「これより第三回。入学試験の説明を行う」
総勢三千人の前に立つ一人の女性教師が試験の説明をするためにマイクを握りそう言った。
二千十八年。今から二年前に東京、愛知、大阪の三大都市圏に各一校ずつ建設されたばかりの学校。この学校では
今日。俺――
勿論、
「まず先程君たちに配った端末を確認してくれ」
この大ホールに入る前、教師から一人一つ端末を受け取っていた。
言われた通りに端末を確認すると、学校側から入学試験の詳細が書かれた資料が送られてきた。
「入学試験は三つの遊戯を三日間で行う。三日間の間は寮で生活してもらう。寮には必要最低限の家具などはあるから自由に使ってくれ。朝食や昼食、夕食に関しては学校の敷地内にある飲食店を使用してくれ。今みんなが持っている端末を提示すれば金銭の負担は全て学校側が受ける。つまり端末さえ持っていれば無料というわけだ。それじゃあ早速第一試験と行こう」
そう宣言されると同時に俺達が居た大ホールがいつの間にか大カジノに変わっていた。
俺は勿論、周りの生徒もこの状況を理解できずに驚いている。
「仮想現実だ。これから行う遊戯は全て仮想現実で行ってもらう。そして一番最初の遊戯会場はここ、巨大カジノだ」
女教師がそう言うと同時に端末に新たに資料が送られてきた。
〇第一回目入学試験
・これから二人一チームとなり、十二時間の間に所持チップが多いチーム上位50パーセント、且つチーム合計所持チップ数が20万枚を超えた最大1500人が合格者とし、第二回目入学試験遊戯に参加することができる。
・合計チップ数が20万枚を超えたチームが50パーセントを切っていた場合、超えているチームのみが合格とする。
・どちらも達成できなかったチームは不合格とする。
・生徒一人の初期チップは一律1000チップ。
・遊戯中にチームの合計チップが0枚になった場合は不合格とする。
・チップの譲渡、暴力、脅迫行為は禁止行為として、行った生徒は不合格とする。
・生徒には三つ、ランダムで遊戯が有利に進む『スキル』を配布する。ランクはCからSまで効果の強い順にランク付けされている。ランクが高ければ使用条件が厳しくなり入手も困難となる。
・スキルに使用回数上限はない。但し、使用してから三時間は同じスキルの使用はできない。
・『スキル』の入手方法は特定の遊戯の勝利のみ。
・チーム内でのスキルの譲渡は可。
・端末を使用すれば現実世界、仮想現実を好きな時に行き来することができる。但し、遊戯中の移動は不可能。
・全チームのチップ数、順位は端末からリアルタイムで確認することができる。
「遊戯のルールを確認出来たら一番下にある確認完了のボタンを押してくれ」
俺はルールを一通り頭に叩き込んだ後、言われた通り確認完了ボタンを押した。
今の時刻は八時。遊戯終了は二十時か。
時間はたっぷりとあるが、一つの遊戯にどれだけ時間がかかるか分からない。なるべく仮想現実の世界でチップを稼いだ方が良いだろう。
「よし。たった今全生徒の確認完了が確認できた。気になっているであろうチームを組む相手はこちらが完全ランダムで決めさせてもらう」
すると端末にパートナーとなる生徒の名前と連絡先、そして顔写真が表示された。
「これより第一回目入学試験遊戯を開始する」
それと同時に端末に制限時間のカウントダウンが表示された。
そして俺の端末に一件の連絡が入った。
『初めまして、パートナーの
俺はわかりましたとだけ返信をして約束の場所へと向かった。
目的の場所に着くと、ソファーに座りながら端末を見ている三つ編みハーフアップの少女が居た。
一度端末に送られた顔写真と比較して少女が桃瀬花音か確認してから話しかけた。
「初めまして、
「あ、初めまして、
そんな初対面をしている俺達に二人の男が近づいてきた。
「ねえ、君達。俺と遊戯しないか?」
「…………何故俺を選んだ? あそこに行けばポーカーはできる。何故わざわざ俺に声をかけてきた?」
「良く見ろ、ポーカーはもう既に席が埋まっている。一人10万チップ、二人で20万チップを稼がなきゃならないんだから待ち時間はもったいないと思わないか?」
「…………まぁいい。それで、どんな遊戯をするんだ?」
「お、やってくれるのか」
「まだやるとは言っていない。遊戯のルール説明もされていない状態で受けるわけないだろ」
そんなの当たり前だ。
