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第11話 合流

「逃げるぞッ!!」


 俺は無理やりユキの手を引いて、5階の階段の方へと走った。

 こんなの、逃げるしかない!!


「弾、当たったよね!?」

「当たったッ! でもアイツは起きやがったッ!!」


 あの"剣のような何か?"は、なんだったんだろうか。

 逃げろという電気信号が、全身へと伝い続ける。


 早く⋯早く1階のシンヤと合流しないと!

 二人だけじゃたぶん無理だ!!


 戦慄襲う身体は、階段へと無意識に走る。

 一瞬後ろを見ると、

 なんで⋯追ってこない⋯?


 4階への階段手前へ着いた時、その不穏は形になった。


「ッ!!」

「きゃぁ!?」


 突然天井が爆発して崩れ、ヤツがそのまま降りてきた。

 4階への道が塞がれて行けないッ!!


「ねぇ!! 後ろにも!!」


 背後を見ると、5体ほどのヤツらがいつの間にか潜んでいた。

 もうどこを見ても逃げ道は無かった。


「やるしか⋯ないの⋯?」


 ユキは少し過呼吸気味になっていた。

 これ以上、激しい無理はさせられそうにない。


 ⋯選択肢は2つ


 背後のヤツらに"残弾全て"を使ってこじ開けるか、目の前の赤いヤツを死ぬ気でやるのか。


 前者は一番イメージが湧く。

 ⋯一つ不明な事を除けば


 この銃が"連発できるのかが分からない"。

 かなりの威力があるように見えたため、連発できない可能性もある。

 もし、"一発ごとにチャージが必要"であれば、ユキの鎌に賭ける事になる⋯


 それと合間に、他のヤツらの攻撃を避けなきゃいけない。

 でも成功すれば、あの先の原田研究室に"アレ"があるはずだ。


 後者は⋯正直上手くいく想像ができない。

 この銃とあの鎌でどこまでやれるのか⋯

 もう考えている暇は無い!


「ちッ! ユキは俺の後ろに続いて走り続けろ!! 絶対止まるな!!」

「⋯わかった!」

「もう少しだけ頼む⋯!」


 俺が走った先は⋯


「邪魔を⋯するなッ!!」


 残弾数"5"を表すこの銃を、走りながら1体目に放つ。

 その瞬間、周囲に散らばる七色の蝶の羽根。

 鋭い細光が、1体を吹き飛ばした。


 それによって出来た、人一人が通れるギリ通れそうな道。

 ラッキーな事に、飛ばしたヤツが周りを巻き込んでいた。


 俺はそれを見逃さなかった。

 滑り込むように割り入り、左2体に向けて銃を放った。


 頼む⋯連続で撃てるようになっててくれ!!

 そう祈りながら撃った結果は⋯




 ⋯




 ⋯⋯




 ― 願いは通じた


 間近で散らばる一気に七色の蝶の羽根。

 左2体を連続で飛ばした後、即座に体を捻り、右にいた2体も吹き飛ばした。

 そしてすぐ、差し出されたユキの手を取って立ち、原田研究室へとそのまま一緒に走った。


「ガアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」


 後ろからヤツの叫び声が聞こえ、一瞬背後を向くと、

 そこには⋯


 ― "2つの花の爆弾"


