「ん~⋯あ、起きた?」
「起きた? じゃねぇッ! なんでそんな格好!?」
「んー⋯ここがホテルだから?」
「え⋯ホテル⋯?」
「ここは"東京ミッドタウン八重洲の中のホテル"よ。どこで休もうか悩んでたら、声掛けられたの。ここは今安全だから泊まれるぞって」
「男の人?」
「うん、なんか"優しそうな感じの40代?くらいのおじさん"。他にも何人かいたよ」
「へぇ~、ってかなに乳揉み始めてんだよ」
ユキは突然自分の両方の胸を揉み始めた。
急に何やってんだコイツ!?
「なんかまた大きくなったかなって、ちょっと揉んでみて?」
「いや揉まねえし! 横乳見せんな!!」
「えへへ、えい!」
笑いながら、今度はピンクの下着姿のまま俺に飛び込んできた。
「おい! なにやって」
「今日くらいはゆっくりしとこ。今は安全そうだから」
上に乗っかったまま離れようとしない。
色々ヤバいとこが当たってるって!
「ちょ!! ってかシンヤとユエさんは!?」
「他の部屋で休んでる」
「なら二人のとこ行こうぜ! 一応大丈夫か、確かめないと」
「え~、いいでしょ今は」
「まぁ後でもゆっくり出来るって! な!?」
どうにかくっつき虫を説得した。
やっと服を着始める。
あのままだと、お互い色々危ねえって⋯
時間を見ると、なんと朝の8時半だった。
どうやら俺はめちゃくちゃ寝てしまったらしい。
ベッドから起き上がって紫の派手な冷蔵庫を見ると、中に大量のジュースと酒と水、冷凍庫には普段買わない高い冷凍食品が入っていた。
これは当分暮らすには困らない場所だろうな。
他にも暇しないような娯楽も置かれており、こうなる前に泊まれたらどれだけ楽しめただろうと感じた。
⋯何も無かった日に来たかったな
広いバルコニーに出て、外を見てみる。
このしっかりしたバルコニーからして、この部屋はたぶん"スイートルーム"ってヤツだろう。
よくこんないいとこ貸してくれたな。
下を眺めてみると人の気配は無く、ヤツらも見当たらなかった。
近辺のビルやマンションを見ても、意外と静かなまま。
もっとヤバい事になってるかと思ったんだけどな。
「誰か、いる?」
着替え終わったユキが話しかけてくる。
「いや、誰も。もっとアイツらに襲われてたり、あるかと思ったんだけどな」
「私もそれ思った」
嵐の前の静けさ、とかじゃないといいんだが⋯
「そういや身体の方はどう?」
「あ、あぁ、意外ともうなんともないな」
腹をさすっても、痛みももう感じなかった。
腎臓が破裂した気配も無い気がする。
もしかしたら、"成功者の特権"だったりするのだろうか?
そう思いながらここを後にし、隣の"4313"の前へと来る。
このホテルは全部"顔認証の自動ドア"になっているようだ。
ドア上部に"小型カメラ"が、それぞれ備え付けられている。
室内の人物が入る時は自動で入れ、他の場合は中から許可が出ないと入れない。
許可は声だけでもできるはずだ。
緊急時はまた、別の方法で入れるみたいだけど。
唐突に"4313"の自動ドアが開くと、奥にシンヤが座っていた。
シンヤはL.S.で何かを見ている。
そのいつもの姿を見て、安堵した自分がいた。
「う~っす。イチャイチャタイムはもう終わりか?」
「何がイチャイチャタイムだ」
「はは! まだ休んでてもいいんだぜ。ここは"アイツら"、今のとこ、いなそうだしよ」
「ほら言ったでしょ」
ユキが頬を膨らませる。
そこまで言うならゆっくりするかぁ、と言いかけたが俺は、
「まぁちょっとだけ付き合ってくれよ。ユエさんも無事か、確かめときたい」
「それは別にいいけど⋯もうそこまで行くなら、ついでに朝食にしましょ、シンヤ君も」
「お、おう、そうするか!」
俺たちは、奥にある個人まりとしたエスカレーターへと乗った。
このホテルには階段やエレベーターの他に、エスカレーターが付いている。
42階に降りると、そこからもエスカレーターは続いていた。
最近はこんな風に改造されてるらしいな。
これもAI総理の影響だったりするのかもしれない。
そして俺たちは"4206"の前へ着くと、
「⋯ユエさん、いますか?」
俺が話しかけてみる。
⋯何も返って来ない
「ここで合ってるんだよな?」
「合ってると思うけど⋯ねぇ? シンヤ君」
「あぁ、ってか下に降りたんじゃね?」
「その可能性は高そう」
「⋯」
⋯少し嫌な予感がした
昨日の事がフラッシュバックする。
♢
「⋯ユ⋯エ⋯を」
♢
⋯
⋯会ったとして、なんて声を掛けたらいいんだろう
落ち着かない気持ちのまま、41階へと着いた。