この夜、停電が直っても二人を帰らせる訳にはいかなかった。
ここにいる全員一人暮らしなのもあって、余計にだ。
俺の両親は高校2年時に、アメリカのニューヨークへ転勤。
ユキの親は高校卒業と同時に、俺の親と近い場所へ転勤。
シンヤは元々孤児だったのもあって、ずっと一人暮らし。
そういや、シンヤの昔の事はあまり聞いたこと無いな。
また時間が合えば聞いてみるか。
今はそれどころではないし。
「⋯ダメだ」
「こっちも」
現状の"狂った総理と東京の事"を一旦親に話そうと思い、さっきから連絡してるけど、繋がらない。
なぜかと思って調べてみると、
「東京から大阪に繋がらないんだけど」「広島へもダメだった」「海外にも無理」とあった。
「停電と同じで、電話網も操作されてるってこと?」
「⋯かもな」
すぐその後、"ヤバい動画"がXTwitterで流れてきたとシンヤが言う。
今はXTwitterという、"XとTwitterを統合してさらに改良された新SNS"が、情報源の一つとなってる。
「⋯なによ⋯これ」
「⋯」
⋯言葉が出なかった
シンヤが見せたのは、"東京外へ出ようとした人が、大人数の警察に射殺されてる動画"だった。
"上司に反発した警察官がすぐ殺された"というニュースもある。
もう頼れる先も無くなっていた。
東京から逃げようとしても殺される。
これが海外だったら、集団反乱を起こす可能性は高い。
が、日本は国民性からしてそういった反乱をしない。
消費税を16%にすると言った時も、寝るばかりの議員の給与がさらに増えた時にも、大きな反乱が起こる事もなく、ネットを通してどうにか出来ないかとばかりやってきた。
今回ばかりは、それらが通用しない。
"リアルでの大反乱"が必要とされている。
その大反乱でさえ、現状どこまで通用するかは分からない状態だけど⋯
俺たちは風呂や食事を済ませた後、とにかく話し合った。
明日からどうするか、決めないといけない。
「まず"国会議事堂へ行ってみる"ってのはどうだ? "今の総理が置かれている特別な部屋がある"って情報を、ある国家研究員がリークしたらしい」
「へぇ~、すげぇ研究員がいるもんだな!」
「この"飯塚ユエ"さんって人だ」
俺はL.S.の画面をユキとシンヤへ共有する。
飯塚ユエさんには"赤の認証マーク"が付いており、"赤"はAI総理と関連がある証だ。
「この人がさっきから情報を流してくれてる。それに、R.E.D.の開発の一部に携わったり、"UnRule"のテストメンバーだったって」
「へぇ~、どうにか会えないかな?」
「それは無理かもな⋯たぶんとんでもない人数が押し寄せてる」
「他に会えそうなのいねえのかぁ!?」
「いるかもだが、国家研究員全員がこっちの味方かどうかもまだ分からない。今信用出来るのは、"ここまでしたこの人くらい"だと思う」
「⋯なら、明日は国会議事堂へ行くって事にしましょうか。でも周囲の警備がキツそうね」
「まぁ、やるだけやってみよう」
すると、シンヤは急に"赤色の細長い銃"を取り出し、
「どんなんがいようと、高校の時に"優勝"しかしなかった俺らならいけんだろ!!」
「おい、ここで暴れんな」
「まぁまぁ、こんくらい気合い入れとかないとだろ!?」
ユキが笑い始め、明るい空気が流れだした。
こんな時にシンヤがいるのは心強い。
コイツは出会った時からそうだった。
♢
シンヤと会ったのは高校2年の春。
2年生になったばかりの時期。
新設されたばかりの"渋谷理学公立高校"に通っていた俺とユキは、同じクラスになった。
1年生では違ったわけだが、ユキはよくこっちへと来ては、俺の傍へと寄ってきた。
"常に成績1位で容姿端麗の女子"が自ら来るってのは、周りが黙っちゃいないのが現実。
なんでお前なんだだの、早く離れろだの、こそこそと何回言われたか。
「なにしにきたんだよ」
「いつも寝てるんだから、たまには相手して」
「他にもいるだろ。今だって、こっち見てなんか言ってるぞ」
「(⋯ルイ以外話す価値無い)」
