■
俺は魔法使いヨシト。
トラックに轢かれ、神にチートをもらって異世界に転移してきた男だ。
チートは何でもいいというから、宇宙最強の魔法使いにしてくれと頼んだ。
異世界といえば魔法だろ?
でもそのチートを貰い、自分に使える魔法を把握したとき、俺は後悔したんだ。
なぜって?強すぎるんだよ。
・
・
・
俺は完全に諦めていた。
魔物の大群はデストロイの町を取り囲んでいる。
魔物の大暴走、スタンピード。
その猛威の前に、この町は早晩滅びてしまうだろう。
町の人達も死にたくなんてないはずだ、だから俺に助けを求めてくる。
俺は確かに力がある。
なんていったって宇宙最強の魔法使いだからな。
でも彼らは知ってるのだろうか?
宇宙最強の魔法がどんなものかを。
俺は断わったんだ。
例え町の被害が甚大でも、俺が戦うよりはマシだから。
でも町の連中は俺に戦って欲しいといってくる。
大人も子供もみんな言ってくる。
だから諦めたんだ。戦わないっていう選択を。
・
・
・
「いいんですね?どうなっても知りませんよ。スタンピードをどうにかすることはできます。ですが、それから先どうなっても知りません。俺に責任はないです。いいなら俺が戦いましょう」
俺は確認をとった。
責任をとりたくないからだ。
余り想像はしたくないが、きっと酷い事になる。
「はい!!どうか魔法使い殿、貴方様のお力をお貸し下さい…この町をお救いください!」
全て終わってから同じ言葉を吐けるといいな、とおもいつつ、俺は覚悟をきめて魔術を練り上げていく…
■
使うのは俺が今使える魔法の中でも一番弱い小石弾の魔法だ。
火も水も風もだめだ。
とんでもないことになるのが目に見えている。
小石弾…本来ならこれは小さい石ころを飛ばす魔法に過ぎない。
でも宇宙最強の俺が使うと……
・
・
・
ヨシトが詠唱を始めると、彼を中心に巨大な…東京ドームほどの大きさの魔法陣が展開された。
そしてその魔法陣は次々に積み重なっていく。
どんどんどんどん積み重なっていく魔法陣はやがて1つの立体魔法陣として機能する。
それはまさしく積層型立体魔法陣。
神が自分の管轄の世界をリセットするときや、悪徳に塗れた都市を罰するときなどに使われる大破壊魔法は150層級の積層型立体魔法陣により発動される。
これは分かりやすくいえば広島型原爆10発分の破壊力に等しい魔法を発動できる。
しかしヨシトが少しでも被害を抑えようと魔力を極限まで削り発動したそれは、実に8500層級の積層型立体魔法陣であった。
この破壊力は単純計算でいえば広島型原爆約570発分の破壊力を有する。
とはいえ宇宙的観点からすればこの程度の破壊力などは些細なものだ。
おぞましいまでの高密度の魔力の奔流がふきあれ、街周辺の空が真っ黒な雲で覆われていく。
そして真っ黒い雲から細く地上へとのびる雲の指。
そう、竜巻だ。
指は急速に周囲の空気を取り込んでいき、たちまち破壊的回転乱気流と化しF5を遥かにこえるF8クラスの超巨大竜巻となる。
真っ黒い巨大竜巻は放電もしているようで、もう見ていられない。
バリバリと雷を吐き散らしながら真っ黒い竜巻が縦横無尽にスタンピードを引き裂いていく。
ヨシトはとんでもないことになったと内心愕然としながらも詠唱をやめることができない。
なぜなら、途中でやめてしまうと魔術が暴走し超巨大魔力震が発生してしまうからだ。
簡単にいえば地震だが、マグニチュードに換算すれば実にM15級の未曾有の大震災である。
比喩でなく、大地が割れる──というか大地どころか大陸…いや、惑星そのものが割れる。
なお、日本国内観測史上最大級の東日本大震災はマグニチュード9を観測している。
マグニチュード15というとそれより6上なわけだが、これは東日本大震災の約7億3千万倍の破壊力の超震災という事になる。
スタンピードは防げるだろうが、世界が滅亡する。
だからヨシトは最後まで詠唱を続けなければいけない。
ちなみに竜巻が発生した時点でスタンピードは壊滅している。
だが、魔術はまだ起動していないのだ。
ここまではあくまで起動までの余波にすぎない。
地獄はこれからである。
ヨシトの魔力は遥か空のそのまた先、星界に伝播していく。
宇宙へ飛び出したヨシトの魔力はこの世界、いや、惑星から2500光年先のアステロイドベルトへ干渉し、手頃な隕石を包み込んだ。
まあ隕石といっても小石程度だ、ほんの小さな…
魔力が隕石を掌握すると転移術式が起動する。
そうすることにより、距離の問題を解決するわけけだ。
そして、街周辺…半径2500キロ圏内の空に天空魔法陣が一杯に敷き詰められていった…。
天空魔法陣から放たれるのは小さい小さい隕石もどきである。
もどきとはいっても、1発の隕石が地上に衝突した際の破壊的エネルギーは例えるなら以前レバノンで発生したベイルート港爆発事故の約半分に相当する。
4500発の小隕石群の一発ずつにベイルート港爆発事故の半分もの破壊エネルギーが内包されているのだ。
もうやめてください、魔法使い殿、という声を無視し、ヨシトは魔術を練り上げていく。
途中でやめれば誇張ぬきに世界が滅亡するためである。
──ああ、星が、流れる
その日、謎の流星群により24の都市、105の村、300万人以上の命が失われた。
デストロイの町を治めるディザスタ王国も、首都を吹き飛ばされて実質的に消滅。動植物の被害もおびただしい。
ただデストロイの町だけが残った。
ヨシトの周辺には宇宙最強の魔力により防護結界がはられていたからである。
最初から防護結界をはればよかったのかもしれないが、結界なんかだせーよという理由でヨシトは攻撃魔法しか取得していなかった。
そんなこんなでデストロイの町だけはのこったのだが、周囲一体が破壊されてしまえば生活がたちゆかない。
暫くは平気だろうが、流通が完全に止まってしまえば末路は見えている。
やがて、人々は飢えて死んだ。
町の外へ食料を探しにいったものもいたが無駄だった。
降る星の爪あとは大地から根こそぎ実りを奪っていったからだ。
スタンピードから町は守られた。
宇宙最強の魔法使いによって。
だが、町の人口を遥かに超える人間が死に、動植物が滅び、町そのものもすぐに滅びた。
宇宙最強の魔法は大気圏内で使うべきものではないのだ。
なお、ヨシトは宇宙最強の魔力で防御してたので無傷だった。