女の子とセックスをするのは久しぶりだと思う。
茜とだけ、本当に何度かしたことがある程度だ。
だから、ほとんど俺は童貞に近い。
ゼロとイチはまるで違う。
そんなことを過去の偉人や、成功した実業家なんかが言ってるのをたまに耳にするけど、俺はそうは思えなかった。
俺からすれば、セックスの経験があるのとないのなんて、ほとんど変わらない。
どこに何を挿れて、どう動けばいいかがほんの少しわかる程度。
女の子の細かい本音や感情なんて、経験したところで何一つわからなかったんだ。
だから、変わらないし、くだらない。
茜のことは、一つも知ることができなかったんだから。
その時は。
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「はい、水。いつでもいいから、ちゃんと水分補給はしておいて」
「……ありがと」
杉原さんの家。彼女の部屋の中。
ベッドに横たわり、掛け布団にくるまってる杉原さんへミネラルウォーターを渡し、そのままそこへ腰掛けた。
決して広いベッドじゃない。
でも、二人で一緒にいる程度なら大丈夫な広さだった。
「これ、買ってきてたの? アタシの家にはないやつだけど」
「うん。天下のグーグル様で調べたら、女の子を大事に扱うためにはそれくらいするべしって書いてあったから」
言うと、杉原さんはクスッと笑った。
「……なんか、その言い方だとすっごい童貞っぽい」
「ほぼ童貞だからな」
「全然童貞じゃないじゃん。さっきまでシてたのに」
「いや、童貞なんだよ。童貞みたいなもんだと思う」
「未熟だからってこと?」
「なにその言い方。すごいいやらしいんだけど」
「え。だってそうかなって。ヤり方がまだまだ拙いと思ってるから、そう言ってるのかと。てっきり」
「全然違います。不正解」
「……上手だよ? 瀧間くん」
「やめて。いやらしいどころの騒ぎじゃなくなってきてる。話がどエロくなってきてる」
「あはは。いいじゃん。どエロいことしたんだし」
「よくない。とてもよろしくない」
俺がそう言うも、杉原さんは「いいんですー」と頑なに譲らず、クスクス笑ってた。まったくだ。
「でも、思った。瀧間くん、優しくて……こんな人が彼氏になってくれたら幸せだろうなぁって」
「……そ、それは……」
「どこかの誰かさんは、そういうところが刺激足らずで別れたみたいだけど、損してるとしか思えない。アタシが君の幼馴染だったら、絶対に離さないのに……ってさ」
「……別にそんなにできた人間でもないよ。実際……」
「ふふふっ。大丈夫。それもまた知ってる」
「………………」
「笹ちゃんがいるのに、アタシに誘われてヤっちゃうイケナイ男の子ですよってね」
「……だから言い方……」
「けど、まだ浮気じゃないんでしょ? 付き合ってないみたいだし」
「……まあ……」
「それに、こんな状態でまだ付き合えないだろうし」
「…………っ」
「そう考えると、アタシもズルいね。蒼くんがギリギリ浮気にならないタイミングを狙ってこんなことしてる。最低女だよ」
そこまで自分のことを卑下しなくてもいいんじゃないか。
そう思ったものの、俺はそれを口に出さず、座っていたベッドから立ち上がった。
そして、一言だけ杉原さんに告げた。
「ごめん」と。
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その日の翌日、LIMEのメッセージで、杉原さんから欲しかった女子生徒たちの情報が送られて来た。
竹崎が、今茜の他に付き合ってる女子三人。
まずは、こっちから崩壊させていこう。
俺は決意し、送られてきてるアカウントを友達に登録。それから、チャットルームに行って、打ち込んだ文字を送信するのだった。
竹崎竜輝は、現在あなた以外の女三人と交際してる状態だ。と。