― 東京駅
毎日観光やウェディングフォト、色んな用途で使われているこの"丸の内駅舎"。
東京駅と言えば"ここ"。
反対側は八重州と言われるところになる。
それが今は、全くと言っていいほど人の気配が無い。
人がいない。
不穏なこの静けさ。
みんなも既に何かを察しているはず。
近くの適当なところで車は一旦止まり、俺たちは外へと出る事になった。
出ようとすると、アオさんが俺の肩を掴み、
「分かってると思うけど、こっからは何が起こってもおかしくない、周りに充分注意して行こう」
「⋯はい」
「アオ君こそ注意してよ! この子のためにもね」
ユエさんはお腹をさすりながら言う。
もしかして妊娠してる?
「君のためにも、その子のためにも、そしてこの子たちのためにも、ね」
最後に、プロトロア5機までも降りてきた。
「それらも連れて行くんですか?」
「あぁ一応ね。ユエの事もあるし、これだけいればどんな事でも対応できるだろうから」
「そんじゃ! 行ってみますかぁ!」
シンヤがそう言うと、プロトロアたちは軽く返事をしたようだった。
プロトロアは周囲へと配置され、前1、左1、右1、後ろ2の配置で置かれた。
まるで守り神みたいで頼もしい。
まず先頭のプロトロアが歩き出し、その後を追うように歩く。
漂う静寂の中、まるで警備された有名人のように。
もちろん銃剣は装備している。
全員が武装済みだ。
もう今の東京は、武器が無い事のは裸で街を歩くのと同然だ。
誰が予想できたんだろう。
あんなに賑わっていた東京駅前で、常に死と隣り合わせの恐怖を感じる事になる事を。
少しの震えを手に感じながら歩く。
それを振り払うようにして、足は先へと進む。
やがて、その足はゆっくり止まり、
「良かった、何もなかったわね」
安堵の息を吐くユキ。
"東京駅丸の内中央口の目の前"まで来ても、何も起こる事は無かった。
前のように突然メテオを落とされる事も無く⋯
まだ駅構内が安全と言えるわけじゃないが、とりあえず丸の内駅前広場を警戒する必要は無い。
「さて、この辺りで待ってるって言ってたはずなんだけど」
ユエさんはL.S.を操作して誰かと連絡を取ろうとする。
すると、
「お、あれは?」
アオさんが声を上げた先、6人ほどの青い服の団体が近付いてきていた。
この夫婦とはまた雰囲気が違う。
⋯ん?
なんか服に"赤いの"が付いてないか?
様子もおかしいように見える。
「⋯ダメね」
ユエさんは数歩下がり、突如白いマグナムを構える。
「また一緒に頑張るって、話じゃなかったの?」
続いてアオさんも、漆黒の細剣を団体へと向ける。
「"それ"を下に向けるんだ。でないと、コイツも使う事になる」
その瞬間、この二人の覚悟を感じた。
たぶん直前まで、一緒に研究していた同僚だったのだろう。
団体たちが首からぶら下げる"国家研究員を示すネームプレート"がそれを表している。
俺も銃口を向けると、ユキとシンヤも同様に構えた。
すると、団体の一人が、
「僕らは敵じゃないですよ。あなたたちを媒体として、これからを代わりに生きるだけなんですから。寿命にもお金にも何にも縛られない、新たな人生をねぇェェェ!!!!」
その瞬間、ゴーンと大きな鐘の音がどこかから鳴り響き、"巨大な何か"が東京駅中央に降りて来た。
天井に届きそうなほどの"巨大な何か"は、背中に大きな翼を3つ携え、赤黄青の三色の翼をそれぞれ広げた。
見るだけで鳥肌が立つアレ。
アレはなんだ⋯?
「⋯ここで⋯死ぬかもしれない⋯みんな」
横でアオさんが呟く。
その顔に血の気を感じなかった。
「何言ってるのッ!! 私たちは覚悟決めたでしょッ!?」
「でも⋯ユエ⋯終わりだよ⋯」
左半身がタキシード風の黒い悪魔、右半身がウェディングドレス風の白い天使のような姿のアレ。
アレがとうとうこっちへと構えた。
「アレはなんなんですか!?」
「⋯"三翼の天魔神"⋯輝星竜と同じくらいの⋯強さに設定されてる」
「!?」
「並の人間には⋯絶対勝てない⋯」
あの輝星竜と⋯そんなヤツがなんで⋯
なんでこんな東京駅構内に⋯?
「素敵な新婚旅行は楽しめそうですか? 飯塚ユエさん、飯塚アオさん。アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
次の瞬間、"アレ"は異常な大きさの銃を両手にそれぞれ持った。
そのあまりの大きさに、身体の芯から震える。
鼓動も異常な速さで動き始め、「戦ってはいけない」と心臓が訴えかけてくる。
「アレには"離れる事が出来ないスキル"が付いてる⋯もう⋯逃げられない⋯」
「⋯まだよ、私たちにはこの子たちがいるじゃない」
「⋯ユエ」
「きっと出来る、あなたたちなら」
「で、でも俺、この武器の事もまだよく分かってなくて」
次の瞬間、ヤツら全員の動きが止まった。
まるで時が止まったように。
見るに、ユエさんが何かしている!?
「一回だけしか言わないから3人供よく聞いて? "UnRule"の武器にはそれぞれ"固有のズノウ"っていうのが付いてる、スキルのようなものよ。ズノウを使おうと願えば、今使えるズノウ一覧が脳内に出る。それを脳内で選んで、使っていくの。直感的に分かるように作られてるから、きっと大丈夫」
「⋯わかりました」
正直まだピンと来ていない。
でも、もうやるしかない。
怖がっている場合じゃない。
すると、ヤツらは動き出した。
今、本当に時が止まっていた?
と思った瞬間、突然ユエさんが目の前で倒れた。
「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯」
「ユエ!!」
「後は⋯お願い⋯」
ユエさんは一言残すと、目を瞑ってしまった。
「ユエは"強力なズノウ"を使って疲れて眠ったんだ⋯君たちに"UnRuleの本当の戦い方"を伝えようと⋯」
アオさんは眠った彼女を抱えると、
「⋯頼む⋯君たちならアレを超えられるって⋯ユエも僕も信じてるから」
守るようにして下がっていった。
もう俺たちに選択肢など無い。
「⋯ッ!! 行けるな!? ユキ! シンヤ!」
「⋯死んだら葬式お願いね」
「なに弱気な事言ってんだ! あんなクソ野郎いけんだろ!? 俺たち3人揃ってんだぜ!? なぁルイ!!」
「総理を壊すって決めたんだ、それまで死ねるわけねぇだろッ!!」