「逃げるぞッ!!」
俺は無理やりユキの手を引いて、5階の階段の方へと走った。
こんなの、逃げるしかない!!
「弾、当たったよね!?」
「当たったッ! でもアイツは起きやがったッ!!」
あの"剣のような何か?"は、なんだったんだろうか。
逃げろという電気信号が、全身へと伝い続ける。
早く⋯早く1階のシンヤと合流しないと!
二人だけじゃたぶん無理だ!!
戦慄襲う身体は、階段へと無意識に走る。
一瞬後ろを見ると、
なんで⋯追ってこない⋯?
4階への階段手前へ着いた時、その不穏は形になった。
「ッ!!」
「きゃぁ!?」
突然天井が爆発して崩れ、ヤツがそのまま降りてきた。
4階への道が塞がれて行けないッ!!
「ねぇ!! 後ろにも!!」
背後を見ると、5体ほどのヤツらがいつの間にか潜んでいた。
もうどこを見ても逃げ道は無かった。
「やるしか⋯ないの⋯?」
ユキは少し過呼吸気味になっていた。
これ以上、激しい無理はさせられそうにない。
⋯選択肢は2つ
背後のヤツらに"残弾全て"を使ってこじ開けるか、目の前の赤いヤツを死ぬ気でやるのか。
前者は一番イメージが湧く。
⋯一つ不明な事を除けば
この銃が"連発できるのかが分からない"。
かなりの威力があるように見えたため、連発できない可能性もある。
もし、"一発ごとにチャージが必要"であれば、ユキの鎌に賭ける事になる⋯
それと合間に、他のヤツらの攻撃を避けなきゃいけない。
でも成功すれば、あの先の原田研究室に"アレ"があるはずだ。
後者は⋯正直上手くいく想像ができない。
この銃とあの鎌でどこまでやれるのか⋯
もう考えている暇は無い!
「ちッ! ユキは俺の後ろに続いて走り続けろ!! 絶対止まるな!!」
「⋯わかった!」
「もう少しだけ頼む⋯!」
俺が走った先は⋯
「邪魔を⋯するなッ!!」
残弾数"5"を表すこの銃を、走りながら1体目に放つ。
その瞬間、周囲に散らばる七色の蝶の羽根。
鋭い細光が、1体を吹き飛ばした。
それによって出来た、人一人が通れるギリ通れそうな道。
ラッキーな事に、飛ばしたヤツが周りを巻き込んでいた。
俺はそれを見逃さなかった。
滑り込むように割り入り、左2体に向けて銃を放った。
頼む⋯連続で撃てるようになっててくれ!!
そう祈りながら撃った結果は⋯
⋯
⋯⋯
― 願いは通じた
間近で散らばる一気に七色の蝶の羽根。
左2体を連続で飛ばした後、即座に体を捻り、右にいた2体も吹き飛ばした。
そしてすぐ、差し出されたユキの手を取って立ち、原田研究室へとそのまま一緒に走った。
「ガアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」
後ろからヤツの叫び声が聞こえ、一瞬背後を向くと、
そこには⋯
― "2つの花の爆弾"
「ユキぃぃぃッ!!! 右に飛べぇぇぇッ!!!」
飛んだ時、とてつもない大爆発が後ろで起こった。
明らかに威力がさっきとはケタ違いだった。
激しく揺れる大学内。
廊下には瓦礫が幾つも落ち、ドア前は瓦礫によって塞がれてしまった。
この研究室内は意外な事に、なんともない。
息が上がった俺たちは、寝転び、
「はぁ⋯はぁ⋯なんとか⋯なったな」
「⋯死んだと⋯思ったわ」
「死なせるわけ⋯ねぇだろ」
ユキは一息つくと、立ち上がり、
「不思議よね。ルイといると、何でも出来る、どうにかなるって、思っちゃう」
「実際何でも出来るし、どうにかなるだろ?」
「そうね。でも、これはさすがに無理よね⋯」
「無理じゃねえんだそれが、こっち来てみろよ」
「?」
この研究室もまた広い訳だが⋯
実はシンヤと一回だけ来た事がある。
アイツは新東大生では無いけど、出入りは結構自由にできる。
俺が3年生になって、研究室を色々見て回った時、たまたま来たのがまさかここで役立つなんてな。
役に立たない知識は無いな。
「これって⋯エレベーター!?」
「先生専用の隠しエレベーター」
話の途中、通話が来た。
「学際理工学の方に来たぞ! そっちは大丈夫か!?」
GPSを見てみると、シンヤは学際理工学部研究棟Bの1階、ちょうど真下に来ていた。
「ついさっきまで死にそうだったけどな」
「もしかして"赤いヤツ"と会ったとかか!?」
「会った。爆弾なんか使いやがって」
「爆弾? なんだそりゃ? アイツが使ってたのはよぉ、なんかこう」
シンヤの言葉の途中、足元に違和感を感じた。
熱い感じがするような、これはなんだ?
「ルイ!! 下!!」
通話中、俺は下を見ると、
「!?」
なんと、真下に"真っ赤な円陣"が出来ていた。
その数秒後、円柱状の炎が陣から天井近くまで湧き上がった。
「下から炎がブワッと出てきてたんだよ。ただ、分かりやすいから、避けれると思って言わなかったんだ」
「お前、今まさにそれで俺死にそうだったんだが?」
「え、マジ? ほんまにわりぃ」
赤いヤツが"廊下側からやってきてる"って事か?
クソ野郎が、こんな時まで邪魔しやがって。
靴の底が全部焦げている。
ユキが「大丈夫!?」と近寄ってきたが、「大丈夫」と立ち上がる。
ユキの声で飛ばなかったら、絶対死んでた。
「遠距離でこれをやってくるのは分かった。他には何かやってくるのか?」
「いや、他は見てないからそれくらいだろ」
「分かった。1階のその辺りにはもうヤツらはいないか?」
「今はもういないな」
「なら原田研究室の、"あのエレベーター"で1階行くから、その辺で待ってろ」
「おぉ、あれ使うのか! やり方覚えてるよな?」
「忘れるわけねぇ」
通話を切り、エレベーターへ乗る準備を始めた。
「今の通話、シンヤ君でしょ?」
「そう、それでこれに乗るには基本"原田先生しか"乗る事が出来ない」
「え、それだと使えないじゃない!」
「まぁ見てろ。これ、一つだけ裏技がある、それはこうすれば」
「!!」
突然エレベーターは起動し、扉が開く。
「どうやったの!?」
「後で教えてやる。早く行かないと、またヤツがやってくる」
「⋯そうね」
乗ってすぐ、俺は"空中に指で1"を書いた。
エレベーターの扉は閉まり、1階へと動き始めた。
「ここのエレベーターって指で書いて動くのね」
「原田研究室は、昔から指とAIの研究をしてるからな、こうやって指でできるところ多いんだよ」
エレベーター内は範囲外なのか、ヤツの遠距離攻撃は来る事なく、無事エレベーターは"1"の数字を示して開いた。
「おぉ生きてて良かったぜ!! さすが天才の二人!!」
「バカ言え、何回死にそうになった事か」
「マジで爆弾なんてよぉ、知らなかったからなぁ~」
「ついさっき飛んで避けたのよ? もうイヤよ、こんな生きてるか死んでるか分からないのは」
「だな! 早く出ようぜぇ!」
やっとの事で新東大を出られた俺たちは、シンヤも連れてタクシーに乗り、また俺の家へと戻る事にした。