目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第8話 決別

 目の前の事実を信じる事が出来ない。

 あの優しかった、人気だった、先生が。

 今までの先生とのやり取りがフラッシュバックした。


「なんで⋯なんでッ!!」


 すると、口から血を垂らしながら"先生?"は、


「イヒヒヒッ!? 三船ェ!? 新崎ィ!? ナゼ二人ナンダァァァ!?」


 目の焦点が合っていない。

 これは先生なんかじゃない。


「ワタシガ呼ンダノハナァ!? 新崎ィ!? オ前ダァ!?」

「君野先生!! こんな事はやめてくださいっ!!」

「黙レェェェェェェ!!!」

「ひッ!?」


 ユキの目には涙が零れていた。


「早クゥ!!! 身体ノ中ヲ見セロォォォ!!!」


 狂気に満ちた顔。

 電気が伝うように、全身の鳥肌が立つ。


「⋯来るなッ!!」


 俺はユキの前へと割り入り、"ヤツ"に抵抗しようとした。

 が、人間とは思えない怪力で壁まで投げ飛ばされた。

 その瞬間、右肩に鋭い痛みが走った。


「ルイッ!!」

「アハァ!? 三船ハ後ダァァ!!! ナァ、新崎ィ!?」


 ヤツはとうとうユキの間近まで迫り、顎に手をかけた。

 顔を近づけながら、


「オ前ハナァ? 女ノ中デモ優秀ダァ!? 身体ノ中ヲナァ? ヨク見セテクレナァ?」

「やめて⋯ください⋯いやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 俺は見ている事しか出来ない。

 全身を強く打ち付け、意識が朦朧とする。

 今の衝撃で右肩が脱臼したらしく、痛みが余計に意識を奪う。




 ⋯ユキ⋯




 ⋯⋯ユ⋯⋯キ⋯




「誰ダァァァァ!?」




 ⋯窓の⋯割れる音⋯?




 謎に次々に割れる窓。

 誰がやっているのか、ヤツは割れた窓から外を確認し始めた。


 その直後、右腕のL.S.に違和感を感じた。

 そのおかげか、なんとか俺は意識を少し取り戻した。

 "誰かと通話"が繋がってる⋯?


「おいルイ!! 大丈夫か!?」

「⋯うぅ⋯⋯お前どうして」

「んな事は後だろ!! 今すぐ"UnRule"を起動しろッ!!」

「⋯なにいって⋯」

「いいから早くッ!! 俺を信じてやれッ!!」


 瞬時後ろを見ると、ドアは閉められているようで、出られそうにない。

 今ユキを助けて逃げる方法は、"後ろのドアを無理やり蹴破る"か、"窓から飛び出るか"の二択しかない。

 ドアは頑丈で開きそうにもない上、ここは15階だ。


「⋯信じるからな」


 意を決し、L.S.のホログラムパネルから"UnRule〔EL〕"を選択した。


 ― すると右手に何かが出てきた


 ⋯?


 これは⋯?


 七色に光る表面、蝶のような羽根、特殊な形状の銃口。

 ゲームのはずなのに、質感がある。


 本物⋯なのか⋯?


「クソガァァァ!! 人ノ研究室ヲ!! 勝手ニ荒ラスナァァァァ!!!」


 ヤツがこっちへと視線を戻した。


「三船ェェェ!! ソウカァァァ!!! オ前ノセイカァァァァァ!!!!」


 ヤツが俺の銃を見て叫んだ。

 やはり目の焦点は合っておらず、口から血が垂れ続けている。


 どれだけヤツを見ようと、"あの人の面影"はもう無い。

 また過去の出来事がフラッシュバックした。




 ⋯先生⋯俺⋯




「うあぁぁぁぁぁッ!!!」


 ― 脱臼した右肩を左腕で無理やり戻し、ヤツに銃口を向けた


「アァ!? ナンダァ!? ソレハァ!?」

「⋯もう⋯やめてください」

「黙レェェェェェェ!!!」


 大きな声でヤツが吠える。

 もう見てられない。


 それでも⋯俺は⋯


「こんなこと⋯させないで⋯ください」


 ― トリガーに指をかける


「三船ェェェ!!! オ前ハ特別ダァ!? コノ私自身ガ研究室ヘ推薦シテヤッタンダカラナァ!? ソノ後ノ面倒ハ誰ガ見レヤッタンダァァァァ!?」

「⋯」

「コノ恩知ラズノゴミガァァァァッ!!! オ前ハ後ニシタカッタガァ!? イヒヒヒヒヒヒィィィィィ!?!? 仕方ガ無イナァァァァァァ!?」


 ヤツはそう叫ぶと、俺へと走って来た。


 ⋯俺は


 ⋯⋯俺は


 ⋯⋯⋯俺は


「あなたの全て⋯俺が継ぐ」


 静かにトリガーを引いた。

 その瞬間、辺りに幾つも散らばる"七色の蝶の羽根"。

 一縷の鋭い"スペクトラムの光"がヤツの心臓を貫通し、後ろへと吹き飛ばした。


 紛れも無い"本物の武器"だった。

 不思議と反動は無く、銃という感覚は無い。


「ユキッ!! ケガは!?」

「だ、大丈夫。それって⋯」


 ユキが俺の銃を指差す。


「⋯後で説明する。今はここから出よう」

「待って、ルイ」

「?」

「あれって⋯"あの時"の⋯」


 ユキが驚愕の表情で、壁に突っ伏すヤツを見て言う。

 俺が目を向けると、


「⋯なっ!?」


 俺が吹き飛ばしたはずのヤツ。


 それは⋯




 ⋯




 ⋯⋯




 ― 秋葉原駅で見たあの"謎の機械"の姿になっていた

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?