第三部☆メッシーナ渓谷での死闘 第六章☆闘い
エメラルドの谷の奥深くに堅固な城塞がそびえ立っていた。
ロカワ氏は真正面から乗り込んでいった。
始めは白兵戦。いつ尽きるとも知れない大勢の顔の見えない敵を相手にたち振る舞う。
次は武器の応戦。どうしても互角で勝機が見えない。
朦朧としてきた頭で、なぜ自分がここにいて闘っているのかわからなくなったその時。巨大な火だるまが降り注ぎ、ロカワ氏は絶命した。
「あなたが天王星のジャグラー?」
ミリー・グリーンを待っていたのは、白髪の少年だった。瞳の色が紅くて、アルビノの特徴を持っていた。
「さあどうかな?」
少年は肩をすくめた。
「どういう意味?」
「天王星のジャグラーは複数体存在している」
「・・・じゃあ、そのジャグラーの一人があなただってこと?」
「いかにも」
「なぜサーファイヤーをここに連れてきたの?」
「あなたはサーファイヤーじゃないのか?」
「母親のミリー・グリーンよ」
「そうか。それならば手っ取り早い」
少年が右手をかざすと、楕円形のスクリーンが中空に浮かび上がった。
「海王星と冥王星に異文明が存在している」
「!」
人類と外見的に相違ない人々の姿が映った。
「好戦的な人類を永い時間観察してきた。時には人類に紛れて紛争を起こしたり、逆に静めたり、力の均衡を主題に研究を続けてきた」
ふいにスクリーンに闘い続けるロカワ氏の姿が映った。
「この男は自衛の武器と攻撃の武器の両方を携えてここに来た。相手に打ち勝って優位に立ち、自分の要求を押し通そうとする。まさに好戦的な人類の代表ともいえるだろう」
映像の中でロカワ氏が絶命すると、ミリー・グリーンの意識を押し退けて、サーファイヤーの意識が拡大した。
「ロカワ!嘘でしょう?」
両眸から涙が溢れた。
「サーファイヤー、あなたはロカワが好きだったの?」
「わからない‼でも、あの人が死ぬなんて耐えられない」
少年はサーファイヤーとミリー・グリーンのやりとりを黙って見ていたが、一つ溜め息をついた。
「彼は生きているよ」
「えっ」
「ぼくらの『魔術師』の異名は伊達じゃなくてね、幻覚や幻想の類いで人を惑わすのに長けているんだ。」
円筒形の透明なケースが広間に移動してきた。中にロカワ氏が憔悴しきって眠っていた。
ほっとしたサーファイヤーの心は意識の底に沈んだ。
ミリー・グリーンは少年の目的がなんなのか測りかねた。
「地球派生型の人類の代表と太陽系外派生型の代表の会談をやりたくてね」
「代表なんて誰の基準で選ぶの?」
「身体的闘いでの決着は望んでいない。だから、その男などはもっての他」
「身体的闘い?」
「そう。望んでいるのは精神的な闘いでの交渉だ。そしてその代表にミリー・グリーン、あなたを選んだ」
「いったい、どういうことなの‼」
「これより、始まる」
パチン、と少年が指を鳴らした。空間が暗転した。
第三部☆完