「大丈夫?」
「そう見えるか?」
申し訳なさそうな顔で燿の腰をさすっている蒼波にぶっきらぼうに返事をする燿は、うつ伏せたまま顔を上げることができずにいた。今の今まで没頭していた行為を思い出すと、恥ずかしさで死んでしまいそうなのだ。ついでに腰を中心とした体中の関節がきしむように痛かった。
腰をさすっていた蒼波の手がふと止まる。
「燿ちゃん、怒ってる?」
それは違うと燿は痛む体を顧みることなく蒼波を振り返ろうとしたが、やはり羞恥が勝ってしまい蒼波を見ることができない。蒼波は終始丁寧に燿を抱いた。挿入後は若干激しかったともいえるが、高校生の性欲の暴走とまではいかなかったのではないかと燿は思う。
「違う。怒ってなんてない」
「でも……俺、まさか本当に止まれなくなるとは思わなくて」
「あー! だから違うって」
しゅんと肩を落とす蒼波は、また自分を責めているのだろう。先ほどまであんなに強気だったのに、どうして素に戻るとこうなってしまうのか。
「じゃあ、どうしてこっち見てくれないの?」
いまだ顔を上げられずにいる燿に、蒼波が問うてきた。燿は観念して蒼波と向き合うことにする。くるりと体を反転させて起き上がり、ベッドのはしで正座している蒼波の正面に座った。
「あのな。一応俺だって恥ずかしいとか思うんだよ」
「はずかしい?」
「お前とあんなことしといて、その、普通にするの……難しいだろ」
蒼波の頭が傾き、茶色の髪の毛がふわりと揺れる。まったく要領を得ていないという顔だった。
「俺は平気だけど、燿ちゃんは恥ずかしかったのか」
復唱されるとさらにいたたまれなくなる。燿は再びベッドに転がって掛け布団の中へと避難した。蒼波が布団ごと燿を抱きしめる。
「燿ちゃん、かわいい」
かわいいという言葉で、燿は自分の部屋に保管してあるゴミ袋の存在を思い出した。蒼波が捨ててしまった宝物を、この部屋になんとしても戻さなければならない。
「蒼波」
掛け布団の中から呼ぶと、蒼波は「なあに?」と間延びした返事をよこした。燿はそのまま話を続けることにする。
「お前が捨てた宝物」
「あれはもういいんだ。さっき燿ちゃんがくれたので充分だよ」
「そうじゃない。全部俺の部屋にあるから」
がばりと掛け布団がめくられたかと思うと、燿の目の前に蒼波の顔が迫ってきた。
「どうして」
「俺が捨てさせると思うのか、お前は」
蒼波は下を向いてしまったが、寝転んでいる燿にはその表情がよく見える。唇を真一文字に引き結び、泣くのをこらえているようだった。燿は手を伸ばして蒼波の唇に触れる。
「泣いてもいいぞ。カッコいいだろ?」
宝物を捨てさせてしまったのは燿だったけれど、あえてそれには触れずにおいた。
「本当にカッコいいね」
蒼波が手の甲で目元をこするので、腫れてしまうと思った燿はその手をつかむ。ついさっき散々蒼波に翻弄されたことを思い出し、泣き出した蒼波の頬に自分からくちづけた。驚いて目を見開いていた蒼波が、燿の後頭部をがっちりとつかんで唇を合わせてくる。
「燿ちゃん、好き」
「もう解ったって」
ともすれば深くなっていきそうなキスを自制するように蒼波は燿に気持ちを伝えてきた。そう何度も言われてしまうと燿はどうしてよいのか解らなくなる。理解しているということだけ答えた。同じ言葉を返すのはまだ恥ずかしい。
「明日、宝物元に戻すからな」
「手伝ってくれるの?」
「当たり前だろ」
布団にくるまった状態で蒼波に頭をなでられていた燿は、とろりとした眠気に襲われ始めた。一日中走り回った挙句、さらに体力を消耗する行為に及んだので仕方のないことだと言える。そんな燿に蒼波が優しくささやいた。
「眠っていいよ」
「ん……」
蒼波がまた知らない間に宝物を捨てたりしないようにと、燿はぎゅっと蒼波の右腕をつかむ。燿の気持ちが伝わったのか、その手が振りほどかれることはなかった。
「おやすみ、燿ちゃん。ありがとう」