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第24話 不審

「君たち、どうかしたのか?」


 突然の20億に慌てていると、一人が話しかけてきた。

 ヒゲを生やし、日本人っぽくない顔をした中年男性だった。


「あ、いえ、すみません、なんでもないです」

「そうか、何か困ったことがあったら言ってくれたまえ。⋯ん? 君は昨日の」


 男はユキを見た。


「えっと、ありがとうございました。こんな良い場所を教えて下さって」

「あぁいやいや、たまたま空いてたからな。とはいっても、お金は取られるんだが、足りるかね?」

「はい、大丈夫です」


 俺が返事をする。


「ここは最低でも30万はするぞ。君らが泊まった場所は70万くらいだったか? 高校生か大学生くらいだろうに、本当に大丈夫かね?」

「はい。お金は⋯あるみたいなので」

「おぉ、それは凄いな。私が呼んだ責任もあるから、初回分は代わりに持とうかと思ったんだが」

「大丈夫ですよ、わざわざありがとうございます」


 すると男は、少し険しい表情になり、


「それならあまり言う必要はないかもしれないが、一応念のためだ。もし今後"払えない"となれば、すぐに"警察"が来て連れていかれるそうだ⋯その先で射殺されたよく聞いている。エントランスに表記されているから、確認しておくといい」


 ⋯は?

 連れていかれて射殺?

 そんなの聞いた事が無い。


 ⋯あの時見たアレを思い出した

 東京外へ出ようとした人が、次々に警察に射殺されてる映像。


 ⋯結局どこにいても安心できないじゃねえか

 今後注意しておくに越したことは無い。


 会話が終わろうとしたタイミングで、知らない男3人組が乱入してきた。

 そのうちの"太った眼鏡の男性"が口を開いた。


「飯原さん、昨日の契約いけましたよ!」

「おぉ、さすがだな、小柴君は」

「まぁ僕は天才ですからねぇ~! ん?」


 小柴という男は突如こっちへと向く。

 その目は明らかにユキを見ていた。


「昨日困ってそうだったから、彼らにはここを使ってもらってるんだ」


 飯原さんの後、俺は軽く挨拶をする。

 そしたら、「約束があるからまた後で」と飯原さんは下へと降りて行ってしまった。

 その瞬間、小柴はユキへと寄る。


「へぇ~、芸能人やアイドルより可愛くね? なんか動画とか配信とかやってる?」

「え⋯特には⋯やってないです」

「んじゃ彼氏はいる? まさか"コイツら"のどっちかが彼氏とか?」


 なんだこいつ。

 急にナンパか?


 まぁ贔屓目に見なくとも、ユキは可愛いと思う。

 あの男の言う通り、その辺の芸能人やアイドルを優に超えるだろうな。

 さらにあの露出の多い服だ、余計に男は寄ってきやすい。


 本当は狙ってやってるんじゃないだろうか。

 と、考えていると、いつの間にかユキが横におり、


「"この人が彼氏"です。他を当たってください」


 俺の腕を引き寄せ、堂々と宣言し始めた。

 あのー⋯何やってんの?


 引き寄せすぎて、胸のかなり奥まで当たってるんだけど。

 他を当たるより、胸の方が凄い当たってるんだけど。


「(⋯おい!?)」

「(いいから話合わせて、こいつウザいから)」

「(⋯いや胸が)」


 こいつ自分の胸のデカさ未だに分かってないだろ!?

 めっちゃ睨まれてるって⋯!


 ⋯はぁ

 何度目なんだろう、"この睨まれるの"。

 こうなったら仕方ない。


「という事なので、他を当たってください」

「こんなアホで貧乏そうでキモいヤツが? 絶対やめた方がいいよ」

「⋯」


 なんかさっきとあからさまに"態度"が違う。

 "これが本性"だったか。

 しつこく言い寄り始めたし。


「黙れ」

「え?」


 このドスの効いた声。

 あぁ、出てしまった⋯

 今まで抑えていたのに。


「黙れって言ったのよ、キモデブ。鼓膜破けてんじゃないの? ルイはあんたたちなんかよりよっぽどかっこよくてお金持ちよ。頭にウジ沸いたバカがさっさと死ね」


 お、おぉ⋯

 久しぶりに聞いたなこれ。


 男たちは呆気に取られていた。

 まぁこの清楚な見た目だと、やっぱそうなるよなぁ。


 ユキは"清楚で美人"を装っているが、実は性格が元々クソキツい。

 俺にだけいつもやんわりした感じだが、他の人には本当にキツい。


 中学の時に"ある勝負"をして圧勝した俺は、"この性格"をもう出さないように条件を提示した。

 それを今の今まで守り続けていたってわけだ。


 これは"ユキの両親"に頼まれてやった事。

 こんな高飛車なままだと、これからの社会でやっていけないから、一回痛い目見させてやってくれって。


 自分より成績が下だと、見下した態度を取って猿と言う。

 自分より能力が低いと感じたら、人間と認めずゴミと言う。

 何事も1位以外に興味無くて、俺以外全員バカだと思っているなどなど⋯


「おいユキ、"出さない約束"しただろ」

「⋯だって」


 まぁ今回ばかりはしつこかったし、俺もかばってもらってるわけで。

 それより、"あの男の顔"だ。

 何をさっきから笑っている?


「ふーん。どうせ君も、"すぐ僕のところ"に来るようになるのになぁ」


 ?


 "謎の言葉"を残し、3人は下へ降りて行った。

 最後のはなんだったんだ?


 というか、あの小柴のL.S.

 ⋯あれは紛れもなくELの一人だった

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