「君たち、どうかしたのか?」
突然の20億に慌てていると、一人が話しかけてきた。
ヒゲを生やし、日本人っぽくない顔をした中年男性だった。
「あ、いえ、すみません、なんでもないです」
「そうか、何か困ったことがあったら言ってくれたまえ。⋯ん? 君は昨日の」
男はユキを見た。
「えっと、ありがとうございました。こんな良い場所を教えて下さって」
「あぁいやいや、たまたま空いてたからな。とはいっても、お金は取られるんだが、足りるかね?」
「はい、大丈夫です」
俺が返事をする。
「ここは最低でも30万はするぞ。君らが泊まった場所は70万くらいだったか? 高校生か大学生くらいだろうに、本当に大丈夫かね?」
「はい。お金は⋯あるみたいなので」
「おぉ、それは凄いな。私が呼んだ責任もあるから、初回分は代わりに持とうかと思ったんだが」
「大丈夫ですよ、わざわざありがとうございます」
すると男は、少し険しい表情になり、
「それならあまり言う必要はないかもしれないが、一応念のためだ。もし今後"払えない"となれば、すぐに"警察"が来て連れていかれるそうだ⋯その先で射殺されたよく聞いている。エントランスに表記されているから、確認しておくといい」
⋯は?
連れていかれて射殺?
そんなの聞いた事が無い。
⋯あの時見たアレを思い出した
東京外へ出ようとした人が、次々に警察に射殺されてる映像。
⋯結局どこにいても安心できないじゃねえか
今後注意しておくに越したことは無い。
会話が終わろうとしたタイミングで、知らない男3人組が乱入してきた。
そのうちの"太った眼鏡の男性"が口を開いた。
「飯原さん、昨日の契約いけましたよ!」
「おぉ、さすがだな、小柴君は」
「まぁ僕は天才ですからねぇ~! ん?」
小柴という男は突如こっちへと向く。
その目は明らかにユキを見ていた。
「昨日困ってそうだったから、彼らにはここを使ってもらってるんだ」
飯原さんの後、俺は軽く挨拶をする。
そしたら、「約束があるからまた後で」と飯原さんは下へと降りて行ってしまった。
その瞬間、小柴はユキへと寄る。
「へぇ~、芸能人やアイドルより可愛くね? なんか動画とか配信とかやってる?」
「え⋯特には⋯やってないです」
「んじゃ彼氏はいる? まさか"コイツら"のどっちかが彼氏とか?」
なんだこいつ。
急にナンパか?
まぁ贔屓目に見なくとも、ユキは可愛いと思う。
あの男の言う通り、その辺の芸能人やアイドルを優に超えるだろうな。
さらにあの露出の多い服だ、余計に男は寄ってきやすい。
本当は狙ってやってるんじゃないだろうか。
と、考えていると、いつの間にかユキが横におり、
「"この人が彼氏"です。他を当たってください」
俺の腕を引き寄せ、堂々と宣言し始めた。
あのー⋯何やってんの?
引き寄せすぎて、胸のかなり奥まで当たってるんだけど。
他を当たるより、胸の方が凄い当たってるんだけど。
「(⋯おい!?)」
「(いいから話合わせて、こいつウザいから)」
「(⋯いや胸が)」
こいつ自分の胸のデカさ未だに分かってないだろ!?
めっちゃ睨まれてるって⋯!
⋯はぁ
何度目なんだろう、"この睨まれるの"。
こうなったら仕方ない。
「という事なので、他を当たってください」
「こんなアホで貧乏そうでキモいヤツが? 絶対やめた方がいいよ」
「⋯」
なんかさっきとあからさまに"態度"が違う。
"これが本性"だったか。
しつこく言い寄り始めたし。
「黙れ」
「え?」
このドスの効いた声。
あぁ、出てしまった⋯
今まで抑えていたのに。
「黙れって言ったのよ、キモデブ。鼓膜破けてんじゃないの? ルイはあんたたちなんかよりよっぽどかっこよくてお金持ちよ。頭にウジ沸いたバカがさっさと死ね」
お、おぉ⋯
久しぶりに聞いたなこれ。
男たちは呆気に取られていた。
まぁこの清楚な見た目だと、やっぱそうなるよなぁ。
ユキは"清楚で美人"を装っているが、実は性格が元々クソキツい。
俺にだけいつもやんわりした感じだが、他の人には本当にキツい。
中学の時に"ある勝負"をして圧勝した俺は、"この性格"をもう出さないように条件を提示した。
それを今の今まで守り続けていたってわけだ。
これは"ユキの両親"に頼まれてやった事。
こんな高飛車なままだと、これからの社会でやっていけないから、一回痛い目見させてやってくれって。
自分より成績が下だと、見下した態度を取って猿と言う。
自分より能力が低いと感じたら、人間と認めずゴミと言う。
何事も1位以外に興味無くて、俺以外全員バカだと思っているなどなど⋯
「おいユキ、"出さない約束"しただろ」
「⋯だって」
まぁ今回ばかりはしつこかったし、俺もかばってもらってるわけで。
それより、"あの男の顔"だ。
何をさっきから笑っている?
「ふーん。どうせ君も、"すぐ僕のところ"に来るようになるのになぁ」
?
"謎の言葉"を残し、3人は下へ降りて行った。
最後のはなんだったんだ?
というか、あの小柴のL.S.
⋯あれは紛れもなくELの一人だった