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第20話 犠牲

「アイツは一旦俺がやるッ!! 二人はあっちを!!」


 その瞬間。耳鳴りがするほどの轟音が響き、その溜まった一撃が俺に放たれた事から始まった。


「ちッ⋯!!」


 ズノウで張っていた〈虹女神の七断層〉のうち、二層が破裂し、身体に戦慄が走る。


 ⋯まともに当たれば死ぬ

 背中を伝う死だけが、ただ俺を突き動かした。


 間髪をいれず、また轟音が鳴り響き、ヤツの銃に禍々しいモノが溜まっていく。

 次は一気に周囲の空気が熱くなり、強烈な熱線のようなのが来る気配があった。


 この少しの猶予を見逃さなかった俺は、即座に脳内でズノウを一つ選ぶと、俺の身体は勝手に動き始めた。


 長く伸びた形状に変形した銃剣は、まるで大砲のようになり、両手で持つ必要がでてきた。


 ― 大きく丸み帯びた銃口


 そこにいろんな色の光が瞬時に溜まると、ヤツに向かって一気に放たれた。

 〈壊滅虹一波アークデストラクション・ワン〉は下から二番目にあったため、相当威力は高いはず。


 これが一発でヤツを貫通し、左腕を吹き飛ばした。

 左腕はタキシード風の黒い悪魔の方。


 その腕が一丁の巨大銃とともに、一瞬で霧のように消えていく。

 俺はその威力を見て、アオさんの言葉がフラッシュバックした。


 ♢


『それは本来、この"UnRuleの一番最後の敵"に装備されるはずだったもの。君が選ばれたのは偶然なんかじゃない。UnRule配布アンドロイド内に、"眼を検知するプログラム"を入れていたからね。勝手で悪いけど、僕たちは全て賭けてるんだ』


 ♢


 これなら⋯やれる⋯!

 こんなヤツで終われる訳がない。


 アイツは銃撃戦を不利と感じたのか、途端に巨大剣へと切り替えてきた。

 この時、ヤツは大きな空振りをした。


 これが"違和感のある空振り"だとは思った。

 "今の攻撃"はなんだったんだ?


 俺の身体に何も無い。

 というか、もしかして俺に対してじゃなかった?


 刹那、後ろを向く。 

 ヤツの視線上にいるのは、俺とアオさんのはずだ。


「アオさんッ! 大丈夫で」


 振り向いた視線の先。




 ⋯



 ⋯⋯?




 自分が何を見ているのか分からなかった。

 "誰か"がバラバラにされており、体の破片が幾つも飛び散っていた。


 鮮血に染まっていく東京駅。

 俺は誰を見ている?


 見てはいけないものを見ているのだけは感じた。

 第六感がそう発する。


 あの"散らばった破片の正体"。

 転がった頭がこっちを向いた瞬間、それは判明した。


「⋯⋯ユ⋯エ⋯を⋯」


 考える間もなく、彼の眼は虚ろを向いた。


「⋯⋯アオ⋯⋯さん⋯⋯?」


 俺の声に返事が無い。

 そんな訳がない。


 さっきまで話していたんだ。

 ギリギリまで後ろにも下がっていた。


 あれは違う。


 あれは違う。


 あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。あれは違う。


 納得しようとする度、現実が押し寄せた。

 もうあの人と話す事も、会う事も出来ない現実が。


 ⋯その現実が、怒りと後悔へと変色した


 躊躇なくズノウの一番下の項目を選び取ると、天魔神の腹部分にまで俺の身体は跳躍した。

 武器の先端からは"異様に長い閃光刃"が現れ、後部の蝶の羽根が大きく舞う。

 その瞬間に上半身は捻られ、


「ッ!!」


 初撃が繰り出された。

 赤黄青紫と、"色の光爆撃斬"が次々ヤツへと叩き込まれる。

 その度に、幾つも散らばる七色蝶の羽根。


 〈七色蝶新星セブンズ・スーパーノヴァ〉の最後の一撃で薙ぎ払うと、ヤツは大きく怯み、身体を二つへと分離させ始めた。

 一人の白い少女と、巨大な黒い悪魔へと分離していく。


 それでも俺は自分を止めなかった。

 脳内で今も"あの人の最後の声"が聞こえる。


 ♢


「⋯ユ⋯エ⋯を」


 ♢


 ― ズノウの新項目が追加される


 〈これは身体への負担があまりに大きく、腎臓が破裂する恐れがあります。それでも使いますか?〉


 俺はすぐに〈はい〉を選択した。

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