まさかコイツだったなんて⋯
なんでコイツがこんなところに⋯?
だったら、やっぱり"本物の先生"は⋯
頭を巡る最悪の答え。
― 俺は意を決して"頭の無くなった人物"の近くに寄った
⋯先生がいつも着ていた服だ
胸元には【新東京大学】の教職員証。
名前は⋯
【名誉教授:君野正義】
薄赤い部屋で見にくかったが、これで分かった。
ここで何があったのかを。
「⋯そういう⋯ことかよ⋯」
あんな事を先生がするはず無い。
それが分かったのと同時に、悔しさと怒りが込み上げてきた。
どうして先生を⋯こんな⋯
「ユキ⋯先生は⋯」
俺を見て察したのか、小さく頷いた。
夢だったらいいのにと、今何回思ったか。
どれだけ思っても、これは"非現実の現実"で、変わらない。
「遅かった⋯のかな」
ユキは自分を責めているようだった。
もう少し早く来れば助けられたんじゃないかと。
⋯無理だ
緊急メッセ―ジは、"ヤツ"が送っていたんだから。
俺はとにかくユキを慰め続けた。
その後間もなくして、また"アイツ"から通話が入った。
アイツの顔がL.S.のホログラムパネルに映る。
「おい! 新崎さんも一緒にいるんだよな!? 早くそっから出ろ!!」
真剣な表情でアイツが言う。
「何体かそこへ入っていきやがった!! "さっきの"が!!」
「は? まだ他に"コイツ"が!?」
「あぁ⋯いる!! 特に"赤いヤツ"には気を付けろ!! アイツはマッポを瞬殺しやがった!!」
「警察が⋯? シンヤって今"1階"だよな?」
「そう! 後、降りてくる時には"階段"を使え!! アイツらエレベーター前でも待ってやがる!! ここもヤバいから後でな!!」
そう言って、シンヤからの通話は途切れた。
シンヤの場所もGPSで共有しているからすぐ分かる。
さっき窓を割ったのは、たぶんコイツだ。
それ意外あんな行動するのは、考えられない。
「ユキ、他にも"コレ"がいるらしい」
「まだいるの⋯?」
「シンヤが言うにはだけどな、急いで出よう」
「シンヤ君が⋯うん」
俺は先生の教職員証を拾い、自分の胸にしまった。
この人の意志は、俺が持っていく。
君野教授研究分室のドアをL.S.で開く。
ヤツは遠隔操作で閉めたんだろうか?
研究分室を先に出たユキは、
「⋯今までお世話になりました」
と、小さく呟いた。
その言葉は、"俺の胸の証"にも響いた気がした。
走りながら一応警察に連絡してみるが、一向に繋がらない。
誰も出ないって、んなことあるのか?
「ダメだ、どこの警察にも繋がらない。唯一来てくれた警察は、赤いヤツにやられたらしいし」
「"赤いヤツ"?」
「"それ"が他と違ってヤバいらしい。気を付けて行くぞ」
「うん」
「階段を使う、エレベーター前にも待ち伏せがいるらしい」
「わかった」
8階まで来たが、今のところヤツらを見かけていない。
エレベーター前を見ればいるのかもしれないが、そんな事はしなくていい。
静寂な薄暗い廊下に、点々とした赤い光が続き、不気味さが漂う。
シンヤは学際理工学部研究棟じゃなく、"総合研究棟の1階"をうろうろしているようだ、なんとか早く合流したい。
このまま、エレベーターから離れた裏階段を使って降りて行こう。
「ここを降りると7階ね」
ユキの声が静寂に響き渡る。
このまま1階まで行ければ、総合研究棟にはすぐに行ける。
学際理工学部研究棟と総合研究棟の位置はかなり近い。
⋯よし
ここを降りれば6階だ。
大丈夫だ、このまま、このまま⋯
⋯
⋯⋯
な訳が無かった。
後ろの奥の方で、"イヤな足音"が聞こえた。
この音は、間違いなくヤツだ。
心臓の鼓動が大きくなり、危険信号を鳴らす。
だが距離があったため、俺たちは走って6階へと逃げる事が出来た。
できれば、"この特殊な銃"は使いたくない。
銃の表面には"数字の6"が浮いており、たぶんこれは残弾数。
最初は"7"だったため、明らかにそれを表している。
複数体いるだろうヤツらに使っていては、いざという時に怖い。
「⋯この辺からこっち側にもいるのね」
「だな、絶対離れるなよ」
「うん」
次は5階。
さっきの足音も無い、大丈夫だ。
そう思った時、
「うわぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
― 近くの研究室から大きな悲鳴が響いた