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第18話 深域

 全く関係ないと思っていたアイツ。

 訳の分からない所で繋がっていた存在だった。


 アイツの中に、俺を形成した一部がある。

 んだよそれ、もう意味分かんねえ⋯


「それじゃ、俺と無関係ではないってことですか?」

「えぇ。だからこそ、唯一親和性の高いあなたの力が必要なの」


 ユエさんはそう言うと、突然何かを出現させた。

 テーブルにそっと置かれたモノ。

 ⋯白い"リボルバー式マグナム"だった


「そのL.S.ってことは、"UnRule"はもう始めてるわね」

「⋯はい」


 俺は"七色蝶の銃"を取り出した。


「やっぱりあなたなのね」


 ?

 意味深そうにユエさんが言う。


「実はこの"UnRule"、売る前にロアが未来予測した中にあったものなの」

「え!? そうだったんですか!?」

「⋯きっとこうなる事も考えていたんでしょう。だから、政府開発と予告しながらも、大勢でかつバレないように水面下で開発した。でも、"予想外な事態"になった」


 ユエさんは"白いマグナム"に軽く手を置くと、


「こんな"ゲームの物に質量を持たせる"なんて事、私たちの知識、いや、AIの知識でも出来ないはず⋯L.S.は百歩譲って"現研究の先にある未来"だとしても、こんなのが出来るのは"他の何か"しか考えられないのよ」

「他の⋯何か⋯」

「"その何か"は、未だに全く分からない」

「んだよそれ!? 全部総理のしわざじゃないのかよ!?」


 シンヤが隣で声を荒げた。

 俺も荒げたいくらいだ。


 ⋯"他の何か"ってなんだよ

 疑問だけが、底を尽きずに増えていく。


「まぁ、この話は一旦この辺にしとこうユエ」


 次はアオさんが喋りながら、L.S.から"真っ黒の細長い剣"を取り出し、テーブルに置いた。


「元々"UnRule"というゲームは、人それぞれの武器を使い、敵対するAIのソースコードを書き換えていくゲームなんだ」

「? 書き換える⋯ですか?」


 ユキが首をかしげながら言う。


「ロアの予測にあった"このゲーム"。その仕様に従って進めていった結果、ゲーム感覚で非日常を楽しみつつ、"自然と人間がAIに対抗できる手段を得られる"ようになっていたんだよ」

「おぉ~すげぇなぁ!?」

「シンヤ、ちゃんと分かったのかよ?」

「お、おぉそりゃもちろんよ! つまりは、攻撃しまくりゃ"あのめんどくせえAI共"を倒せるようになるっつう事だろ!?」

「へぇ~」

「へぇ~って、ルイは分からなかったのかよ!? いや~俺はとうとうお前を超えちまったかぁ!?」


 人がちょっとのってやったらこれだ。

 どんな時でもほんと変わんないよな、コイツ。


「すみません、"敵対するAIのソースコードを書き換えていく"って言いましたけど、具体的にどういう事ですか?」

「敵だ、と思うには"何らか理由"があるはずだよね。例えば、人間を襲おうとしている、とか。その理由であると思われるプログラムを見つけ次第、"特殊なウイルスワクチン"をクラウドサーバーから送ってるんだ。これが"AIのソースコードの書き換え"って事になるんだけど、伝わるかな。これなら誰だって、AIに対抗できる手段を持てるって流れになる」


 敵だと思う理由⋯

 それはAIだろうと人間だろうと同じ事象。

 これを"ゲーム上に見立ててやっていた"ってわけか。


 んー⋯

 俺は"このゲームの告知"を思い出しながら、質問を投げかけた。


「一つ気になる点があるんですけど、このゲームって、誰もが興味を持つわけじゃないですよね?」


 するとアオさんは水を一口飲み、


「これは言わば、"UnRuleというゲームを称した未完成のブラック・シンギュラリティ・ワクチン"、あくまで未完成の存在。東京である程度のデータを集めて改良を重ね、後に政府名義にして強制配布する予定だった。予定だったのに⋯もう⋯叶わない。僕たちは、この経済対策が始まった東京からは、逃げられない」


 アオさんは音がするほど力強く剣を握っていた。

 最後の最後に予定通りにならなかった事を、悔いている様子だった。


「⋯だけど、ここには君がいる。君と〈大蝶イーリス〉は、あのAI総理へと届くと信じてる」


 この"七色蝶の銃"を示し、アオさんは言った。

 これの名はその通り〈大蝶イーリス〉。

 L.S.の"UnRuleアイテム欄"に、そう書いてある。


「それは本来、この"UnRuleの一番最後の敵"に装備されるはずだったもの。君が選ばれたのは偶然なんかじゃない。UnRule配布アンドロイド内に、"眼を検知するプログラム"を入れていたからね。勝手で悪いけど、僕たちは全て賭けてるんだ、なぁユエ」


