「茜と何回ヤった?」
本当に何気ない会話の連続の中、俺は竹崎に問う。
それはたぶん、奴にとって驚きだったんだろう。
一瞬目を見開き、鼻で笑ってくる。
そして、「は?」とバカにしたような表情で疑問符を浮かべた。
「えらくいきなりだな。それにその質問。どうした? 彼女寝取った男にそんなこと聞いてどうすんだよ? そういう癖か? ハハハッ」
「そういう癖でも何でもいい。俺はお前たちのことが聞きたいんだ。何なら、こっちのメンタルを折るくらいの話をしてくれたって構わない。それくらいの気概でいる」
「癖だからか(笑) 興奮材料くださーいって(笑) ハハハハハッ! くっそ笑える! おい、笹! お前もいつまでそんな男のとこいるつもりだよ? キモすぎだろ(笑) さっさと離れろ。何されっかわかんねーぞ(笑)」
言われ、唇を噛みながら悔しそうにする笹。
それから、俺の方を心配そうに見つめてきた。
大丈夫、と目だけで伝えるが、それも伝わってない気がした。仕方ない。
「しかしよぉ、お前が元々そういう奴だったってんなら単にキモいで終わるがよ、俺のせいでそうなったってんなら酷いことしたなぁ~って思うわ(笑) ごめんな、なんか色々捻じ曲げさせちゃって(笑)」
「余計な心配はしてくれなくていい。俺はさっきからお前たちの話を聞かせてくれって言ってる。そのうえで言っときたいことがあるから」
「言っときたいことぉ? 何だよそれ?」
「タダでは話せない。竹崎、あんたが腰抜かすような、そんな話だ」
「あ?」
ピク、と奴の眉が動く。
俺は竹崎から視線を外さず、ジッと目を合わせ続ける。
それに苛立ちを覚えたのか、舌打ちをし、不敵に笑った。
「わかったよ。それがお望みだってんならしてやる。ただ、興奮して変な気だけは起こすな? 隣に俺の妹もいるからよ」
「勘違いしないで。蒼先輩はそんなことしないし、あんたが思うような人じゃない。乗せられてるのはどう考えてもあんた――」
と、言いかけたところで、俺は笹の前に手をやり、それ以上何も言わないよう暗に伝える。
すると、彼女もそれを察したのか、口ごもりながら押し黙った。
「じゃあ、話してくれ。お前と茜のこと」
「へっ。後悔すんじゃねーぞ」
そう言って、竹崎は自分と茜が付き合い出して、今に至るまでの話をざっくりながら展開してくれた。
茜の親がいない時、家に上がって一緒に何度もシた話。
隣に住む俺へしっかり喘ぎ声を聞かせるため、窓を開けてヤってた話。
自分色に染め上げるため、下着の雰囲気を過激なものに変えさせたり、へそピアスを付けさせた話。
口でのヤり方を教えた話。
食べ物や趣味嗜好、生活習慣まで、すべて竹崎に倣ったようなものへ変わり始めてる話。
挙げ始めればキリがない。
とにかく、以前までの俺ならば話の途中で奴へ殴り掛かってただろうと思えるほど、竹崎は胸糞の悪い話をいくつも聞かせてくれた。
ニヤニヤと笑い、俺を煽るような言い方も止めはしない。
隣に座ってる笹の方が怒り出す始末だ。
いい加減にしろ。もう少し考え、俺に気を遣って話せ、と。
彼女は怒りのあまりか、瞳の端に涙を浮かべ、竹崎を睨み付けていた。
奴はそれさえも楽しむかのようにし、話すのをやめない。
おおよそ三十分ほどが経ったくらいか。
ようやく話が終わったらしく、竹崎が満足げに息を吐いた。
「はぁ~あ。へへっ。これで全部話したぜ? 変態サンよ。俺はお前の癖を刺激させることができたかな? ん?(笑)」
「……なるほどな。よくわかった。ありがとう、全部話してくれて」
俺が表情を変えず、淡々と礼を言うと、これまた笹が隣から突っ込んできた。
蒼先輩が礼を言う必要はない。言ってくれたら、私はこの男を殴る、と。
それを聞き、竹崎は高らかに腹を抑えて笑った。
「どーいたしまして(笑) ほら、そういうわけだからそっちも話せ。俺がビビるような話ってのをな」
「ああ。わかってる。今からしてやるよ」
「言っとくが、妹と付き合って寝取り返しです~、みたいな話なら全然ノーダメだかんな?(笑) 俺からしてみれば、そいつなんて家族の縁も切れた他人みたいなもんだ。ほんとならツラも合わせたくないが、今は仕方なく合わせてる。そんなもんだ」
「知ってる。笹の話とかはするつもりないよ。あと、俺はそんな仕返しのダシにあんたの妹を利用するって気もさらさらない。勘違いしないでくれ」
「あーそーかい。まあいい。何でもいいけどさっさと話せ」
手をひらひらさせ、適当に、バカにしたように俺の話を促す竹崎。
やっぱりそうなんだな、と心の中で思う。
結局、どんな形であれクズはクズ同士惹かれ合うんだ。
よくそれが理解できた。
「話ってのはアレだよ」
「はいはい。なんでちゅか?」
「あんたの今カノ。茜も浮気してるって話だ」