俺とユキは今、新東京大学の3年生。
"東京大学の次世代"として、東京大学の隣に新しく出来た大学だ。
ここは"ほぼ全部がリモート講義"である上に、講義の時間が決まっていない。
L.S.を用い、目の前に"24時間いつでも先生たちの用意している講義を出現させ"、受けられる。
受けている人に応じて、AIが柔軟に対応してくれるため、どんな人でも理解しやすい仕組みなってるらしい。
他大学よりも自由度が高い分、単位を取る難易度も高いみたいで、3年初めから卒業研究も始まるため、留年してしまう人も結構多い。
俺は肌に合っていたからか、今のところ苦に感じてはいない。
最新の事を学べて、やりたい事もやり続けられるから、かなり好きなほう。
様々なAI搭載の設備も使え、一人だろうが何だってしやすい。
時々はまり過ぎて、他の人に迷惑かけてるかもだけど⋯
そんな俺に君野先生から「是非研究室に来て欲しい」と、直にオファーをくれた。
普通は自分から志願して、行きたい研究室へと面接に行く。
こんな逆推薦は、新東大では初めての事だったそうだ。
でもこの時俺は⋯
♢
「俺より、新崎ユキさんの方がいいと思いますよ」
オファーを蹴った。
実際、ユキの頑張りを小さい時からずっと見てきたからだ。
そしたら先生は大笑いし、
「はははっ!! そうかそうか!! ならこうしよう三船君。君の推薦する新崎君と二人で研究室へ来るのはどうだろう。君たちのしたい事をそれぞれ研究としてやればいい。共同研究なんて選択肢もいいだろう」
「え⋯本当ですか!?」
「あぁ、どうかな? 実はね、私は君たちが卒業する時にちょうど退職するんだよ」
「え!? そうなんですか!?」
君野先生は小さく頷いた。
まさかの事実だった。
こんなに人気な先生が、もう定年退職するなんて知らなかった。
「それで最後に新しい刺激が欲しくてねぇ、君の力を貸してくれないかな?」
「⋯分かりました。でも、一つだけ聞いていいですか?」
「何でもどうぞ」
「なぜ、僕が選ばれたんですか?」
「はははっ!! それはねぇ、"君の両親と長い付き合いもあったり"で、小さい頃から君を知ってるんだ! 凄い子だって事もね!」
驚いたに決まってる。
親と君野先生って、そんな関係だったのかよって。
何一つ教えてくれなかったからな⋯
♢
つまりは、小さい頃から世話になってるって事。
んなの、"UnRule"より優先するしかない。
そんな事を考えながら、タクシー内で適当にL.S.を弄っていると、いつの間にか大学前に着いていた。
⋯ん?
「おい、なんか"赤く光って"ないか?」
「これ⋯行って大丈夫だよね」
「分かんねぇ⋯とりあえず行こう」
「うん」
なんで大学が!?
ここも"赤い発令"が⋯?
大学内はほんとに広い、無駄に広いと言ってもいい。
工学部、医学部、教育学部、総合科学部、薬学部他、それぞれの研究棟等、用が無ければ行かないところばかり。
その上、大学院まで施設があるんだから広すぎだろ。
ちなみに、俺たちが所属するのは、ほんのちょっと前に出来たばかりの学際理工学部。
よくある理学部と工学部がくっ付いて、さらに他分野がぐしゃぐしゃに混ざった謎のところ。
"固定概念や常識に捉われる事無く、様々を組み合わせて考え、先を見抜いて変えていけ"という謎の理念のもと作られたらしいが、そんなのをいちいち気にしてるヤツ見た事無い。
そもそも新東大は、3年時から突然人気企業から引き抜かれる事も多く、"研究自体が仕事の成果"としてされるような場所。
どこに入ろうが、自分の好きをいかに活かせるかで変わってくる。
楽しい場所だけど、"楽しいの本質"を理解しないといけない変な大学だ。
そんな変な場所に、俺たちは何度も来ているため、スムーズに"学際理工学部研究棟"へと入る。
「中もちょくちょく赤いな」
「私がいた時間までは、こんな事なかったのに⋯」
こっからまたややこしかったりするんだが、この研究棟がAからFまで区別されてる。
君野研究室は"学際理工学部研究棟Bの15階の一番端"だ。
これ1回でちゃんと覚えて行けるヤツいるのか⋯?
こんな場所、知らないと絶対迷う、もうダンジョンだろ。
新東大探検ツアーでも開催したらいいんじゃないかと思ってる。
「ここね」
俺たちは、研究棟Bの区域からエレベーターへと乗った。
一番上は20階まで行けるが、今は行く場所じゃない。
『何階へ行きますか?』
「15階」
エレベーターの機械音声にユキが返すと、動き始めた。
そして、エレベーターは"15"の数字を示すと開き、ユキが出ようとした瞬間だった。
「⋯ひゃぁ!? 何これ!?」
赤が反射する床に見えたもの。
それは"赤黒い液体"だった。
よく見てみると⋯
「⋯"血"だ」
「え!? "血"!?」
⋯なんでここにこんな血が
「ねぇ、この"血"、あっちに続いてる⋯」
エレベーターの数メートル先は、T路地のようになってる。
君野研究室は一番左奥なんだが、その方向へと血は続いていた。
ユキが血相を変え、"血の示す先"へと走り出す。
「ユキッ!! 待てってッ!!」
言う事を無視し、足を止めようとしない。
一番奥の君野研究室へと一人で行ってしまった。
「⋯ッ! あいつッ!」
血は確かにその場所まで続いており、俺も後に次いで走る。
ユキが入る直前に、"ドアが既に開いている"のが見えた。
君野研究室のドアは、"関係者のL.S.をかざして認証"しないと入れない。
先生が自分で開けたのか、他が開けたのかは分からない、分からないけど嫌な予感がした。
中へ入ると⋯
ユキは!?
ユキがいない!!
"君野教授研究分室"か!?
⋯あのドアもなぜか開いてる
俺が急いで中に入ると、
「ユキッ!!」
― そこには
口を震わせ、尻もちをついたユキがいた。
その目線の奥にいるモノ。
「イヒッ!? イヒヒヒヒハハハハハハハハハッッ!!?」
突然謎の叫び声を上げる"ソレ"。
"ソレ"の近くで寝ている人間に、頭は無かった。
「イッッヒィィィィィ!?」
"頭を食べたであろうソレ"は⋯
― こっちを見た
その瞬間、今まで感じた事無いほどの悪寒が走った。
「⋯せん⋯せい⋯?」