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第46話 計画とゴムの枚数

 翌日の朝。


 目を覚まし、眠気眼のままスマホを手に取って画面を見ると、LIMEの通知が何件か入っていた。


 笹と、それから杉原さんからだ。


 笹の方はいつも通り『おはようございます』っていう挨拶とスタンプなのだが、杉原さんの方は、少しばかりの長文を送ってきてる。


 送信時間は深夜の二時半か。その時間はもう寝てた。申し訳ない。


 杉原さんとのチャットルームを開き、内容を確認する。




【遅い時間にごめん。突然なんだけど、今日のこと、やっぱり無かったことにした方がいいかな? 瀧間くんが笹ちゃんと仲良くしてるのはアタシもよく知ってるし、笹ちゃんが瀧間くんのこと好きなのも理解してる。それなのにあんなことしたのがバレたら、アタシもだけど、瀧間くんだってマズい……はずだよね?】


【大丈夫。瀧間くんが昨日アタシにお願いしてきたことに関しては、きっちりやり遂げてみせるから】


【何だかんだ言っても、アタシはあなたのこと好きだし】




 メッセージはこんな感じだった。


 上体だけを起こしてたところから、俺はまた仰向けになって再び寝転がる。


 そして、天井を見上げながら一つ息をついた。


「………………」


 少しして、画面をタップし、文字を打ち込む。




【マズいよ】




 ……違うな。


 消して、また別の文字を打ち込む。




【大丈夫】




 これも違うか。


 再度消して、結局俺が送ったのは、何かに思案するキャラクターの描かれたスタンプ一つだった。


 今はこれでしか彼女に自分の考えを伝えられない。


 杉原さんに対して浮かぶ感情は、すべて本当で、すべて嘘のような気がしたから。






●〇●〇●〇●〇●〇●






 その日の昼休み、俺は教室を抜け出て、中庭の一角で笹と一緒に昼食を摂っていた。


 互いに当たり障りのない会話を繰り広げ、核心に触れないような、本音から逃げたつまらないやり取りが続く。


 けれど、それも最初のみで、徐々に世間話に花を咲かせ、竹崎や茜のことなど忘れかけて笑い合ってた。


 駅前のあの店には最近新作のスイーツが出て、それでも笹は少しばかり体重が気になってて、それは俺もなんだ、というそんな話。


 いいダイエット方法がないか、スマホで調べ、笹に見せてあげようとしてた時だった。


 ふと、スマホにLIMEの通知が届く。


 杉原さんからだ。


「……? LIMEですか? 蒼先輩?」


「……うん。親からだ。今日は早めに帰って来て欲しいだと。やってもらいたいことがあるからって」


「えぇぇ~。せっかく駅前のお店に新作スイーツ食べに行きましょうって話してたのに~」


「はは。そうじゃなく、今してたのはいいダイエット方法がないか探してたんだろ? 食べちゃダメだ。俺も食べたいけど」


「ちぇ~」


 ムスッとする笹。


 俺は苦笑し、チラッとスマホの画面を見やる。


 また長文だが、序文を見てつまらない内容じゃないことはわかった。


 さっそくやってくれたみたいだ。彼女。


「ちょっと笹、俺トイレに行ってくる。すぐ戻るから、ここで待ってて」


「え。なら、私もついていきます」


「いやいや、男子トイレには入れないから。すぐ戻るって。ここに居て」


 さらにムスッとする笹をなんとか置いて行き、俺はトイレへ向かった。


 尿意も便意もないが、とりあえずそこで杉原さんへメッセージを返す。そうしよう。


 急いでトイレに辿り着き、個室へ入る。で、すぐさまスマホを開いた。杉原さんからのメッセージ内容を確認する。




【竜輝くんが今付き合ってる女の子の人数は、茜さんを除外すると全部で三人。その三人ともと連絡が取れる状態になった。同じ学校だったから、割と簡単だったよ】




 さすがの一言に尽きる。


 俺は【ありがとう】と感謝のメッセージを送り、さらに要求した。




【ごめん。次々言って申し訳ないけど、彼女らの詳細がわかったら、また連絡して欲しい。俺のこともしっかり三人に伝えて】




【うん。わかった。わかったんだけど、瀧間くん】




【どうかした?】




【お礼が欲しいです。要求するのも卑しいけど】




 間髪入れず、何も感情を挟まずに俺はメッセージを返した。




【色々言っときながら、結局求めるんだね?】




【ごめんなさい】




【いいよ。なら、また今日の放課後会おう】




【笹ちゃんはいいの?】




【余計な心配はしなくて大丈夫。とにかく、放課後ね】




 言って、了解のメッセージを確認したところで、俺は財布の中身を確認。


 一番端の小さなポケット。ここに以前からずっとコンドームを隠し持ってた。


 一、二、三枚ほどある。なら、これで足りるか。


ゴムの量を確認し、俺は笹のところへ戻った。


 すべては計画を完了させるために必要なことだ。


 そのためなら、手段を選んでられない。鬼にでも、何でもなってやる。


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