「これ⋯陸田先輩の⋯? ユキ、来てくれッ!」
「あ! ルイっ!?」
俺は今の場所から"3つ先の研究室"へと走った。
今の声はたぶん"川中研究室"からだ。
陸田先輩が所属しているのは"あの場所"だからだ。
近付くと、また自動ドアは開いていた。
中は真っ暗で、何が何やらよく分からない。
そう感じた瞬間、右手に握っている"七色蝶の銃"の形状が変化し、先端から光を放ち始めた。
⋯これを使えって言ってんのか?
⋯奥まで見れるな、これなら
俺が中へ入ろうとすると、
「待ってッ!!」
突然ユキが腕を引き寄せた。
「本当に中に入るの⋯?」
その表情はまるで、"さっきの出来事"を訴えているようだった。
君野先生を殺した"アレ"が、また襲ってくるんじゃないかって。
「でも、陸田先輩を放っておけないだろ! 最初に俺たちに大学の事を色々教えてくれた先輩だ!」
「だけど、また"さっきのアレ"がいるかもしれないし、"赤いの"だってうろついてるんでしょ⋯?」
「そうだけど、だからって」
「⋯わかってる」
すると、ユキは深呼吸をし、
「⋯ふぅ」
直後、"何かを決めたかのような表情"をすると、
「ねぇ、"UnRule"を始めたら"それ"出たんだよね?」
「そう、だけど」
彼女はL.S.を展開し始めた。
「⋯私もやる」
俺が何かを言う前に、ユキの右手に"ある物"が出現した。
全長2メートルくらいはあるだろうか?
それは、冷気"がこっちまで伝わってくる"大きな鎌"だった。
この時、そんなのどうやって出したんだと思った。
ここに来る途中、"この銃の出た方法"を伝えておいたけど、なんか違うのを選んだのかと。
けど、"UnRule"以外、こんなのを急に出せる物を俺は知らない。
大鎌を見てユキは、
「"銃"じゃないの!?」
小さく叫んだ。
やっぱり"UnRule"を選んだようだった。
「⋯俺のと一旦交換しとくか?」
俺の銃を渡してみると、
「は!?」
「え!?」
なぜかユキの手から銃がすり抜けた。
訳が分からなかった。
"質量ある物"なのに、何度やってもすり抜ける。
物理法則を無視したこの現象、でも今これを考える暇は無い。
結局ユキは俺の銃を持つ事が出来ず、仕方なくこのままで入る事となった。
「危ないと思ったらすぐ逃げろよ、俺置いてっていいから」
「それするくらいなら死んだ方がマシ。私も"これ"でやる」
「でも"その鎌"重いんじゃないか?」
「それが凄く軽いのよ。すぐに振り回せそう」
「マジか。なら、ゲームみたいに意外と合うのかもな」
「かもね。ルイの銃は重いの?」
「いや軽い」
ユキはゲームでよく鎌を使っていた。
リーチが長いのと、意外な遠距離攻撃もあったりで、見た目以上に器用なところが好きらしい。
その影響がここに出ているのだろうか?
それにしても、さっきから陸田先輩を呼んではいるが、返事は無い。
あの人がいる席は、"一番奥の左端から2番目"だ。
俺が照らして先に行く。
⋯
⋯いない
なんでだ?
ここの席が先輩の場所のはず。
「⋯ん? なんだこの臭い。なんか"焦げ臭い"ような⋯」
「ルイ!! 右ッ!!」
「ッ!?」
ユキの言葉ですぐ右を向く。
そしたら⋯
― 右奥から突如炎が膨れ上がっていた
そしてそこを照らすと、立ち尽くす陸田先輩の姿があった。
「先輩ッ!! 早く逃げましょう! 変なヤツらが大学内に!!」
「⋯待って⋯おかしいわ⋯」
「⋯え?」
直後、陸田先輩はおかしな声を出し始め⋯
「グギ、グギギギギギギギィィィ」
「先⋯輩⋯?」
徐々に身体が変色していった。
燃え盛る炎を背に、段々と赤くなっていく。
俯いていた顔が上がり、閉じていた目が開いた時、
― 変色した紅眼がこちらを睨んだ
「⋯誰だよ⋯お前ッ!!」
「ねぇこれって⋯"赤いの"⋯?」
「⋯コイツが?」
後ろの炎に微かに"人のシルエット"が見えた。
たぶんあれが先輩だろうか?
もう全身が燃えており、助けられそうにない。
そう思った瞬間、"何か"が真横に飛んできた。
⋯炎の⋯花?
なんだと思った矢先、
「っ!?」
突然爆発し、研究室外へと吹き飛ばされた。
「⋯いってぇ」
⋯ユキは!?
痛みを我慢し、もう一度中へ入ろうと照らすと、ユキとヤツが対峙していた。
かろうじて鎌で"ヤツの剣のような何か?"を抑えている。
⋯ここだ
"この銃"を使うべきなのは。
俺はヤツに狙いを定め、引き金に指をかける。
「ユキッ!! 後ろへ飛べッ!!」
俺の声に気付き、ユキが飛んだ刹那、辺りに幾つも散らばる七色の蝶の羽根。
一縷の鋭い"スペクトラムの光"が、ヤツを吹き飛ばす。
「⋯ざけやがって、勝手に先輩の姿になんじゃねぇよ」
ユキがこっちへと寄ると、
「大丈夫!? ってここヤケドになってる⋯」
「こんくらい、なんでもない」
「途中どこかで応急処置できないかな」
「大丈夫だって、んな事より行くぞ、アイツはもう動かな」
言葉を遮るように、ヤツがゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「んだよ⋯それ」
立ち上がった瞬間、
「ガアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」
!?
響き渡る咆哮。
さらに鋭く光る眼。
片手だったはずの"剣のような何か?"が、空中で生成されるかのように、もう一本増えていた。
⋯コイツは"前のヤツ"とわけが違う
何もかもが違う。
俺の全身に⋯
― 表せないほどの恐怖が広がった