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第25話 契約

 俺は食いながら"さっきの事"が気になっていた。

 あの"小柴"という男の発言。

 "すぐ僕のところ"に来るようになる"って、どういう意味だったんだ⋯?


 それともう一つ。

 "契約が取れた"とか言っていた。

 あれも何のことだ?


 分からないままに、ユエさんと話を続けた。

 今後の事や、他の国家研究員の事など。

 連絡を取れない人ばかりらしい。


 これは今はどうしようも無い。

 とりあえず、国会議事堂に近付く方法を考えるしかなかった。


 あの"輝星竜"に近付くには、ズノウを幾ら使おうと、まだ届かない距離らしい。

 これについて、"裏部さん"という研究員が詳しいそうだ。

 "輝星竜の対処法"を何か知っているはず、とユエさんは言う。


 ⋯"総理に近付くためのカギ"を握る人物

 だが、やっぱり裏部さんも音信不通らしい。


 そのために、昨日は"裏部さんと関係が深かった国家研究員たち"と、ユエさんは会おうとしてたってわけだ。

 まぁ、その肝心な人たちは"もう人では無かった"んだけど⋯


 「どんな事をしてでも探し出してやる」と、ユエさんはさっき車の方へと行ってしまい、一旦情報が集まるまで待機となった。

 どれだけAIが発達しても、こればかりはすぐには分からない。


 SNSで色々見ているが、これといって良い情報は見当たらない。

 あるのは、"ヤツらの簡易的な情報"や"UnRuleについて"がほとんどだ。


 "ヤツらの位置情報"を報告してくれてる人もいる。

 "赤い発令がされているスカイツリーや都庁"を、勇気出して見に行ってる人も。


 今や東京のほとんどの人が"UnRule"を入れているようで、それについてよくやり取りされているが、"ズノウ"についての情報はまだ少ししかない。

 たぶん後で広がっていくとは思うが、分かっている事については俺も情報発信していく事にした。


 中でも"ELに選ばれた100人"は、今や"神のようなVIP待遇"を受けているようで、とんでもない事になっていた。

 それだけ今を生きる希望だと、期待されている。


 まぁ気持ちは分かる。

 いつ殺されるかなんて分からない今、俺だってその立場なら、そうなるかもしれない。


 だが逆を言えば、この立場を悪用するヤツだってもしかしたら今後出てくるかもしれない。

 SNSの情報やリアルの情報には、常にアンテナを張っておかないと。


 ちなみに、ここで俺が「ELの一人です」と言ったらどうなるんだろうか?


 ⋯なんて考えは無い

 生死のかかった期待なんて、"もしもの事"があった時に取り返しのつかない批判が待ってる。


 さて、見るのはこの辺にして、今日はどうするか。

 やっぱり、"さっきの事"を調べるべきか?

 だとしたら、一人の方が都合がいい。


「わりぃ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「あ、うん」


 ごめん、二人とも。

 これがもし"危険な事"だったとしたら、今は巻き込まない方がいい。

 色々と分かってからの方がいいはず。


 トイレに行くフリをして、ロビーの40Fへと降りると、1組の男女が奥のソファに座っていた。

 アイドルっぽい格好をしたツインテールの女子と、あれは"小柴と一緒にいた男"?

 あの気だるそうな感じと、黄色いパーカーは間違いない。


 何やらこそこそと話をしている。

 近付けそうな雰囲気じゃ無いな。


 一旦隠れて様子を見ていると、男はすぐさま立ち上がってエレベーターへと乗って行った。

 何を話していたんだろう。


 俯いて考え込んでいるあの子。

 俺は勇気を振り絞って、話しかけてみる事にした。


「あのー、さっきの人とは知り合いですか?」

「え? はい、知り合いというほどでは無いですけど、数日前からちょっと⋯」

「もし良かったら、"さっき話してたこと"について少し教えてくれませんか? 小柴とあの男たちが怪しいので、ちょっと調べてるんです」

「いいですけど、もしかしてここには来たばかりですか?」

「え、そうですけど」

「⋯それならこれを見る方が早いですよ」


 ツインテールの女子は、ロビーの受付まで俺を案内すると、"謎の書類"へと指差した。


 なんだ"これ"?

 一番上に"保護管理契約書【女性限定】"と書いてある。


「ここには女子だけ"保護管理契約書"というものがあるんです。サインすると、"朝の8時から夜の23時まで"守ってくれるっていう点それを勧誘している人もいて、その管理人が小柴さんで、さっきの人は部下の一人って感じなんですけど、そのー⋯この部分を見てください」


 彼女が次指差したところに【※ただし、こちらが要求する見返りには必ず従う事】とあった。


「⋯"見返り"?」

「私もさっき初めて知ったんです。急に"ここに書いてあるだろ"って言われて⋯勧誘されて読んだ時には、そんなもの無かったはずなんです」


 その話をさっきあの男にされていたって事か。

 怪しい臭いがプンプンするな。


「その"見返り"について、今何か言われていたんですか?」

「"今日の夜11時に部屋に来い"って⋯あのー、そのL.S.って事はELの一人ですよね!?」

「え、あぁ、バレましたか」

「分かりますよ! 私も"UnRule"事前予約していたんですけど、当選しなかったんです! それで凄いの知ってるから、ついすぐに契約しちゃって⋯まさかこんな事になるなんて⋯」


 事前予約していたから、余計に"あんなヤツ"でも良く見えてしまった訳か。

 "当選者の立場を悪用するヤツが出るかも"って思ってたら、もうここにいんじゃねえかよ。


 彼女は泣きそうになっている。

 現状助けられそうなのは、たぶん俺だけ。

 もちろん俺は、


「任せてください。今日で壊します、そのふざけた契約」


 そう言った瞬間、彼女の顔は明るくなった。

 言い方は悪いが、これは都合が良い。

 あの小柴の発言、意味が分かったからな。


 だが、これは"飯原さんもグル"って事になる。

 あんなに真面目そうな人が?

 ウソだよな⋯?

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