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第7話 大学

 俺とユキは今、新東京大学の3年生。

 "東京大学の次世代"として、東京大学の隣に新しく出来た大学だ。


 ここは"ほぼ全部がリモート講義"である上に、講義の時間が決まっていない。

 L.S.を用い、目の前に"24時間いつでも先生たちの用意している講義を出現させ"、受けられる。

 受けている人に応じて、AIが柔軟に対応してくれるため、どんな人でも理解しやすい仕組みなってるらしい。


 他大学よりも自由度が高い分、単位を取る難易度も高いみたいで、3年初めから卒業研究も始まるため、留年してしまう人も結構多い。


 俺は肌に合っていたからか、今のところ苦に感じてはいない。

 最新の事を学べて、やりたい事もやり続けられるから、かなり好きなほう。


 様々なAI搭載の設備も使え、一人だろうが何だってしやすい。

 時々はまり過ぎて、他の人に迷惑かけてるかもだけど⋯


 そんな俺に君野先生から「是非研究室に来て欲しい」と、直にオファーをくれた。

 普通は自分から志願して、行きたい研究室へと面接に行く。


 こんな逆推薦は、新東大では初めての事だったそうだ。

 でもこの時俺は⋯


 ♢


「俺より、新崎ユキさんの方がいいと思いますよ」


 オファーを蹴った。

 実際、ユキの頑張りを小さい時からずっと見てきたからだ。

 そしたら先生は大笑いし、


「はははっ!! そうかそうか!! ならこうしよう三船君。君の推薦する新崎君と二人で研究室へ来るのはどうだろう。君たちのしたい事をそれぞれ研究としてやればいい。共同研究なんて選択肢もいいだろう」

「え⋯本当ですか!?」

「あぁ、どうかな? 実はね、私は君たちが卒業する時にちょうど退職するんだよ」

「え!? そうなんですか!?」


 君野先生は小さく頷いた。

 まさかの事実だった。

 こんなに人気な先生が、もう定年退職するなんて知らなかった。


「それで最後に新しい刺激が欲しくてねぇ、君の力を貸してくれないかな?」

「⋯分かりました。でも、一つだけ聞いていいですか?」

「何でもどうぞ」

「なぜ、僕が選ばれたんですか?」

「はははっ!! それはねぇ、"君の両親と長い付き合いもあったり"で、小さい頃から君を知ってるんだ! 凄い子だって事もね!」


 驚いたに決まってる。

 親と君野先生って、そんな関係だったのかよって。

 何一つ教えてくれなかったからな⋯


 ♢


 つまりは、小さい頃から世話になってるって事。

 んなの、"UnRule"より優先するしかない。

 そんな事を考えながら、タクシー内で適当にL.S.を弄っていると、いつの間にか大学前に着いていた。


 ⋯ん?


「おい、なんか"赤く光って"ないか?」

「これ⋯行って大丈夫だよね」

「分かんねぇ⋯とりあえず行こう」

「うん」


 なんで大学が!?

 ここも"赤い発令"が⋯?


 大学内はほんとに広い、無駄に広いと言ってもいい。

 工学部、医学部、教育学部、総合科学部、薬学部他、それぞれの研究棟等、用が無ければ行かないところばかり。

 その上、大学院まで施設があるんだから広すぎだろ。


 ちなみに、俺たちが所属するのは、ほんのちょっと前に出来たばかりの学際理工学部。

 よくある理学部と工学部がくっ付いて、さらに他分野がぐしゃぐしゃに混ざった謎のところ。


 "固定概念や常識に捉われる事無く、様々を組み合わせて考え、先を見抜いて変えていけ"という謎の理念のもと作られたらしいが、そんなのをいちいち気にしてるヤツ見た事無い。


 そもそも新東大は、3年時から突然人気企業から引き抜かれる事も多く、"研究自体が仕事の成果"としてされるような場所。


 どこに入ろうが、自分の好きをいかに活かせるかで変わってくる。

 楽しい場所だけど、"楽しいの本質"を理解しないといけない変な大学だ。


 そんな変な場所に、俺たちは何度も来ているため、スムーズに"学際理工学部研究棟"へと入る。


「中もちょくちょく赤いな」

「私がいた時間までは、こんな事なかったのに⋯」


 こっからまたややこしかったりするんだが、この研究棟がAからFまで区別されてる。


 君野研究室は"学際理工学部研究棟Bの15階の一番端"だ。

 これ1回でちゃんと覚えて行けるヤツいるのか⋯?


 こんな場所、知らないと絶対迷う、もうダンジョンだろ。

 新東大探検ツアーでも開催したらいいんじゃないかと思ってる。


「ここね」


 俺たちは、研究棟Bの区域からエレベーターへと乗った。

 一番上は20階まで行けるが、今は行く場所じゃない。


『何階へ行きますか?』

「15階」


 エレベーターの機械音声にユキが返すと、動き始めた。

 そして、エレベーターは"15"の数字を示すと開き、ユキが出ようとした瞬間だった。


「⋯ひゃぁ!? 何これ!?」


 赤が反射する床に見えたもの。

 それは"赤黒い液体"だった。


 よく見てみると⋯


「⋯"血"だ」

「え!? "血"!?」


 ⋯なんでここにこんな血が


「ねぇ、この"血"、あっちに続いてる⋯」


 エレベーターの数メートル先は、T路地のようになってる。

 君野研究室は一番左奥なんだが、その方向へと血は続いていた。

 ユキが血相を変え、"血の示す先"へと走り出す。


「ユキッ!! 待てってッ!!」


 言う事を無視し、足を止めようとしない。

 一番奥の君野研究室へと一人で行ってしまった。


「⋯ッ! あいつッ!」


 血は確かにその場所まで続いており、俺も後に次いで走る。

 ユキが入る直前に、"ドアが既に開いている"のが見えた。


 君野研究室のドアは、"関係者のL.S.をかざして認証"しないと入れない。

 先生が自分で開けたのか、他が開けたのかは分からない、分からないけど嫌な予感がした。


 中へ入ると⋯


 ユキは!?


 ユキがいない!!


 "君野教授研究分室"か!?


 ⋯あのドアもなぜか開いてる


 俺が急いで中に入ると、


「ユキッ!!」




 ― そこには




 口を震わせ、尻もちをついたユキがいた。

 その目線の奥にいるモノ。


「イヒッ!? イヒヒヒヒハハハハハハハハハッッ!!?」


 突然謎の叫び声を上げる"ソレ"。

 "ソレ"の近くで寝ている人間に、頭は無かった。


「イッッヒィィィィィ!?」


 "頭を食べたであろうソレ"は⋯


 ― こっちを見た


 その瞬間、今まで感じた事無いほどの悪寒が走った。


「⋯せん⋯せい⋯?」

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