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第一章☆ロカワ氏

第一部☆土星の武器商人 第一章☆ロカワ氏

 「こんな人さらいみたいなことをしてただで済むと思ってるの?」

サーファイヤーが睨み付けて言うと、黒ずくめの男たちはしょんぼりした。

「まあ、そう言わないでやってくれ。彼らは俺に借りがあるんだ」

「借り?」

「そう。それで手伝っている」

「まあ」

ロカワ氏は楽しげに他の男たちに指図すると、軽装になり、旅行鞄を持った。

「本気でどこかへ行くの?」

「ああ。・・・そうだな、お前の両親に一言言って行くのが礼儀かな」

「当たり前でしょ」

「じゃあ、これで・・・」

サーファイヤーは母親がいつも着けていたイヤリングとそっくりな物をロカワ氏が取り出したため驚いた。

「ツーツーツーっと。よお、元気にやってるか?」

ミリー・グリーンとリラシナが心配そうにホログラムで現れた。

「サーファイヤーをどこへつれていくの?」

「ちょっと旅行に。すぐ返すから貸してくれ」

「ロカワ!」

「俺はとても嬉しいんだ。この幸せをしばらく噛みしめさせてくれ」

「・・・」

言っても無駄なのは、長年のつきあいでミリーたちもよくわかっていた。

「サーファイヤー、気を付けて」

「何かあったら連絡を」

「おう」

ロカワ氏はイヤリングの通信機能をオフにした。

サーファイヤーはあきれてこの男をまじまじとみつめた。

「サーファイヤー」

ロカワ氏はサーファイヤーを抱き上げると、至近距離で顔を見た。

「俺はお前の母親にぞっこんだったんだ。お前を見ているとお前の母親といるような錯覚を覚える」

「でもお母様は黒髪で黒い目よ?」

「まあな。・・・そのうち話すさ」

そしてひょい、と彼女を下ろすと、イヤリングをサーファイヤーの耳に着けた。

そして鼻唄混じりで買い物に出掛け、旅行に必要な物を揃えた。

「楽しいぞ。世の中のうぞーむぞーが集まっている処とか、全くなんにもない世界とか、それこそ見処だらけだ」

ショーウインドーを覗いて、素敵な服や靴を選んでくれたので、サーファイヤーはちょっとロカワ氏に気を許しそうになった。

「なんで私に構うの?」

「好きだからさ」

サーファイヤーは耳の付け根まで真っ赤になった。

「からかうとひどいわよ」

「からかってないぞ」

ロカワ氏は本来の性格と違ってほがらかに笑っていた。

武器商人の名前は伊達じゃない。皆から「死の商人」と呼ばれ、恐れられている。それが、サーファイヤーの前でだけ別人になれるのだった。


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