目の前の事実を信じる事が出来ない。
あの優しかった、人気だった、先生が。
今までの先生とのやり取りがフラッシュバックした。
「なんで⋯なんでッ!!」
すると、口から血を垂らしながら"先生?"は、
「イヒヒヒッ!? 三船ェ!? 新崎ィ!? ナゼ二人ナンダァァァ!?」
目の焦点が合っていない。
これは先生なんかじゃない。
「ワタシガ呼ンダノハナァ!? 新崎ィ!? オ前ダァ!?」
「君野先生!! こんな事はやめてくださいっ!!」
「黙レェェェェェェ!!!」
「ひッ!?」
ユキの目には涙が零れていた。
「早クゥ!!! 身体ノ中ヲ見セロォォォ!!!」
狂気に満ちた顔。
電気が伝うように、全身の鳥肌が立つ。
「⋯来るなッ!!」
俺はユキの前へと割り入り、"ヤツ"に抵抗しようとした。
が、人間とは思えない怪力で壁まで投げ飛ばされた。
その瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。
「ルイッ!!」
「アハァ!? 三船ハ後ダァァ!!! ナァ、新崎ィ!?」
ヤツはとうとうユキの間近まで迫り、顎に手をかけた。
顔を近づけながら、
「オ前ハナァ? 女ノ中デモ優秀ダァ!? 身体ノ中ヲナァ? ヨク見セテクレナァ?」
「やめて⋯ください⋯いやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
俺は見ている事しか出来ない。
全身を強く打ち付け、意識が朦朧とする。
今の衝撃で右肩が脱臼したらしく、痛みが余計に意識を奪う。
⋯ユキ⋯
⋯⋯ユ⋯⋯キ⋯
「誰ダァァァァ!?」
⋯窓の⋯割れる音⋯?
謎に次々に割れる窓。
誰がやっているのか、ヤツは割れた窓から外を確認し始めた。
その直後、右腕のL.S.に違和感を感じた。
そのおかげか、なんとか俺は意識を少し取り戻した。
"誰かと通話"が繋がってる⋯?
「おいルイ!! 大丈夫か!?」
「⋯うぅ⋯⋯お前どうして」
「んな事は後だろ!! 今すぐ"UnRule"を起動しろッ!!」
「⋯なにいって⋯」
「いいから早くッ!! 俺を信じてやれッ!!」
瞬時後ろを見ると、ドアは閉められているようで、出られそうにない。
今ユキを助けて逃げる方法は、"後ろのドアを無理やり蹴破る"か、"窓から飛び出るか"の二択しかない。
ドアは頑丈で開きそうにもない上、ここは15階だ。
「⋯信じるからな」
意を決し、L.S.のホログラムパネルから"UnRule〔EL〕"を選択した。
― すると右手に何かが出てきた
⋯?
これは⋯?
七色に光る表面、蝶のような羽根、特殊な形状の銃口。
ゲームのはずなのに、質感がある。
本物⋯なのか⋯?
「クソガァァァ!! 人ノ研究室ヲ!! 勝手ニ荒ラスナァァァァ!!!」
ヤツがこっちへと視線を戻した。
「三船ェェェ!! ソウカァァァ!!! オ前ノセイカァァァァァ!!!!」
ヤツが俺の銃を見て叫んだ。
やはり目の焦点は合っておらず、口から血が垂れ続けている。
どれだけヤツを見ようと、"あの人の面影"はもう無い。
また過去の出来事がフラッシュバックした。
⋯先生⋯俺⋯
「うあぁぁぁぁぁッ!!!」
― 脱臼した右肩を左腕で無理やり戻し、ヤツに銃口を向けた
「アァ!? ナンダァ!? ソレハァ!?」
「⋯もう⋯やめてください」
「黙レェェェェェェ!!!」
大きな声でヤツが吠える。
もう見てられない。
それでも⋯俺は⋯
「こんなこと⋯させないで⋯ください」
― トリガーに指をかける
「三船ェェェ!!! オ前ハ特別ダァ!? コノ私自身ガ研究室ヘ推薦シテヤッタンダカラナァ!? ソノ後ノ面倒ハ誰ガ見レヤッタンダァァァァ!?」
「⋯」
「コノ恩知ラズノゴミガァァァァッ!!! オ前ハ後ニシタカッタガァ!? イヒヒヒヒヒヒィィィィィ!?!? 仕方ガ無イナァァァァァァ!?」
ヤツはそう叫ぶと、俺へと走って来た。
⋯俺は
⋯⋯俺は
⋯⋯⋯俺は
「あなたの全て⋯俺が継ぐ」
静かにトリガーを引いた。
その瞬間、辺りに幾つも散らばる"七色の蝶の羽根"。
一縷の鋭い"スペクトラムの光"がヤツの心臓を貫通し、後ろへと吹き飛ばした。
紛れも無い"本物の武器"だった。
不思議と反動は無く、銃という感覚は無い。
「ユキッ!! ケガは!?」
「だ、大丈夫。それって⋯」
ユキが俺の銃を指差す。
「⋯後で説明する。今はここから出よう」
「待って、ルイ」
「?」
「あれって⋯"あの時"の⋯」
ユキが驚愕の表情で、壁に突っ伏すヤツを見て言う。
俺が目を向けると、
「⋯なっ!?」
俺が吹き飛ばしたはずのヤツ。
それは⋯
⋯
⋯⋯
― 秋葉原駅で見たあの"謎の機械"の姿になっていた