第一部☆土星の武器商人 第三章☆ミリーの肖像画
土星の第2衛星エンケラドスにあるミュージアムへ、ロカワ氏はサーファイヤーを案内した。
「骨董品ばっかりで退屈かもしれんが、見せたいものが一番奥に飾ってあるんだ」
「見せたいものって何?」
「火星の第一王女の肖像画」
「火星は王政をやめたんじゃなかった?」
「20年ばかり前の全盛期のものさ」
「ふうん」
天井が透明な水族館になっているエントランスを歩く。
「なにか甘いものは食べたくないか?」
「うん。欲しい。喉が渇いちゃって」
「待ってろ、持ってくる」
ロカワ氏は嬉しそうに走って行った。
「いいおとななのに、まるで子どもみたいにはしゃぐのね、ロカワ」
サーファイヤーはクスクス笑った。
「・・・」
奥の方を見てからこちらへ歩いて来る一人の青年が、サーファイヤーの顔を無言でまじまじと見た。
「なにか?」
「いえ」
首を横に振るものの、立ち去る気配もなく、サーファイヤーの前に立っている。
「ほんとに、どうかしたんですか?」
「いや、あの・・・君、名前は?」
「サーファイヤー」
「ああそうか・・・そうでしょうね・・・」
「?どういうこと」
「いえ。失礼してすいません。ここのミュージアムに飾ってある肖像画にそっくりだったから、もしかして絵から抜け出して来たか、モデルになった人かと思ってしまって」
「ああ」
サーファイヤーはやっと自分の母親の若い頃の肖像画があることに合点がいった。
「僕の両親が、若い頃にミリー・グリーンと会ったことがある、って話してここに何度も連れてきてくれてたから、僕はここの常連客なんですよ」
「そう。名前は?」
「リラシナっていいます」
「!」
なぜ父親と同じ名前なんだろう‼とサーファイヤーが混乱している間にロカワ氏が戻ってきて、それを見た青年は逃げるように立ち去ってしまった。
「どうした?サーファイヤー」
「お父様と同じ名前の人と会ったの」
「リラシナ?どういうことだ?」
ロカワ氏は一気に不機嫌になった。