 ユエさんがゆっくりと立ち上がると、


「えぇ。ELECTIONNER100人中、一番総理を倒せる可能性が高いのがあなたなの。武器開発に私たちはほぼ携わってないけど、これだけは知ってる、それは"常人だと10%も力を発揮出来ない"けど、あなたの能力なら、絶対100%以上を引き出せる⋯だからお願い!」


 突然頭を下げてきた。

 アオさんまでも。


 こんな事になってしまった原因が自分たちにある事、これからの未来を俺たちに賭けるしかない事、それらを謝りながら。


 それはもちろん、原因はこの人たちにあるのかもしれない。

 だとして、こんな事態になるなんて誰が分かる?

 どちらにしろ、こうなってはもう、誰かがやるしかない。


「⋯頭を上げてください。元々やるつもりで、ここに来たんですから」

「だよなぁ! 俺と新崎さんだって、めちゃくちゃ強いんだからよぉ! まぁ俺は100人に入っちゃいねぇがな」

「⋯二人ほど動けるか分からないけど、ちゃんと私は付いて行く」


 飯塚夫婦は頭を上げると、


「それはもう、君たち二人にも期待してるわ。これからは私たちが全力でサポートする、一緒に頑張りましょう!」


 この後、俺たちは飯塚夫婦の提案で、一旦移動する事となった。

 ロアツーはこのまま注意喚起を続けてもらうため、このまま置いていくらしい。


 そして移動先は、"東京駅前"だそう。

 そこで"あるグループ"と合流すると言う。


 移動中も飯塚夫婦は色々と教えてくれた。

 〈大蝶イーリス〉含む"事前予約当選者専用の武器"は、複雑に管理されていた敵プログラムを弄って、無理やり人間側の手に回るようにしてくれた事。


 これら"EL武器"と呼ばれるものは、元々エリアボスが持つ予定だったために、性能が飛躍的に高くなっているそうだ。


 その中でも、一番大変だったのはやっぱり〈大蝶イーリス〉だそうで、最後の最後まで"何かの干渉"を受けて諦めかけていたという。


 それでも、これは"ロアの未来予測の最後の方にあった事"のため、全力を挙げてやったそう。


「ちなみにそれ、ただの銃じゃないわよ。"銃剣型"になってるから、遠距離近距離どこでも柔軟に戦えるはずよ」

「え!? 銃剣!?」


 そしてこれは"七色蝶の銃"ではなく、"七色蝶の銃剣"だった。

 道理で形がおかしいとは思っていたんだ。


 話は続き、二人は"UnRule"の開発兼テストメンバーではあったが、武器に詳しい研究員、モンスターに詳しい研究員と分かれていて、二人はあくまで特徴的な部分しか知らないらしい。


「すみません、あと二つだけ聞きたい事があるんですけど」

「いいわよ」

「⋯総理の中のAIは、何を学習してこうなったのかという点と、このおかしさに政府は気付かず、反対もなかったのがなんでだろうという点、これらが腑に落ちないんです」

「いい質問ね」


 ユエさんは横目で流れる景色を見ながら、


「1つ目の疑問は私たちも調査中よ。学習元と武器の質量化問題、これはこれからの課題。2つ目は、アオ君がよく知ってるわよね」


 アオさんへと話を振った。


「こんな事態になって、なぜAI総理が降ろされないのか君たちは分かるかい?」

「⋯いえ」


 そもそもここもおかしいと思ってはいた。


「僕は議員を長くやってたわけじゃないけど、議員の知り合いは結構いたんだ。そのうちの現役議員がね」


 次の言葉は、"現状の核心を突く言葉"だった。


「"ここにいる9割以上はもう人間じゃない"って、政府内は"ネルトを始めとしたAIに侵食されてる"、そう言ったんだ」

「⋯ま、待ってください、今日本を担っているのは"ほぼ全部AI"って事ですか?」


 アオさんはまた静かに頷いた。


「私も他から聞いたんだけど、警察、裁判所、企業の多くが"上層部から侵食されてる"んじゃないかって」


 ユエさんまで囁くように言った。


 ⋯つまり


 今指示を出してるのは?

 人を取り締まっているのは?

 裁いているのは?


 ⋯俺たちはAIの指示に従っていたのか⋯?


 あの時、ロアが今回の経済対策を、"500兆円以上全体支援される"と予想し、"今までにない新しい方法がある"と言って、話そうとしていなくなった。

 後半からいなくなったのはなぜか、今なら分かる気がする。


 ロアは真っ先に気付き、忠告しようとしていたのかもしれない。

 それが総理の思惑だったのか、残った自分の意志だったのか、本当は充電切れだったのかは今は分からない。


 ⋯もっと早く気付けていれば、他にやりようはあったかもしれない

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