俺は値段も見ないで物を買うような奴でも書類をパッと見て判子を押す奴でもない。
「あれの外ウマだ」
そう言って男子生徒が指を差したのは二人が座るテキサスホールデムの台。
外ウマ。遊戯には参加していない第三者が遊戯の参加者の勝敗、順位を予想して賭けること。
「丁度あそこに二人テキサスホールデムポーカーをしているだろ? あの二人のどっちが勝つかを賭ける」
ポーカーの台には男子生徒二人がトランプのカードを見つめて座っている。
「勝つ確率は単純計算で二分の一。俺から誘ったんだ、お前が先に選んでいいぜ。俺はお前の選ばなかった方にするよ」
そう言って自身満々の表情を浮かべ腕を組んだ。まぁ、そんな表情をするのも無理ないか。
「そうだな、じゃあ――――」
俺はポーカー台の方を向いた。
「なんてな。俺が選ぶとでも思ったのか?」
俺はどちらも選ばない。選んではダメ。選んだ瞬間に俺のチップは減る。それは確定されている。
「申し訳ないが俺は二人がチームじゃないと思ってる。あそこに居る二人がお前達のそれぞれのパートナーなんだろ?」
ここに来る途中に見た光景。少し前の事くらいは覚えていられる。
四人が固まって会話をしている様子を。
「まぁ、端末を通話状態にしておいて、俺が選んだ方のプレイヤーがフォールドして俺達からチップを奪おうと思っていたんだろうな」
どんなに手が強くてもフォールドしたら負けになる。四人で手を組んでいるんだとしたら、負けても後から同じようなプレイでチップを均等にすればいいだけ。俺が300チップを賭けていたとしたら二チームに均等に分けて150チップを得られる。ただフォールドするだけでな。
「へー、証拠はあるのか?」
「証拠なんて要らないだろ。俺がこの遊戯を受けなければいいだけなんだからな。まぁ、俺の条件を吞むならやってあげても良いんだけどな」
「条件?」
「ああ」
そう言って俺は隣に立つ桃瀬さんの背中を押した。
「へ⁉」
「桃瀬さんとそこの二人のどちらか片方でポーカーをしてもらう。そうすればわざとフォールドして負けるなんて小細工はできないだろ? それと、遊戯中は俺とお前は一切声を発さない。そして遊戯は近くで見る。そして――スキルの使用は禁止だ」
「ちょ、ちょっと紅羽さん⁉」
「…………あ、ああ。いいぜ。それでも」
これで小細工は使えない。普通は俺の提案は却下するところだが、
「紅羽さん正気ですか⁉」
「大丈夫なので気軽にプレイしてきてください」
「わ、分かりました」
その後ろを俺達も付いていく。
男子生徒はポーカーをしていた二人に事情を説明してどっちがするかを選んでいる。
「決まったぞ」
「なら始めるぞ」
「それで、お前はどっちを選ぶ」
「言わなくても分かるだろ。俺は桃瀬さんに賭ける」
「だろうな。ちなみに言っていなかったが、賭けるチップは500チップだからな。これ以下もこれ以上も無い。俺達も、こいつらも」
これは俺の推測だが、もし桃瀬さんとの勝負になっていなかったら500チップじゃなくて1000チップを賭けることになっていただろう。これは相手が負けた時にチップが0にならないための保険だろう。
「ああ、それでいい」
「それでは手札を配ります」
そう言ってディーラーはカードを配った。
桃瀬さんの手札は『♧A ♢9』一方相手の手札は『♡7 ♡9』
今の所♧Aを持っている桃瀬の方が強い。
だが相手はハートが二枚。場に三枚ハートが出れば相手はフラッシュが完成する。
フラッシュに勝てる役はたったの四つ。だがどの役も麦の手札では相当低い確率でしか作ることができない。
「それでは一枚目……二枚目……三枚目」
ディーラーがポーカー台に出したカードは『♢2 ♡4 ♡J』
今の所、両方ともに役無しのハイカード。だが、あと一枚ハートのカードが場に出れば、相手はフラッシュの完成。最悪の結果だ。
一方桃瀬さんは結構厳しい状況だ。この時点でロイヤルストレートフラッシュ、ストレートフラッシュ、フラッシュ、フォーオブアカインドは絶対に作ることができない。
ただ、残り二枚のカードが2と5ならフラッシュが作れる。……相当確率は低いが…………こればかりは祈るしかない。
「では四枚目……」
ゆっくりと場に出されたカードは『♧Q』
次のカードで決まる。もし両方ハイカードならAを持っている桃瀬さんの勝ち。
カードを持つ桃瀬さんの手に力が入ったのが分かった。
「それでは五枚目」