41階に降りてみると、30人くらいだろうか?
結構な人数が食べながら談笑していた。
この階はレストランが並んでおり、人がゆったりする場所、いわゆる"ダイニング"って場所のようだ。
下の40階まで行くと、このホテルのロビーがあるらしい。
⋯思い出したぞ
確か前までここは、"ブルガリホテル東京"っていうホテルじゃなかったか?
とんでもなくクソ高いホテルだったはずだ。
中はかなり改装された跡があり、名前も"ネビュラスホテル東京"に変わっている。
黒と紫と青を基調とした、いかにも高級感漂うって感じだが、どこか人間っぽくない無機質さも感じる。
辺りを見回すと、ソファに座ってコーヒーを飲む"一人の白衣の女性"を発見した。
あの髪型、顔、服装、どっからどう見ても"あの人"だった。
「ユエさん!」
「⋯あ、起きたのね」
「よかったです! さっき"4206"行ったら返事無くて、心配しました」
「わざわざ来たの? そっかごめんね」
「それであの⋯その⋯」
俺が言葉に詰まって俯いていると、
「な~に俯いてるよ。アオ君の事、分かってるから」
「⋯え?」
ユエさんは飲む手を止め、外の景色を眺める。
「どっちみち私たちは死ぬ覚悟だったんだから。運よく私が生きちゃっただけ」
その表情はどこか、気丈にふるまってるようにも見えた。
大事な人を失うなんて、そうそうに耐えられるものじゃない。
「ほら、まだ食べてないんでしょ? 私はいいから、しっかり食べておきなさいな。私が全部出してあげるから」
「え!? いや、そんな」
「いいの! 若いんだから遠慮しない! ほら、取ってき!」
ユエさんは変わらない様子で対応をしてくれた。
この人の精神面の強さに、ただただ尊敬しかない。
ここで俺が暗いままでいたら、逆に失礼になる。
料理を取りに行く前に俺は、
「あのー、ここで一緒に食べていいですか」
「ここ? 別に構わないけど、私だったら本当に気にしなくていいのよ」
「はい。ただ、ユエさんと話がしたくて」
俺の意見にユキとシンヤも同意した。
「⋯そっか。物好きな人ね」
コーヒーを飲みながら、ユエさんはそう言った。
少し嬉しそうに見えたのは、俺の気のせいだろうか。
料理を取りに行くと、一つ一つ名産ばかりが使われていた。
さすが高級ホテル、どれも高い。
おにぎり一つ1000円って、いやどんな物使ってんだよ。
オープンキッチンになっていて、頼んだものを目の前でAIが調理してくれる。
これも一種のパフォーマンスなのかもしれない。
こういった部分を見ると、AI総理は"人間の生活"には手出ししていない事が分かる。
あくまでも線引きはしてるってことなのか。
海鮮系、肉系、寿司系とフードコートのように様々な場所に分かれていて、見るのは楽しい。
が、全部コース制になっており、一つ選ぶだけで軽く1万近く飛ぶ。
やっぱ半分は自分で払おうかな⋯
今のユエさんに、この奢りは流石に悪い気がする。
ちょっと残金を見てみる。
貰った100万合わせて500万くらいだよな、今持ってるのって。
L.S.で確認してみると、
「⋯は!?」
なんだこれ!?
【2,005,053,832】というバグった数字が貯金に記載されていた。
頬を何度か叩いてみる。
いや、何度見ても俺の残高だ。
「どうしたの?」
ユキが近付いてきた。
「いや、俺の金が"おかしい事"なってんだけど⋯」
L.S.の残高をユキへと見せる。
「!? え!? これって、2、20億!!?」
「お~い、なに騒いでんだよ」
寿司を取りまくっていたシンヤが戻ってくる。
シンヤにも同様に、貯金額を見せた。
「うぉッ!!? お前ヤバすぎだろッ!? いきなり大富豪じゃんかッ!?」
何度も見ても意味が分からない。
誰かが振込先を間違えたのか?
振込先を見ると、【ニホンセイフキュウフキン】と半角表記で書かれていた。
"日本政府"?
なんで政府が俺に?
よく見ると、"1通のメッセージ"が俺へと届いていた。
時間は【2023/09/18/13:42】とある。
この時間は"俺たちがちょうど東京駅から出たぐらい"じゃなかったかな。
最後寝る前に見た時間が、それぐらいだった気がする。
食事どころじゃない。
俺はすぐにメッセージを確認した。
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【三船ルイ 殿】
この通知は"以下のいずれかの該当者"に送られています
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・"想定を超えて有能である"と総理に認められた者
・"ネルトおよび用意したモノを倒した"と総理に認められた者
今回は該当するため、相応の金銭支援および生活支援を【三船ルイ 殿】へと送らせて頂きます。
・2,000,000,000円の日本政府給付金
・全店舗の宿泊+飲食店無料クーポン14
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