話しかけてきていたのは、あの"ロア"だった。
俺はすぐに窓を開ける。
「なんでロアがここに!?」
「この辺が危ないので、朝から呼びかけているんです」
朝からここに!?
番組から急に消えてどこへ行ったのかと思えば、こんなところにいたのか。
「あれは"輝星竜スターシリウスドラゴン"という、本来"UnRuleのゲーム内でのみ"で出るはずだったモンスターです」
「⋯それが現実世界にいるって?」
「はい、仕組みは私もまだ理解出来ていません。分かっているのは、一定以上近付けば、あの背中から"ハイブリッドメテオ"を撃たれて死ぬ事です」
"ハイブリッドメテオ"ってのは、さっき落ちてきたアレか?
⋯当たっていたらやっぱり
「タクシーを限界まで速度を上げて近付くってのは出来ないか?」
「それは不可能です。あの"ハイブリッドメテオ"というのは、追尾システムが付いており、それで何人もやられています」
「っざけんなよ!! なんだよそれッ!?」
シンヤが怒鳴り声を上げる。
俺とユキでなんとか抑えると、ロアは続けた。
「ですが、ある程度距離を保てば、追尾せずに自由落下します。それがこの辺りまでなんです。仮にあの"ハイブリッドメテオ"を何とかしても、まだまだ次の攻撃があると見るべきでしょう」
⋯
入る以前の問題だった。
段々腹が立ってきた、あのクソ総理に。
ネルトよりも何倍も厄介な存在。
⋯てか、ロアはなんでこんなに詳しいんだ?
見てただけで、ここまですぐに分かるもんなのか?
いや、名前なんて特に分からないはず。
「そういやお前、やけに詳しいんだな」
俺の思っていた事を真っ先にシンヤが問いかけた。
「それは"現在同行している方"が、よく知っておられるからです」
「⋯誰といるんだ?」
「それは言えません。もし言えば"質問攻めを受けるから"、と」
質問攻め?
余計に気になるな。
ここは引き下がってはいけない気がする。
「なぁ、俺たちは本気で総理を止めるためにここに来た。そのためには、一つでも多くの事を知る必要がある。今だけ協力」
「申し訳ありません。覚悟は素晴らしいですが、私はこう答えるしか」
その時、ロアの背後から誰かが現れた。
⋯女性?
白衣を着た黒髪の女性だった。
「この人は特別だから、質問は受けるわ」
「"ユエ様"よろしいのですか? あれだけ拒否してくださいと言われておりましたが」
"ユエ様?"
ん?
おい、もしかして⋯!
「いいのよ。他の人は拒否しといてね」
「承知しました」
「というわけだから、聞きたい事は全部受けるわ。こっちに一緒に来てくれる?」
「え、ありがとうございます」
"ユエ様?"は軽い笑みを浮かべると、俺たちをある場所へと案内した。
そこには見た事も無い形の車と、一人の男性が後部座席でドアを開けたままに、座っていた。
「お、その様子はやっぱり"あの子"だった?」
「えぇ、"この目"ですぐに分かったもの」
"ユエ様?"は俺の背中を軽くさすった。
この二人はなんの会話をしてるんだ?
俺たちはポカンと見つめているしかなかった。
それにしても、なんで許可されたんだろう。
「さぁ立ち話もなんだし、こっちへいらっしゃい」
「あ、えっと、お邪魔します」
俺、ユキ、シンヤの順で車内へと入り、後部座席に座っていく。
この車内がとにかく広い。
中には大きなテーブルがあり、その周りを囲む形で座れるようになってる。
さらに、"ロアにそっくりな狼型アンドロイド"が5機もおり、それぞれが奥からデザート、ジュース等を取り出して、テーブルに置いていく。
さっきのロアは灰色だったのに対し、ここにいるのは"全部が青色"なところが違いだろうか。
そして、この待遇。
俺たち別に何もしてないよな?
何とも言えない状況に気を遣ってくれたのか、待っていた男性が口を開いた。
「好きに食べてくれていいからね。他のがいいなら、こうやって好きに頼んでくれてもいいよ」
男性は、テーブル上に浮かぶ空中パネルを操作し、ショートケーキを注文してみせた。
これは"非接触パネル"か?
本人が見る角度からは、空中に浮かんだ画面が見えるが、他の角度からは見えないようになっている。
セブンイレブンやローソン等の、コンビニで見た時の近未来感が懐かしい。
L.S.の複数ホログラムパネルが出る前は、この"非接触ディスプレイ"がトレンドだったんだよな。
結構な機械が必要とされていて、それで大画面を介す必要があって。
でも、それが一人一つずつ目の前にあるのは凄いな。
って、その前にこの人は誰?
「あのー、あなたは」
「あぁごめんね。僕は飯塚アオ、飯塚ユエの夫です。急に誰だってなったよね」
まさかの夫だった。
あの人、結婚してたのか。
「いえ⋯それでなんで僕らは特別なんですか?」
「それは」
アオさんが言おうとした瞬間、ユエさんが割り入り、
「それはあなたが、"イーリス・マザー構想の成功者"だからよ」