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第40話 ヤった回数

 竹崎に笹と二人で会いに行くことを決めた翌日。


 俺たちは芝野井高校の校門前で待ち構え、奴が来るのを待った。


 アポを取って会うとかそういう間柄じゃないし、約束を取り付けるとなると杉原にお願いしなければならない。


 そんな役回りを彼女にさせるのも酷だ。


 杉原だって竹崎に傷付けられて今がある。気遣い無しに色々させられない。


「……笹、もしかして緊張してる?」


 隣に立つ笹へ声を掛ける。


 笹は少し助けを求めるような表情になり、


「逆に蒼先輩はソワソワしたりしないんですか? 二回目っていっても、彼女さん寝取った相手なのに」


 なんて返してくる。


 こんな往来のど真ん中で「寝取った」とか言わないで欲しいもんだが……まあいいか。誰にも聞かれてないみたいだ。


「そりゃ何も思わないことはないけど、なんていうか、もうドキドキとかは無いよ。前に一度会ったことが功を奏してるのかも」


「すごいですね。一回会っただけでそうなれるんだ」


「うん。まあ」


「じゃあ、今日は先輩を頼りにしてます。私は本当のところ、あまり会いたくない部分も少なからずあるので……」


「……わかった」


 やっぱりそうなのか。


 俺について行くとは言ってくれたものの、笹からしてみれば嫌いな人間と会いに行く罰ゲームみたいな感覚なんだろう。


 いや、罰ゲームどころの話じゃない可能性もある。


 トラウマを呼び起こさせるようなくらいひどい話って可能性もある。


 ここにきて少し後悔した。笹は連れて来るべきじゃなかったのかも。


 ――そんなことを考えてる最中だ。


 向こうの方から見たことのある容姿をした男が歩いてくる。


 竹崎だ。


 一緒に居るのは女子じゃない。男子だ。


 見たところ友達っぽい。


 ガラがあまり良さそうではない男たちが並んでて、声も少しかけづらいが、怯んでる場合じゃなかった。申し訳ないが、強引に話をさせてもらう。


 近付いてきたところで歩み出し、俺は竹崎と接近。


 奴も俺が歩み寄ってきたところですぐにこちらへ気付いた。


 意外そうにし、すぐに好戦的な表情になる。微笑を浮かべたのだ。


「ん? 何だこいつ? おい、お前何の用だよ?」


 友達らしき奴の一人が喧嘩腰に問いかけてくる。


 が、俺はそいつの方へ目をやらず、あくまでも竹崎の方を見つめて口を開いた。


「いきなりで申し訳ない。竹崎竜輝。少し話がしたい」


 言うと、四人グループの中の真ん中にいた奴は鼻で笑い、


「知らねえよ。んなこと。いきなり過ぎんだろ。俺は別にお前なんかに話なんてねーよ。消えろ」


「こっちにはあるんだ。聞きたいことが山ほど」


「だから知らねえって言ってんだろ。消えろってマジ」


 眉間にしわを寄せて言う竹崎。


 それに釣られてか、周りの連中もニヤニヤと笑みを浮かべ、集団で俺をからかおうとする体勢に入った。


 一人が「あ」と何かに気付いたらしく声を出す。


「そういやさ、もしかしてこいつ竜輝が言ってた奴か? お前が取った茜チャンの幼馴染みたいな」


「正解。前からなんか俺の周りウロチョロしててよ、マジ鬱陶しいんだわ。今日も謎に来やがった」


 竹崎が答えると、集団で笑いが起こる。


「え(笑) マジどういう心境なん? 幼馴染の彼女寝取られるって(笑) ヤバない? メンタルえぐられるどころじゃ済まないっしょ?」


「つか、それなのに竜輝に会いに来るメンタルもやべぇw どういうこと? 彼女寝取られて仕返ししに来たとか? そしたらクッソ笑えるんだがw」


「やったらヤるべ? こっち四人いるけど、大丈夫?(笑) 俺ら竜輝の味方しちゃうよ?(笑)(笑)(笑)」


 ふざけてるのは一目瞭然だ。


 けど、そんなのに構ってる暇はない。


 数的にも喧嘩は不利だし、そもそも物理的に竹崎へ何かしようとしに来たわけじゃなかった。


 どうしてもっていうんなら、玉砕覚悟で突っ込むしかないわけだが。


 そうなると、うしろ。まだ校門のところで姿を隠したままの笹を先に逃がさなきゃいけない。


 どうする、この状況。


「おい。寝取られクン。お前にチャンスやるよ」


 竹崎が不敵な笑みを浮かべて言う。


