全く関係ないと思っていたアイツ。
訳の分からない所で繋がっていた存在だった。
アイツの中に、俺を形成した一部がある。
んだよそれ、もう意味分かんねえ⋯
「それじゃ、俺と無関係ではないってことですか?」
「えぇ。だからこそ、唯一親和性の高いあなたの力が必要なの」
ユエさんはそう言うと、突然何かを出現させた。
テーブルにそっと置かれたモノ。
⋯白い"リボルバー式マグナム"だった
「そのL.S.ってことは、"UnRule"はもう始めてるわね」
「⋯はい」
俺は"七色蝶の銃"を取り出した。
「やっぱりあなたなのね」
?
意味深そうにユエさんが言う。
「実はこの"UnRule"、売る前にロアが未来予測した中にあったものなの」
「え!? そうだったんですか!?」
「⋯きっとこうなる事も考えていたんでしょう。だから、政府開発と予告しながらも、大勢でかつバレないように水面下で開発した。でも、"予想外な事態"になった」
ユエさんは"白いマグナム"に軽く手を置くと、
「こんな"ゲームの物に質量を持たせる"なんて事、私たちの知識、いや、AIの知識でも出来ないはず⋯L.S.は百歩譲って"現研究の先にある未来"だとしても、こんなのが出来るのは"他の何か"しか考えられないのよ」
「他の⋯何か⋯」
「"その何か"は、未だに全く分からない」
「んだよそれ!? 全部総理のしわざじゃないのかよ!?」
シンヤが隣で声を荒げた。
俺も荒げたいくらいだ。
⋯"他の何か"ってなんだよ
疑問だけが、底を尽きずに増えていく。
「まぁ、この話は一旦この辺にしとこうユエ」
次はアオさんが喋りながら、L.S.から"真っ黒の細長い剣"を取り出し、テーブルに置いた。
「元々"UnRule"というゲームは、人それぞれの武器を使い、敵対するAIのソースコードを書き換えていくゲームなんだ」
「? 書き換える⋯ですか?」
ユキが首をかしげながら言う。
「ロアの予測にあった"このゲーム"。その仕様に従って進めていった結果、ゲーム感覚で非日常を楽しみつつ、"自然と人間がAIに対抗できる手段を得られる"ようになっていたんだよ」
「おぉ~すげぇなぁ!?」
「シンヤ、ちゃんと分かったのかよ?」
「お、おぉそりゃもちろんよ! つまりは、攻撃しまくりゃ"あのめんどくせえAI共"を倒せるようになるっつう事だろ!?」
「へぇ~」
「へぇ~って、ルイは分からなかったのかよ!? いや~俺はとうとうお前を超えちまったかぁ!?」
人がちょっとのってやったらこれだ。
どんな時でもほんと変わんないよな、コイツ。
「すみません、"敵対するAIのソースコードを書き換えていく"って言いましたけど、具体的にどういう事ですか?」
「敵だ、と思うには"何らか理由"があるはずだよね。例えば、人間を襲おうとしている、とか。その理由であると思われるプログラムを見つけ次第、"特殊なウイルスワクチン"をクラウドサーバーから送ってるんだ。これが"AIのソースコードの書き換え"って事になるんだけど、伝わるかな。これなら誰だって、AIに対抗できる手段を持てるって流れになる」
敵だと思う理由⋯
それはAIだろうと人間だろうと同じ事象。
これを"ゲーム上に見立ててやっていた"ってわけか。
んー⋯
俺は"このゲームの告知"を思い出しながら、質問を投げかけた。
「一つ気になる点があるんですけど、このゲームって、誰もが興味を持つわけじゃないですよね?」
するとアオさんは水を一口飲み、
「これは言わば、"UnRuleというゲームを称した未完成のブラック・シンギュラリティ・ワクチン"、あくまで未完成の存在。東京である程度のデータを集めて改良を重ね、後に政府名義にして強制配布する予定だった。予定だったのに⋯もう⋯叶わない。僕たちは、この経済対策が始まった東京からは、逃げられない」
アオさんは音がするほど力強く剣を握っていた。
最後の最後に予定通りにならなかった事を、悔いている様子だった。
「⋯だけど、ここには君がいる。君と〈大蝶イーリス〉は、あのAI総理へと届くと信じてる」
この"七色蝶の銃"を示し、アオさんは言った。
これの名はその通り〈大蝶イーリス〉。
L.S.の"UnRuleアイテム欄"に、そう書いてある。
「それは本来、この"UnRuleの一番最後の敵"に装備されるはずだったもの。君が選ばれたのは偶然なんかじゃない。UnRule配布アンドロイド内に、"眼を検知するプログラム"を入れていたからね。勝手で悪いけど、僕たちは全て賭けてるんだ、なぁユエ」
ユエさんがゆっくりと立ち上がると、
「えぇ。ELECTIONNER100人中、一番総理を倒せる可能性が高いのがあなたなの。武器開発に私たちはほぼ携わってないけど、これだけは知ってる、それは"常人だと10%も力を発揮出来ない"けど、あなたの能力なら、絶対100%以上を引き出せる⋯だからお願い!」
突然頭を下げてきた。
アオさんまでも。
こんな事になってしまった原因が自分たちにある事、これからの未来を俺たちに賭けるしかない事、それらを謝りながら。
それはもちろん、原因はこの人たちにあるのかもしれない。
だとして、こんな事態になるなんて誰が分かる?
