目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第17話 一部

「⋯⋯? え? 僕ですか?」


 一瞬、この人が何を言ってるのかよく分からなかった。


「あなた以外誰がいるの。まずその眼、それはあなたにしかない"イーリスメラニン"。その作用によって、黒と七色が入り混じって見えるの」

「っ!?」

「自分でおかしいと思わなかった?」

「い、いや⋯痣みたいなもんかと⋯眼下の先生にもそう言われていたので⋯」

「なら君たちは? 誰も気付かなかったの?」


 するとユキは、


「そんな特徴があるだなんて、一つも聞いた事無かったので⋯」

「あー、学校ではそこまでは教わらないのかぁ。他にも記憶力や運動能力、様々な能力が明らかに違ったはずよ」

「た、たしかに」


 ユキが"俺の眼"を間近でじろじろと見始めた。

 いや近すぎだろ。


 かと思えば、俺の身体を隅々まで弄り始めた。

 腹を触って「お~腹筋だぁ~」とか言ってるんだが。

 何やってんだコイツ。


「なんか今までの事、全部納得した気がする」

「納得って、なにが」

「だって、何やっても凄いなーって」

「んだそりゃ」


 その直後、次はシンヤが肩を掴む。


「はは! そりゃ俺が何やっても勝てねえわけだよなぁ!? 他のヤツには勝てるのによぉ!」

「お前、ほんとは根に持ってるだろ」

「んなわけねぇだろ!? いい練習相手がいるってことだ!」


 この二人は信じ切ってるようだけど⋯

 これが何を表してるのか、ちゃんと分かってるのか⋯?


 "イーリス・マザー構想"は、俺たちが中学生ぐらいの頃から聞いてきた話だ。

 教科書にずっと載るくらいの内容で、テストでもよく出たのを覚えている。


 ある施設によって、変異体の受精卵が作られた後、そこへ世界初の"虹の成分"を加えるという禁忌人体実験。

 でも、調査に入られた時には"もぬけの殻状態で、失敗の跡だけがあった"って、授業で聞いたのはそこまでだ。


 ちなみにテストで出たのは、【もしこの実験が成功していたら、どんな人が生まれたか考えよ】という、子供の想像の無限大さを利用したものだった。

 これにずっと興味持ってるヤツもいたのを覚えている。


「本当に僕なんですか? あれは失敗で終わったはずじゃ」

「そこまでが学校で習った内容?」

「⋯はい」


 ここからユエさんのぶっ飛んだ話が始まった。


「そんなの前座も前座よ、もっと続きがあるわ。"虹の成分"だけだと何度やっても失敗する事が分かった一団は、あなたを小型衛星に入れて"月の裏側"に飛ばしたのよ」

「は!? "月の裏側"!?」

「そう。当時のAIも使って導かれた理論では、"61億年に1度だけ月の裏側で行える調和"しか、成功は無いと証明されたの。それがブラックホールを生成するとされる素粒子の一部と、その対と考えられるホワイトホールの素粒子の一部による"絶対不可能調和"。それがあなたの体内で最後に行われた事」

「⋯???」

「今は意味を理解しなくていい。奇跡を超えた超奇跡、これが"本当のイーリス・マザー構想"なのよ」


 なんでこの人はこんな得意そうなんだ?

 この話が好きなんだろうか⋯?

