身真っ白い服を着ており、"白いパーカー?"を被っている。
その下には、髑髏のような白い仮面に、2本の鋭い角。
「⋯俺と⋯同じ⋯?」
ヤツは俺と同じような銃剣を右手に持っていた。
いや、厳密には少し違う。
ヤツが一瞬こっちを見たかと思うと、視界は晴れていった。
ヤツが霧のように消えていく。
今のはなんだったんだろうか?
理解が追い付かないままに、視界は晴れていく。
「お、お前なんで!?」
聞き覚えのある声。
小柴だった。
晴れた先に小柴を含む、あの時の3人がいた。
ベッドに座っており、その横には、
「んー!!」
「ん~~~!!!」
下着姿のユキとヒナがいた。
口にテープのような何かを付けられ、喋ることが出来ないようだった。
足と腕にも"透明な何か"で縛られているように見える。
アイツらは、そんな二人の下着を脱がそうとしていた。
「なにやってんだ⋯お前ら」
「俺の"設置した幻覚"は完璧なはずなのに、なんで、なんで戻って来てんだよぉぉぉぉ!!」
突然小柴が叫んだ。
そうか、"今までの現実"はコイツが用意した⋯
「ん~~~ッ!!」
「うるさいッ!! じっとしろッ!! じっとしないヤツは⋯こうだからなッ!!!」
「ん~~~~ッ!?!?」
不意に"最低最悪"が目に映った。
ヤツはなんと、ユキのブラジャーを脱がし、ショーツの中に手を入れ始めた。
「ははッ!! はははッ!! 今日から僕が、僕が本当の彼氏だぁぁぁぁぁッ!!!!」
「ん~~~~~~ッ!!! ん~~~~~~ッ!!!!」
頭が真っ白になった。
俺は何を見せられている?
― 何 ヲ 見 セ ラ レ テ イ ル ?
「いッ!!」
また"頭痛"が⋯!!
俺は⋯助けないと⋯!!
また視界が白くなる。
そこには、さっきのあの仮面の人物がいた。
俺と目が合うと、"その人物の思い?"のような何かが俺へと流れ込んできた。
― 理 不 尽 ヲ 壊 セ
視界が現実へ戻ると、強烈な悲鳴が響いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」「人殺しがここにいるぞーッ!!!」と。
男二人がこの場から去って逃げていく。
― 目に映る現実
小柴の頭部が撃ち抜かれ、うつ伏せになっている。
それをやったのは⋯
⋯
⋯⋯
俺だった。