第四部☆異なる時空で 第三章☆無限時間
小人が六角形の小部屋を造り続けている。幾重にも重なった小部屋は、ある程度積み上がると、また最初から造られてゆく。
ブーン
蜂の羽音のような音が鳴り続いている。
「ここは、空色のコップの中ね」
ミリーはひとりごちた。
いぬいとみこの「暗闇の谷の小人たち」に出てくる不思議な空色のコップ。その中の世界がちょうどこんな感じだった。
「そうであって、そうでない」
一緒にいる「彼」はミリーに言った。
「ここには時間はあっても無いのと同じだ。君の知ってるイメージに似せて見せているだけだ」
「ここには意味が無いわ」
「無いかもしれないし、あるかもしれない。体験している存在の主観によって捉え方が変わる」
「真っ暗森の歌みたい」
ここではAはAであると同時にBでもありうる。時空が異なるため、法則が異なっているのだ。
「どうして私はここにいるの?」
「原初的な疑問だ」
「私は目でものを見て考えてそして行動する」
「他の存在もそうなのかな?」
「確かめる術はない。予想するだけ」
「生まれて、気がついたら私だった。そして生き続けている」
「いつか終わりが来る」
「死ぬのね?」
「死んだらどうなると思う?」
「・・・水や塵に分解されて、惑星の大気の循環にのって漂い、そして再び『私』に生まれ変わる」
「輪廻転生の一種の考え方だね」
「でも・・・」
「でも?」
「あなたたちみたいに意識だけの存在もいるのね?」
「そうだ。肉体があるのは良いことかどうか俺にはわからんがね」
「私は生きていることを時々実感して幸福感を抱く。大好きな人たちといつまでも一緒にいたい」
「限界がいつか来る」
「それ故にいとおしい」
「元の世界に戻りたいか?」
「もちろん」
「・・・」
「彼」はミリーを帰す気はないようだった。