 ここからの話もまた飛んだ内容だった。


 ユエさんの母親が、"イーリス・マザー構想一団の一人"だった事、俺の親も"その一団のはず"だ、と。

 ある日赤ちゃんだった俺を、今の両親が盗み、それ以来消息が分からなかったという。

 ただ、眼の様子は動画で残しており、教えられていたユエさんが今回すぐ気付いたそうだ。


 ⋯何も知らなかった

 それほど普通の生活をしてきたから。


 多量すぎる不可解な話に、俺は一呼吸を置いた。

 これが事実だとして、まだ理解できそうにない。


「あなたが落ち着くまで、一旦話題を変えましょうか。ロアの事とか気にならない? テレビにいたのに、なんでここにいるのか、とかね」

「そう⋯ですね」

「でしょ。あれは"テレビとは別のロア"なのよ」

「?」


 一瞬意味不明だったが、周りを見て意味が分かった。

 "ロアはいろんな種類がいる"、という事に。


「さっきいたのはロアツー、ここにいるのはプロトロア。そしてテレビのあれは一番高性能なの、充電機能を除いたら」

「ほぇ~、アイツが一番なのかぁ~、よく喋るよなアイツ」


 シンヤがケーキを貪りながら呟いた。

 お前どんだけ食うんだよ。


「ロアはね、尖った研究者を募って試験的に開発されたものなんだけど、ビッグデータからの未来予測精度が極めて高くてね。ただその分、維持費がバカにならなかったわ。だから限界が来て、あれを売ったのよ。きっとこれが、"AI総理の始まり"になってしまったの」

「"AI総理の始まり"? なぜですか?」

「⋯政府に売ったからさ」


 俺の質問に答えたのは、アオさんだった。


「その時、研究者と議員を兼任していた僕が提案してしまったんだ、"これを政府に売ってみるのはどうだろうか?"って。一番金に融通の利く国に、管理してもらうのがいいって思ったんだ。これが意外にもスムーズに話が進んで、提示されたのは1兆円だった」

「「1兆円!?」」


 ユキとシンヤが声を上げる。


「驚くよね、僕もほんとにびっくりしたよ、ここまで上手くいくなんて思っても無かったから。この収益で、ロアが示してくれた次の道、"人手不足限界地のAI最適化"をやって、僕たちで覇権を取ってやろうって考えてた⋯"アレ"が出てくるまでは」

「⋯"アレ"? それが、"AI総理"ですか?」


 アオさんは静かに頷いた。


「異常だった。頭角を現した瞬間、一瞬で何もかもをありえない速度で先にAI化して⋯僕はそんな話、一度も聞いていなかったのに」


 アオさんは一度水を飲むと、


「僕たちが一部として参加した"R.E.D.紅生秘計画"。これを君たちにも知っておいて欲しい」


 俺たちに真っ赤な資料を差し出した。

 【※これは関係者以外に必ず渡してはならない】って書いてある、これ読んでいいのか⋯?


「僕たちが"アレ"と関わったのは、簡単な設計図の確認だけ。後は、ロアを参考として作られた新型未来予測AIによる新規開発、それがAI総理。いや、R.E.D.こと、"Remake the Eerth for Developmentの正体"だ」


 アオさんが指でさした資料の先。

 そこには、【Remake the Earth for Developmentの誕生について】とあった。


 ⋯AI総理の正体


 それは"新型未来予測AIによって生まれたAI"という事だった。

 外核に新型未来予測AI、内核には"総理を形成するコアAI"があるという。


 隣の二人も、見た事無い資料に目が釘付けになってる。

 俺もそうだけど。


 ⋯なんだか話が複雑になってきたな

 要は、AIがAIを作って悪さをしている、そんな感じだと思う。


 でもこれだと、よく考えるとおかしな点があった。

 このAIは何を学習してこうなったのか、なぜこのおかしさに政府は気付かずに反対もなかったのか、という事。


 次にこれらを聞いてみるか。

 こんな聞けるチャンスは滅多にない。


「なんかよく分かんなくなってきたなぁ、ルイと新崎さんは分かるのかよ?」

「まぁな。また後で説明してやるよ」

「おぉ~! さんきゅー!!」

「あのー!」


 急にユキが口を開く。


「ここに【イーリス・マザー構想の一部機械導入済】とあるんですけど、これはなんですか?」

「あー、これね」


 次はユエさんが資料を開き、その疑問の書いてある部分を示した。


「ここを見て。変異体の受精卵を作った特殊生成器、それもAI総理形成の一部として入っているみたいなの。つまり、"彼の元を作った一部"も⋯総理の中にいる」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?