第三部☆メッシーナ渓谷での死闘 第四章☆ミリー・グリーン
「・・・いいえ、お母様。そうじゃないけど・・・」
バギーの後部座席で原子分解銃を突きつけられたままサーファイヤーはなにか呟いていた。
「おい、黙ってろ」
男がすごんだが、サーファイヤーの目は中空をさ迷い、なにかに気をとられているようだった。
「丁重に扱うんだ!ジャグラー様がとても興味を持っておられる娘なんだぞ」
シタニが助手席から振り返ってたしなめた。
「どうして、興味を持っているの?」
サーファイヤーがシタニに尋ねた。
「両親が能力者だからだ」
すると、サーファイヤーは笑いだした。
「何が可笑しいんだ?」
シタニが怪訝に思って聞いた。
「リラシナは予知能力者だったけど、私は特に何の能力も持ってないわ」
「!」
サーファイヤーの両目に緑の炎がチラチラと燃えていた。シタニは心底驚いてサーファイヤーの変貌を目の当たりにした。
「私はミリー・グリーン。今、サーファイヤーは心の隅で休んでいます」
「なぜ、そんなことになってるんだ!」
「なぜ?緊急事態だからです。私の本体であるメイの身体は、私がここに来たことによって仮死状態にあります。一刻も早くジャグラーに会って決着をつけなければ」
「シタニ!この女、殺した方がよくないか?」
原子分解銃を持った男が、震える指先に力を込めようとした。
「いや、恐らくジャグラー様もこのくらいは予測されていると思う。殺すのは駄目だ」
シタニはミリー・グリーンの生命力に圧倒されながら、冷や汗を拭って言った。
「ロカワは本当にこの女が欲しかったのか?俺は恐ろしいが」
シタニは初めてミリー・グリーンに会ったのだ。マルスの女神の異名を持っていた女が今、至近距離にいる。精神力で飲み込まれそうな錯覚さえ覚えた。
「さあ、早くジャグラーに会わせなさい」
ミリー・グリーンが厳かに言った。