第四部☆異なる時空で 第五章☆再会を祈って
アルビノの少年は自分が「天王星のジャグラー」だったときのことを覚えていなかった。
それでも、エメラルドの谷の要塞についてはよく見知っていたので、みんなの世話を焼いてくれた。彼は回復して意識が戻ったロカワ氏をサーファイヤーのそばに連れてきてくれた。
シタニをロカワ氏と近づけるとろくなことにならないので、いつも離れさせておくのに骨を折った。
男たちも記憶が曖昧で、事情を一番よくわかっているサーファイヤーでさえミリーの意識が拡大していた間の記憶がない。
宇宙服の酸素は充分あったが誰も要塞から外へ出ようとしなかった。
「お父様が来るわ」
サーファイヤーもそう言ってこの場にとどまった。
「俺としたことが・・・」
ロカワ氏は何度もそう言って嘆いた。
「仕方ないわ。みんな、何かの力に操られてたんだもの」
サーファイヤーはロカワ氏を元気付けようとびっくりパーティの真似事をやったり、はしゃいでみせた。
「サーファイヤー」
とうとうリラシナがここにたどり着いた。
「お父様」
「あれからミリーの声というか、思念は?」
「全くしないわ」
「なんと言ったらいいのか・・・」
ロカワ氏がリラシナの顔をまともに見れずにいた。
「リラシナ、みんな!」
「えっ?」
「私よ。ミリー。あんまり時間がないの」
サーファイヤーの意識と共存してミリーの意識が戻った。
「ミリー、メイの身体に早く戻るんだ」
リラシナが身を乗り出して言った。
「いいえ。もう遅いわ」
「なんてことだ」
「このままサーファイヤーの中にとどまるのか?」
ロカワ氏が尋ねた。
「いいえ。それもできない。私はもう充分生きたわ。膨大な量の記憶が私の宝物。一緒に過ごしてきたあなたたちの存在が宝物。これ以上望みはない。」
「これからどうするんだ?」
「リラシナ、リラシナ。私の最愛の人。時空を越えて再びどこかで廻り合いましょう。きっと会えばお互いだって分かるわ。だから、またいつかどこかで会いましょう」
「ミリー・・・」
リラシナが抱きしめると、ミリーの意識が消えていった。
「お父様。お母様は行ってしまった」
サーファイヤーがそっと呟いた。
ミリーの葬儀は身内だけでひっそり執り行われた。
「泣いてばかりいられないな。次は、サーファイヤーとロカワ氏の結婚式だ」
リラシナのさっぱりした表情に、サーファイヤーはびっくりした。
「悲しくないの?」
「『また会おう』って言ったんだ。きっと会える」
ざあっと風が吹き、白い小鳥の群れが羽ばたいていった。
みんなは空を見上げた。
この広い世界に生まれてきて本当に良かった。