プロローグ☆赤銅のプリンセス
「ミリー・グリーン。君が一番欲しいものは何?」
「リラシナ。もちろんあなたと私の子どもよ」
「じゃあ、もう叶ったね。あの娘をごらんよ。君にそっくりだ」
「ほんとに、なんて幸せなのかしら」
両親がラブラブなのは良いけれど、私にとってはあまりにも目も当てられないので、こういうときはいつも傍に行かないことにしていた。
「パイソン。髪をとかして」
「あら。・・・ミリーには言わないの?」
「今、お取り込み中」
「まあ。くすくすくす。しょうがないわね」
パイソンが私の髪をブラシでとかしてくれる。
「本当になんてきれいな髪なの?まるで燃える炎のようよ」
今のお母様の姿とは全く似ても似つかないのに。周りの人たちは口をそろえて「ミリー(お母さん)の生き写しだ」と言う。
どうして?お母様はストレートの黒髪に青い目なのに、赤銅の髪と緑の目の私と似ているなんて言うの?
「今日は何か予定があるの?」
「ええ。朝一番に見た夢で、男の人が私に会いに来るの」
「まあ」
パイソンはこころもち青ざめた。あまり言うべきことではなかったかしら?
「あなたはリラシナの予知能力を少し受け継いでいるから、きっと正夢ね。用心してね」
「ええ」
用心?私は幼い頃から強かった。怖いものなんて滅多に現れない。そう思ってる。
そう。なにかがやって来るにしても、向こうから来るのをただ待っているだけなんて嫌だから、こちらから行こうと思った。
お昼前、一人で湖に行って、水鳥たちを眺めながら湖畔を散策した。
「・・・お前は誰だ?」
白いものがちらほら黒髪に混じった男が声をかけてきた。
「私は、十三月革命軍総指揮者金星のリラの娘」
真正面から相手を見据える。
「そして、ミリー・グリーンの娘」
すると相手は瞳を輝かして私をまじまじと見た。
「本当か?」
「本当よ」
「・・・では、お前を連れていこう。まだ知らない世界へ」
「だけど私はここ(木星の第2衛星エウロパ)が良いわ」
「いいや。もっと世界は広い。お前はここから世界を見に飛び出していくべきだ」
「・・・みんなに言ってこないと」
後ずさりしようとして、いつのまにか黒ずくめの男たちに囲まれているのに気づく。
「何をするの」
「私と一緒に行こう。名前はなんていう?」
「サーファイヤー。あなたは?」
「ロカワ。皆はロカワ氏と呼ぶ。土星の武器商人だ」
水鳥が一斉に飛び立った。
抵抗しても力ずくで連れていかれる。反抗するのを諦めておとなしく従った。
「ロカワ。なんて人なの」
「お前の母親もよくそう言っていたなぁ」
ロカワ氏はくっくっと笑った。なんだか嬉しそうだった。