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第19話 三翼

 ― 東京駅


 毎日観光やウェディングフォト、色んな用途で使われているこの"丸の内駅舎"。

 東京駅と言えば"ここ"。

 反対側は八重州と言われるところになる。


 それが今は、全くと言っていいほど人の気配が無い。

 人がいない。


 不穏なこの静けさ。

 みんなも既に何かを察しているはず。


 近くの適当なところで車は一旦止まり、俺たちは外へと出る事になった。

 出ようとすると、アオさんが俺の肩を掴み、


「分かってると思うけど、こっからは何が起こってもおかしくない、周りに充分注意して行こう」

「⋯はい」

「アオ君こそ注意してよ! この子のためにもね」


 ユエさんはお腹をさすりながら言う。

 もしかして妊娠してる?


「君のためにも、その子のためにも、そしてこの子たちのためにも、ね」


 最後に、プロトロア5機までも降りてきた。


「それらも連れて行くんですか?」

「あぁ一応ね。ユエの事もあるし、これだけいればどんな事でも対応できるだろうから」

「そんじゃ! 行ってみますかぁ!」


 シンヤがそう言うと、プロトロアたちは軽く返事をしたようだった。

 プロトロアは周囲へと配置され、前1、左1、右1、後ろ2の配置で置かれた。

 まるで守り神みたいで頼もしい。


 まず先頭のプロトロアが歩き出し、その後を追うように歩く。

 漂う静寂の中、まるで警備された有名人のように。


 もちろん銃剣は装備している。

 全員が武装済みだ。

 もう今の東京は、武器が無い事のは裸で街を歩くのと同然だ。


 誰が予想できたんだろう。

 あんなに賑わっていた東京駅前で、常に死と隣り合わせの恐怖を感じる事になる事を。


 少しの震えを手に感じながら歩く。

 それを振り払うようにして、足は先へと進む。

 やがて、その足はゆっくり止まり、


「良かった、何もなかったわね」


 安堵の息を吐くユキ。

 "東京駅丸の内中央口の目の前"まで来ても、何も起こる事は無かった。

 前のように突然メテオを落とされる事も無く⋯


 まだ駅構内が安全と言えるわけじゃないが、とりあえず丸の内駅前広場を警戒する必要は無い。


「さて、この辺りで待ってるって言ってたはずなんだけど」


 ユエさんはL.S.を操作して誰かと連絡を取ろうとする。

 すると、


「お、あれは?」


 アオさんが声を上げた先、6人ほどの青い服の団体が近付いてきていた。

 この夫婦とはまた雰囲気が違う。


 ⋯ん?

 なんか服に"赤いの"が付いてないか?

 様子もおかしいように見える。


「⋯ダメね」


 ユエさんは数歩下がり、突如白いマグナムを構える。


「また一緒に頑張るって、話じゃなかったの?」


 続いてアオさんも、漆黒の細剣を団体へと向ける。


「"それ"を下に向けるんだ。でないと、コイツも使う事になる」


 その瞬間、この二人の覚悟を感じた。

 たぶん直前まで、一緒に研究していた同僚だったのだろう。

 団体たちが首からぶら下げる"国家研究員を示すネームプレート"がそれを表している。


 俺も銃口を向けると、ユキとシンヤも同様に構えた。

 すると、団体の一人が、


「僕らは敵じゃないですよ。あなたたちを媒体として、これからを代わりに生きるだけなんですから。寿命にもお金にも何にも縛られない、新たな人生をねぇェェェ!!!!」


 その瞬間、ゴーンと大きな鐘の音がどこかから鳴り響き、"巨大な何か"が東京駅中央に降りて来た。

 天井に届きそうなほどの"巨大な何か"は、背中に大きな翼を3つ携え、赤黄青の三色の翼をそれぞれ広げた。


 見るだけで鳥肌が立つアレ。

 アレはなんだ⋯?


「⋯ここで⋯死ぬかもしれない⋯みんな」


 横でアオさんが呟く。

 その顔に血の気を感じなかった。


「何言ってるのッ!! 私たちは覚悟決めたでしょッ!?」

「でも⋯ユエ⋯終わりだよ⋯」


 左半身がタキシード風の黒い悪魔、右半身がウェディングドレス風の白い天使のような姿のアレ。

 アレがとうとうこっちへと構えた。


「アレはなんなんですか!?」

「⋯"三翼の天魔神"⋯輝星竜と同じくらいの⋯強さに設定されてる」

「!?」

「並の人間には⋯絶対勝てない⋯」


 あの輝星竜と⋯そんなヤツがなんで⋯

 なんでこんな東京駅構内に⋯?


「素敵な新婚旅行は楽しめそうですか? 飯塚ユエさん、飯塚アオさん。アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 次の瞬間、"アレ"は異常な大きさの銃を両手にそれぞれ持った。

 そのあまりの大きさに、身体の芯から震える。

 鼓動も異常な速さで動き始め、「戦ってはいけない」と心臓が訴えかけてくる。


「アレには"離れる事が出来ないスキル"が付いてる⋯もう⋯逃げられない⋯」

「⋯まだよ、私たちにはこの子たちがいるじゃない」

「⋯ユエ」

「きっと出来る、あなたたちなら」

「で、でも俺、この武器の事もまだよく分かってなくて」


 次の瞬間、ヤツら全員の動きが止まった。

 まるで時が止まったように。

 見るに、ユエさんが何かしている!?


「一回だけしか言わないから3人供よく聞いて? "UnRule"の武器にはそれぞれ"固有のズノウ"っていうのが付いてる、スキルのようなものよ。ズノウを使おうと願えば、今使えるズノウ一覧が脳内に出る。それを脳内で選んで、使っていくの。直感的に分かるように作られてるから、きっと大丈夫」

「⋯わかりました」


 正直まだピンと来ていない。

 でも、もうやるしかない。

 怖がっている場合じゃない。


 すると、ヤツらは動き出した。

 今、本当に時が止まっていた?

 と思った瞬間、突然ユエさんが目の前で倒れた。


「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯」

「ユエ!!」

「後は⋯お願い⋯」


 ユエさんは一言残すと、目を瞑ってしまった。


「ユエは"強力なズノウ"を使って疲れて眠ったんだ⋯君たちに"UnRuleの本当の戦い方"を伝えようと⋯」


 アオさんは眠った彼女を抱えると、


「⋯頼む⋯君たちならアレを超えられるって⋯ユエも僕も信じてるから」


 守るようにして下がっていった。

 もう俺たちに選択肢など無い。


「⋯ッ!! 行けるな!? ユキ! シンヤ!」

「⋯死んだら葬式お願いね」

「なに弱気な事言ってんだ! あんなクソ野郎いけんだろ!? 俺たち3人揃ってんだぜ!? なぁルイ!!」

「総理を壊すって決めたんだ、それまで死ねるわけねぇだろッ!!」

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