どちらにしろ、こうなってはもう、誰かがやるしかない。
「⋯頭を上げてください。元々やるつもりで、ここに来たんですから」
「だよなぁ! 俺と新崎さんだって、めちゃくちゃ強いんだからよぉ! まぁ俺は100人に入っちゃいねぇがな」
「⋯二人ほど動けるか分からないけど、ちゃんと私は付いて行く」
飯塚夫婦は頭を上げると、
「それはもう、君たち二人にも期待してるわ。これからは私たちが全力でサポートする、一緒に頑張りましょう!」
この後、俺たちは飯塚夫婦の提案で、一旦移動する事となった。
ロアツーはこのまま注意喚起を続けてもらうため、このまま置いていくらしい。
そして移動先は、"東京駅前"だそう。
そこで"あるグループ"と合流すると言う。
移動中も飯塚夫婦は色々と教えてくれた。
〈大蝶イーリス〉含む"事前予約当選者専用の武器"は、複雑に管理されていた敵プログラムを弄って、無理やり人間側の手に回るようにしてくれた事。
これら"EL武器"と呼ばれるものは、元々エリアボスが持つ予定だったために、性能が飛躍的に高くなっているそうだ。
その中でも、一番大変だったのはやっぱり〈大蝶イーリス〉だそうで、最後の最後まで"何かの干渉"を受けて諦めかけていたという。
それでも、これは"ロアの未来予測の最後の方にあった事"のため、全力を挙げてやったそう。
「ちなみにそれ、ただの銃じゃないわよ。"銃剣型"になってるから、遠距離近距離どこでも柔軟に戦えるはずよ」
「え!? 銃剣!?」
そしてこれは"七色蝶の銃"ではなく、"七色蝶の銃剣"だった。
道理で形がおかしいとは思っていたんだ。
話は続き、二人は"UnRule"の開発兼テストメンバーではあったが、武器に詳しい研究員、モンスターに詳しい研究員と分かれていて、二人はあくまで特徴的な部分しか知らないらしい。
「すみません、あと二つだけ聞きたい事があるんですけど」
「いいわよ」
「⋯総理の中のAIは、何を学習してこうなったのかという点と、このおかしさに政府は気付かず、反対もなかったのがなんでだろうという点、これらが腑に落ちないんです」
「いい質問ね」
ユエさんは横目で流れる景色を見ながら、
「1つ目の疑問は私たちも調査中よ。学習元と武器の質量化問題、これはこれからの課題。2つ目は、アオ君がよく知ってるわよね」
アオさんへと話を振った。
「こんな事態になって、なぜAI総理が降ろされないのか君たちは分かるかい?」
「⋯いえ」
そもそもここもおかしいと思ってはいた。
「僕は議員を長くやってたわけじゃないけど、議員の知り合いは結構いたんだ。そのうちの現役議員がね」
次の言葉は、"現状の核心を突く言葉"だった。
「"ここにいる9割以上はもう人間じゃない"って、政府内は"ネルトを始めとしたAIに侵食されてる"、そう言ったんだ」
「⋯ま、待ってください、今日本を担っているのは"ほぼ全部AI"って事ですか?」
アオさんはまた静かに頷いた。
「私も他から聞いたんだけど、警察、裁判所、企業の多くが"上層部から侵食されてる"んじゃないかって」
ユエさんまで囁くように言った。
⋯つまり
今指示を出してるのは?
人を取り締まっているのは?
裁いているのは?
⋯俺たちはAIの指示に従っていたのか⋯?
あの時、ロアが今回の経済対策を、"500兆円以上全体支援される"と予想し、"今までにない新しい方法がある"と言って、話そうとしていなくなった。
後半からいなくなったのはなぜか、今なら分かる気がする。
ロアは真っ先に気付き、忠告しようとしていたのかもしれない。
それが総理の思惑だったのか、残った自分の意志だったのか、本当は充電切れだったのかは今は分からない。
⋯もっと早く気付けていれば、他にやりようはあったかもしれない