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第39話 君と一緒に会いに行く。どうすればいいかわかったから

 LIMEが来てた。


 杉原からだ。


 俺は少しだけ迷って、チャットルームを開く。




 かすみ:【この前はありがと。君の中で進むべき方向性決まった?】




 えらくいきなりな質問だ。


 けど、俺は迷いなくこう返した。




【どうするのが一番いいかわかった】




 と。一言だけ。






●〇●〇●〇●〇●〇●






 単純なことを難しく考えるってのは、人間の特権なんじゃないかと思う。


 ただ、


『そんなことないだろ。動物だって虚像に頭を悩ませることだってある。これこそ単純なことを難しく考えてしまう例だと思う』


 こう返される場合もあるだろう。


 でも、俺が言いたいのはそうじゃない。


 カッコつけた言い方すると、もっと高次元的な話というか、でもやっぱりそれは情けないことというか。


 とにかく、何が言いたいかというと、人が一人で考えられることなんてたかが知れてるんだ。


 もっと色々な場所に行って、色々な人と話をして、それぞれの思いをぶつけ合う。


 そうすることによって生まれるものは、きっと優れた答えだから。


 だから、俺はそうしたい。これから先も困難にぶつかった時、そうやって答えが出せるのだと、ここで成功例を体験しておきたい。


 そう、強く思うんだ。


「――ってことで、もう一度笹のお兄さんに会いたいと考えてる。どう思う?」


 授業と授業の合間の休み時間。


 十分ほどしかない時間を使って、俺は一年生教室棟の空き教室内で笹へ問いかける。


 彼女はクスッと笑って、


「色々言いたいことはありますけど、まず一つ。その高尚な言葉の数々、どんな本から影響を受けたんですか、蒼先輩?」


「え……」


 なぜ受け売りだとわかった……?


 図星を突かれたことが表情に出てたのか、笹は笑みを浮かべつつ、呆れたようにため息をつく。


「先輩が頭悪いなんて言いませんけど、明らかに蒼先輩っぽくない語り口調だったし、所々違和感あったし」


「違和感あった? う、嘘」


「ほんとですよ。まあ、受け売りだってこと認めてくれましたから、もう誰が言ったのかは教えてくれなくてもいいんですけどね」


「そ、そうですか……」


 ちなみに、今のは【成功する人間関係】という本に出てきた言葉を一部拝借した感じだ。


 拝借したとはいっても俺なりにまとめて、自分の色を出しながら色々言ったつもりだったんだけどなぁ。笹には通用しませんでした、と。残念。


「でも、先輩。また、どうして私の兄なんかに会おうと思ったんですか?」


 窓から差す日差しを浴び、その場でなぜかクルっと一回転しながら問うてくる笹。


 やや短めのスカートがふわりと舞って、中の方が見えそうになったので、俺はすぐさま目を逸らした。あ、危ない。


「一度会うだけでも嫌だったはずなのに、二回目なんて。何か他に聞きたいことができたとかですか?」


「ん……。聞きたいことができたってのも違う気がするんだけど、とにかくもう少し話したいなと思って」


「何を?」


「大事なことからくだらないことまで、ちゃんと。明確にこれを聞きたい、とかはもうないよ」


「どういうことです、それ?」


 怪訝そうに眉をひそめる笹。


 ぉあ。美人が台無しになってる。


「どういうことなんだろうな。とにかく、今はもう竹崎と心置きなく会話できる気がするんだ。だから、会話しに行くだけ」


 言って、俺はもう一つ付け加えた。


「それと笹」


「何ですか?」


「これも言っとかないといけない」


「……?」


「今回竹崎と会う時、君も一緒に来て欲しい」


「……へ……?」


「お願いできるかな?」


 俺がそう問いかけたところで、時が止まったような静寂が訪れる。


 笹は一瞬戸惑ったような表情を作り、目線を下の方にし、やがてまた俺を上目遣いで見てから、ゆっくりと頷いてくれた。


 よし。なら二人で会いに行こう。


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