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第10話 戦慄

「これ⋯陸田先輩の⋯? ユキ、来てくれッ!」

「あ! ルイっ!?」


 俺は今の場所から"3つ先の研究室"へと走った。

 今の声はたぶん"川中研究室"からだ。

 陸田先輩が所属しているのは"あの場所"だからだ。


 近付くと、また自動ドアは開いていた。

 中は真っ暗で、何が何やらよく分からない。

 そう感じた瞬間、右手に握っている"七色蝶の銃"の形状が変化し、先端から光を放ち始めた。


 ⋯これを使えって言ってんのか?

 ⋯奥まで見れるな、これなら


 俺が中へ入ろうとすると、


「待ってッ!!」


 突然ユキが腕を引き寄せた。


「本当に中に入るの⋯?」


 その表情はまるで、"さっきの出来事"を訴えているようだった。

 君野先生を殺した"アレ"が、また襲ってくるんじゃないかって。


「でも、陸田先輩を放っておけないだろ! 最初に俺たちに大学の事を色々教えてくれた先輩だ!」

「だけど、また"さっきのアレ"がいるかもしれないし、"赤いの"だってうろついてるんでしょ⋯?」

「そうだけど、だからって」

「⋯わかってる」


 すると、ユキは深呼吸をし、


「⋯ふぅ」


 直後、"何かを決めたかのような表情"をすると、


「ねぇ、"UnRule"を始めたら"それ"出たんだよね?」

「そう、だけど」


 彼女はL.S.を展開し始めた。


「⋯私もやる」


 俺が何かを言う前に、ユキの右手に"ある物"が出現した。

 全長2メートルくらいはあるだろうか?

 それは、冷気"がこっちまで伝わってくる"大きな鎌"だった。


 この時、そんなのどうやって出したんだと思った。

 ここに来る途中、"この銃の出た方法"を伝えておいたけど、なんか違うのを選んだのかと。

 けど、"UnRule"以外、こんなのを急に出せる物を俺は知らない。


 大鎌を見てユキは、


「"銃"じゃないの!?」


 小さく叫んだ。

 やっぱり"UnRule"を選んだようだった。


「⋯俺のと一旦交換しとくか?」


 俺の銃を渡してみると、


「は!?」

「え!?」


 なぜかユキの手から銃がすり抜けた。

 訳が分からなかった。


 "質量ある物"なのに、何度やってもすり抜ける。

 物理法則を無視したこの現象、でも今これを考える暇は無い。

 結局ユキは俺の銃を持つ事が出来ず、仕方なくこのままで入る事となった。


「危ないと思ったらすぐ逃げろよ、俺置いてっていいから」

「それするくらいなら死んだ方がマシ。私も"これ"でやる」

「でも"その鎌"重いんじゃないか?」

「それが凄く軽いのよ。すぐに振り回せそう」

「マジか。なら、ゲームみたいに意外と合うのかもな」

「かもね。ルイの銃は重いの?」

「いや軽い」


 ユキはゲームでよく鎌を使っていた。

 リーチが長いのと、意外な遠距離攻撃もあったりで、見た目以上に器用なところが好きらしい。

 その影響がここに出ているのだろうか?


 それにしても、さっきから陸田先輩を呼んではいるが、返事は無い。

 あの人がいる席は、"一番奥の左端から2番目"だ。

 俺が照らして先に行く。




 ⋯




 ⋯いない




 なんでだ?

 ここの席が先輩の場所のはず。


「⋯ん? なんだこの臭い。なんか"焦げ臭い"ような⋯」

「ルイ!! 右ッ!!」

「ッ!?」


 ユキの言葉ですぐ右を向く。

 そしたら⋯


 ― 右奥から突如炎が膨れ上がっていた


 そしてそこを照らすと、立ち尽くす陸田先輩の姿があった。


「先輩ッ!! 早く逃げましょう! 変なヤツらが大学内に!!」

「⋯待って⋯おかしいわ⋯」

「⋯え?」


 直後、陸田先輩はおかしな声を出し始め⋯


「グギ、グギギギギギギギィィィ」

「先⋯輩⋯?」


 徐々に身体が変色していった。

 燃え盛る炎を背に、段々と赤くなっていく。

 俯いていた顔が上がり、閉じていた目が開いた時、


 ― 変色した紅眼がこちらを睨んだ


「⋯誰だよ⋯お前ッ!!」

「ねぇこれって⋯"赤いの"⋯?」

「⋯コイツが?」


 後ろの炎に微かに"人のシルエット"が見えた。

 たぶんあれが先輩だろうか?

 もう全身が燃えており、助けられそうにない。


 そう思った瞬間、"何か"が真横に飛んできた。

 ⋯炎の⋯花?

 なんだと思った矢先、


「っ!?」


 突然爆発し、研究室外へと吹き飛ばされた。


「⋯いってぇ」


 ⋯ユキは!?


 痛みを我慢し、もう一度中へ入ろうと照らすと、ユキとヤツが対峙していた。

 かろうじて鎌で"ヤツの剣のような何か?"を抑えている。


 ⋯ここだ

 "この銃"を使うべきなのは。

 俺はヤツに狙いを定め、引き金に指をかける。


「ユキッ!! 後ろへ飛べッ!!」


 俺の声に気付き、ユキが飛んだ刹那、辺りに幾つも散らばる七色の蝶の羽根。

 一縷の鋭い"スペクトラムの光"が、ヤツを吹き飛ばす。


「⋯ざけやがって、勝手に先輩の姿になんじゃねぇよ」


 ユキがこっちへと寄ると、


「大丈夫!? ってここヤケドになってる⋯」

「こんくらい、なんでもない」

「途中どこかで応急処置できないかな」

「大丈夫だって、んな事より行くぞ、アイツはもう動かな」


 言葉を遮るように、ヤツがゆっくりと立ち上がろうとしていた。


「んだよ⋯それ」


 立ち上がった瞬間、


「ガアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」


 !?


 響き渡る咆哮。

 さらに鋭く光る眼。


 片手だったはずの"剣のような何か?"が、空中で生成されるかのように、もう一本増えていた。


 ⋯コイツは"前のヤツ"とわけが違う

 何もかもが違う。


 俺の全身に⋯


 ― 表せないほどの恐怖が広がった

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