小さい声で凄い事言いやがったぞ、こいつ。
"前の片鱗"が出てるなこれ。
1年時はずっとこんな調子だった。
そこから2年生になって一緒になったわけだが、席は前後で大きく離れた。
と思ったのも束の間、先生に頼んで無理やり俺の隣の席にしやがったんだ。
次期生徒会長の言う事だからって、先生は何でもかんでも聞き入れやがって。
「⋯よろしく」
「別にあっちでもいいだろ」
「ダメ。ここならルイの事がすぐに分かるもん」
「親か」
「親よ」
「マジ?」
「マジよ」
「⋯もう喋るな」
そんな時、急に転校してきたのがアイツだった。
自己紹介の内容は今でも覚えてる。
「え~、有川シンヤです! 実は俺、記憶喪失らしくて記憶がほぼないんですよね~! その分、楽しい思い出作れたら嬉しいです!!」
この後、シンヤは一気にクラスの皆と仲良くなっていった。
勉強が特段出来るわけじゃなかったが、運動神経は明らかに人間離れ。
そんなヤツがまだ部活に入ってないってんだから、放課後の部活勧誘は当たり前。
まるでユキの"登校初日"を見ているようだった。
しかも結構モテるしな、アイツ。
そんなある日の放課後、俺が一人の時を狙って声をかけられた。
「よっ! 三船君!」
「ん」
「いつも新崎さんと話してるからさ、話しかけ辛いっつうかなんつうか」
「あいつが勝手に話しかけてくるからな。別に気にせず来りゃいい」
「そうなのか!?」
シンヤは急に右手で握手してきて、
「てっきりよぉ? 最初見た時"話しかけるな"って感じしたから、躊躇してたんだぜ?」
「あの時は寝起きみたいなもんだったからな」
「そういう事かよ~! 嫌われてるわけじゃないよな!?」
「別に嫌ってなんかねえよ。それより、野球とかサッカーとか部活入らないのか? さっきも勧誘されてただろ」
「ん~、なんかピンと来なくてよぉ。そういう三船君はなんかやってんの?」
「俺は"e-sports AR部"ってのに、適当に入ってやってるよ」
「なんだそりゃ?」
「"仮想世界の現実"で、いろんな武器を使って個人戦とかチーム戦とか」
「おぉ、案外面白そうじゃね? 俺もそれちょっとやってみたいぜ!」
「ん~、じゃこの後ユキも来るけど、一緒に部室行くか?」
「おう! よろしく!」
シンヤと親友になったのはそこからだ。
個人戦ではいつもシンヤとの決勝戦、チーム戦はいつも俺、ユキ、シンヤのトリオ。
毎年、謎に全国優勝しまくったのも、今では良い思い出かな。
シンヤにも良い思い出になればと誘ったが、決勝では全部俺が勝って悪い思い出にしちまったかも。
まぁ、だからこそこうやって三人で仲良くいられるのかもな。
♢
それぞれが風呂や食事等を済ませた後、まず一人ずつが俺の部屋で仮眠をとる事にした。
日付が変わった今、もしかしたら"ヤツら"が襲ってくるかもしれないからだ。
「シンヤ君、交代。ゆっくり寝てきて」
「まだ朝4時だぜ? もういいのかよ?」
「うん。昨日昼から夕方にかけて結構寝てたからね」
「んなら、ルイ! 久しぶりにベッド借りるぜ!」
「おう」
オールして遊んだ時、あいつは俺のベッドでよく寝てたな。
最近はもうほとんど無いけど。
もう1つベッド用意してやってんのに、あいつなんでか俺のヤツで寝やがったんだよな。
そして、シンヤと代わってユキが隣へと座った。
ピンクのルームウェアの姿のままだ。
「眠くない?」
「全然眠くない」
「無理しないようにね」
「たぶん昨日一緒に寝たのが効いたわ、ってかこれ」
俺はPiitaが持ってきたコップをユキへと渡した。
中身は"キッタさんの果実100%リンゴジュース"だ。
「昔からほんと好きよね、これ」
「なんか名前が好きだからな」
「わかる」
ユキは一口飲むと、テレビを眺め始めた。
流れている内容は、昨日警察に射殺された事件と現在の東京各地の様子。
東京から出ようとしただけで殺されるなんて、一日経っても理解が追い付かない。
「たぶん、他にももっと犠牲者いるよね⋯」
「⋯たぶんな」
ユキがくっ付いてくる。
「大丈夫⋯だよね」