「ユキぃぃぃッ!!! 右に飛べぇぇぇッ!!!」


 飛んだ時、とてつもない大爆発が後ろで起こった。

 明らかに威力がさっきとはケタ違いだった。


 激しく揺れる大学内。

 廊下には瓦礫が幾つも落ち、ドア前は瓦礫によって塞がれてしまった。


 この研究室内は意外な事に、なんともない。

 息が上がった俺たちは、寝転び、


「はぁ⋯はぁ⋯なんとか⋯なったな」

「⋯死んだと⋯思ったわ」

「死なせるわけ⋯ねぇだろ」


 ユキは一息つくと、立ち上がり、


「不思議よね。ルイといると、何でも出来る、どうにかなるって、思っちゃう」

「実際何でも出来るし、どうにかなるだろ?」

「そうね。でも、これはさすがに無理よね⋯」

「無理じゃねえんだそれが、こっち来てみろよ」

「?」


 この研究室もまた広い訳だが⋯

 実はシンヤと一回だけ来た事がある。

 アイツは新東大生では無いけど、出入りは結構自由にできる。


 俺が3年生になって、研究室を色々見て回った時、たまたま来たのがまさかここで役立つなんてな。

 役に立たない知識は無いな。


「これって⋯エレベーター!?」

「先生専用の隠しエレベーター」


 話の途中、通話が来た。


「学際理工学の方に来たぞ! そっちは大丈夫か!?」


 GPSを見てみると、シンヤは学際理工学部研究棟Bの1階、ちょうど真下に来ていた。


「ついさっきまで死にそうだったけどな」

「もしかして"赤いヤツ"と会ったとかか!?」

「会った。爆弾なんか使いやがって」

「爆弾? なんだそりゃ? アイツが使ってたのはよぉ、なんかこう」


 シンヤの言葉の途中、足元に違和感を感じた。

 熱い感じがするような、これはなんだ?


「ルイ!! 下!!」


 通話中、俺は下を見ると、


「!?」


 なんと、真下に"真っ赤な円陣"が出来ていた。

 その数秒後、円柱状の炎が陣から天井近くまで湧き上がった。


「下から炎がブワッと出てきてたんだよ。ただ、分かりやすいから、避けれると思って言わなかったんだ」

「お前、今まさにそれで俺死にそうだったんだが?」

「え、マジ? ほんまにわりぃ」


 赤いヤツが"廊下側からやってきてる"って事か?

 クソ野郎が、こんな時まで邪魔しやがって。

 靴の底が全部焦げている。


 ユキが「大丈夫!?」と近寄ってきたが、「大丈夫」と立ち上がる。

 ユキの声で飛ばなかったら、絶対死んでた。


「遠距離でこれをやってくるのは分かった。他には何かやってくるのか?」

「いや、他は見てないからそれくらいだろ」

「分かった。1階のその辺りにはもうヤツらはいないか?」

「今はもういないな」

「なら原田研究室の、"あのエレベーター"で1階行くから、その辺で待ってろ」

「おぉ、あれ使うのか! やり方覚えてるよな?」

「忘れるわけねぇ」


 通話を切り、エレベーターへ乗る準備を始めた。


「今の通話、シンヤ君でしょ?」

「そう、それでこれに乗るには基本"原田先生しか"乗る事が出来ない」

「え、それだと使えないじゃない!」

「まぁ見てろ。これ、一つだけ裏技がある、それはこうすれば」

「!!」


 突然エレベーターは起動し、扉が開く。


「どうやったの!?」

「後で教えてやる。早く行かないと、またヤツがやってくる」

「⋯そうね」


 乗ってすぐ、俺は"空中に指で1"を書いた。

 エレベーターの扉は閉まり、1階へと動き始めた。


「ここのエレベーターって指で書いて動くのね」

「原田研究室は、昔から指とAIの研究をしてるからな、こうやって指でできるところ多いんだよ」


 エレベーター内は範囲外なのか、ヤツの遠距離攻撃は来る事なく、無事エレベーターは"1"の数字を示して開いた。


「おぉ生きてて良かったぜ!! さすが天才の二人!!」

「バカ言え、何回死にそうになった事か」

「マジで爆弾なんてよぉ、知らなかったからなぁ~」

「ついさっき飛んで避けたのよ? もうイヤよ、こんな生きてるか死んでるか分からないのは」

「だな! 早く出ようぜぇ!」


 やっとの事で新東大を出られた俺たちは、シンヤも連れてタクシーに乗り、また俺の家へと戻る事にした。

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