「今すぐ俺の前から消えろ。そしたら追いかけずに逃がしてやる」


「優しすぎてウケるwww」

「竜輝マジ?(笑) ここまで来て逃がすんすげーわ(笑)」

「喧嘩は冗談としてさ、色々聞こうと思ってたんに俺たちw 寝取られた時のシンキョーとかwww」


 煽りながらゲラゲラ笑う取り巻きたち。


 そいつらの意見には耳もやらず、ニヤついたままの竹崎は問いかけてくる。


「ほら、どうすんだ? 逃げねーのか? それともボコられ願望のあるドMってことでいいか? どっちなんだよ?」


「……」


「おい、答えろよ。それくらい――」


 竹崎がそう言いかけたところだ。




「待って」




「――! さ、笹……?」


 校門のところで隠れてたはずの笹が出てき、連中に向かって強くそう言い放った。


 また空気が一変する。


 竹崎も呆気に取られたようになっていた。


「やめて。蒼先輩に何かしたら、私が許さない」


 連中を睨み付け、静かに力を込めて言う笹。


 呆気に取られてた竹崎は動揺の中、開口する。


「お前……こいつと一緒にいたのかよ……」


「……そうだけど、悪い? あんたにはもう何も関係ないじゃん」


「……! お、お前……!」


 歯ぎしりし、笹を睨み返す竹崎。


 けれど、突っかかってくるとかそういう気配はなく、ただ悔しそうに拳を握り締めるだけだった。


 そして、脱力。どうしようもなさそうにわずかにうつむく。


 思ってた反応と少し違う。


 やっぱり、俺はこの二人の関係性について何もわかっちゃいなかったんだ。


「な、なあ、どうしたんだよ竜輝? なんかお前突然静かになったけどよ?」

「この女なんだベ? クソ生意気じゃん」

「ヤるか? 寝取られ男とは別の意味で、だけどw」


「やめろ」


 三人に強く言い放つ竹崎。


 そして、静かにこう言った。


「お前ら、悪い。今日は先に帰ってくれ。やっぱ俺、こいつらと話してくる」


「「「は!?」」」


 信じられないといった表情の友人トリオ。


 だが、それでも、と言い聞かせられた三人は、渋々先に帰って行った。


 残った俺たち。


 話す場所はこっちから提案することにした。近場のファミレスだ。


 そこで色々聞き出そうと思う。二人のこと。そして茜のことを。






●〇●〇●〇●〇●〇●






「――で、まあ、何度も言うけど申し訳なかった。突然こうして時間作ってもらって」


 やって来たファミレス。


 そこで俺たちは隅っこのボックス席に座り、会話を始める。


 こんな三人で話をする機会ができるとは思わなかった。


 緊張しないとは笹に言ったものの、少しばかり身が引き締まる。二人は目を合わせようとしないから、俺が場を進行せていく。


「何回も同じこと言うな。お前、ほんといちいち鬱陶しい」


 竹崎の言葉に笹が睨みを利かす。


「蒼先輩は気遣ってくれてるだけ。そういう返ししかできないあんたが一番鬱陶しいしムカつく」


「んだと?」


「なに?」


「はい。ちょっと待って。喧嘩しないでくれ。そういうことするために集まったわけじゃないから」


 俺が言うと、竹崎はチッと舌打ちし、笹は「ごめんなさい」と謝ってくる。


 俺も俺で、二人の仲裁役をするためにここにいるわけじゃないのだが。まあ、仕方ないか。


 苦笑してると、竹崎が鼻で笑ってくる。


「しかしよ、寝取られクン。お前もお前でやっぱすげーよ。茜取られたのに、よく俺のとこ来れるな。ほんとよ」


「蒼先輩に同じこと言うなって言ったの、あんただよね? さっきからそればっかじゃん。いい加減にしなよ」


「うるせぇ。黙ってろ。笹、お前の方はこの男にべったりだな。何だ? なんかそそのかされたか? くだらん兄に酷いことされたって言って、慰めてもらったとかそういうオチか? 単純女がよ」


「別に。あんたに何も言う気はない。あと、あんたにはそんなこと言う資格もない」


「はっ。ああ、そうかよ」


 言って、「おい」と俺の方をまた見つめてくる竹崎。


「それで、話ってのはなんだ。お前に詳しく何かを教えるつもりなんてないが、一応聞いてやるよ。話してみろ」


 竹崎にそう言われ、俺は微笑を浮かべたまま返す。


「ぶっちゃけさ、茜とは何回ヤった?」


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