「珍しいね。瀧間くんから連絡して来るって。しかも、アタシに会いたいだなんて」
笹の家でお父さんと話した翌日。
俺は唐突ながら杉原を誘い、放課後の時間を使って今カラオケハウスに来てる。
少しばかり頼みごとがしたかった。
「別に珍しくはないと思う。前だって誘ったのは俺からだし、連絡したのも俺からだったはずだよ」
「あれ? そうだっけ? 忘れちゃった。こういうの、癖で」
はは、と笑いながら言って、テーブルの上に置いてあったマイクを差し出してくる杉原。
「今日はどういうご予定? 普通に放課後デートな雰囲気? 昨日、LIMEで聞いても答えてくんなかったからさ。詳しいことは明日会ってから話すー、みたいに瀧間くん言って」
「……ごめん。放課後デートって感じではない」
「……そかそか。なら、おっけー」
差し出してきてたマイクを引っ込める杉原の表情はどことなく寂しそうだった。
それに心が痛むものの、もう立ち止まってもいられない。
俺は間髪を入れず、会話をつなげる。
「話ってのも、誰にも聞かれたくなかったんだ。だから、ここを選んだ」
「なら、また漫画喫茶でもよかったんじゃない? あそこならまだ静かだよ?」
「……まあ、そこは気分だよ。同じ場所に何度も行くのはどこか違う気がしてさ」
「……そっか」
「それに、適度に音のある方が俺たちの声も遮られて他の人に聞かれずに済む。だからここにしたってだけの話。特に他意はないよ」
「……嘘つき……」
「……? ごめん、今何か言った?」
「ううん。何も」
ならいいんだけど。
でも、杉原の笑んだ表情は確実に作られたものだった。いつもの自然な感じがしない。
彼女なりに何か言いたいことがありそうなのは言わなくてもわかる。
けれど、俺はそれを敢えて無視し、自分の話を優先させた。
「だったら、本題に入る。杉原さん。話ってのはアレなんだ。ちょっと頼み事があって」
「頼み事?」
「うん。単刀直入に言うと、竹崎への復讐を手伝って欲しい」
「……本格的に動き出す気なんだ?」
「まあ、そうなるな。ようやく知りたかったことが知れて、自分のやるべきことが何なのかハッキリした」
「……それって、自分のためじゃないね。自分のためなら、茜さんが竹崎に取られた時点で動き出してるはず。笹ちゃんのため?」
「……いや」
俺は軽く横に振り、少しばかりの間の後、答えを考えてから続けた。
「冷静に考えてみたら、これは俺が今からすることは、誰か一人のためじゃない」
「どういうこと?」
「わかりやすく言うと、今この瞬間は杉原さん。君のために俺は動いてる」
「……え?」
「だから、お願いだ。俺に協力して欲しい」
そう言って、俺は立ち上がり、テーブルを回って、向かい合ってた杉原の横へ座り込む。
「杉原さんのことも、俺はちゃんと大事にしたいから」
困惑する彼女の手をそっと握った。
そして、俺たちはその流れでキスをするのだった。