LIMEが来てた。
杉原からだ。
俺は少しだけ迷って、チャットルームを開く。
かすみ:【この前はありがと。君の中で進むべき方向性決まった?】
えらくいきなりな質問だ。
けど、俺は迷いなくこう返した。
【どうするのが一番いいかわかった】
と。一言だけ。
●〇●〇●〇●〇●〇●
単純なことを難しく考えるってのは、人間の特権なんじゃないかと思う。
ただ、
『そんなことないだろ。動物だって虚像に頭を悩ませることだってある。これこそ単純なことを難しく考えてしまう例だと思う』
こう返される場合もあるだろう。
でも、俺が言いたいのはそうじゃない。
カッコつけた言い方すると、もっと高次元的な話というか、でもやっぱりそれは情けないことというか。
とにかく、何が言いたいかというと、人が一人で考えられることなんてたかが知れてるんだ。
もっと色々な場所に行って、色々な人と話をして、それぞれの思いをぶつけ合う。
そうすることによって生まれるものは、きっと優れた答えだから。
だから、俺はそうしたい。これから先も困難にぶつかった時、そうやって答えが出せるのだと、ここで成功例を体験しておきたい。
そう、強く思うんだ。
「――ってことで、もう一度笹のお兄さんに会いたいと考えてる。どう思う?」
授業と授業の合間の休み時間。
十分ほどしかない時間を使って、俺は一年生教室棟の空き教室内で笹へ問いかける。
彼女はクスッと笑って、
「色々言いたいことはありますけど、まず一つ。その高尚な言葉の数々、どんな本から影響を受けたんですか、蒼先輩?」
「え……」
なぜ受け売りだとわかった……?
図星を突かれたことが表情に出てたのか、笹は笑みを浮かべつつ、呆れたようにため息をつく。
「先輩が頭悪いなんて言いませんけど、明らかに蒼先輩っぽくない語り口調だったし、所々違和感あったし」
「違和感あった? う、嘘」
「ほんとですよ。まあ、受け売りだってこと認めてくれましたから、もう誰が言ったのかは教えてくれなくてもいいんですけどね」
「そ、そうですか……」
ちなみに、今のは【成功する人間関係】という本に出てきた言葉を一部拝借した感じだ。
拝借したとはいっても俺なりにまとめて、自分の色を出しながら色々言ったつもりだったんだけどなぁ。笹には通用しませんでした、と。残念。
「でも、先輩。また、どうして私の兄なんかに会おうと思ったんですか?」
窓から差す日差しを浴び、その場でなぜかクルっと一回転しながら問うてくる笹。
やや短めのスカートがふわりと舞って、中の方が見えそうになったので、俺はすぐさま目を逸らした。あ、危ない。
「一度会うだけでも嫌だったはずなのに、二回目なんて。何か他に聞きたいことができたとかですか?」
「ん……。聞きたいことができたってのも違う気がするんだけど、とにかくもう少し話したいなと思って」
「何を?」
「大事なことからくだらないことまで、ちゃんと。明確にこれを聞きたい、とかはもうないよ」
「どういうことです、それ?」
怪訝そうに眉をひそめる笹。
ぉあ。美人が台無しになってる。
「どういうことなんだろうな。とにかく、今はもう竹崎と心置きなく会話できる気がするんだ。だから、会話しに行くだけ」
言って、俺はもう一つ付け加えた。
「それと笹」
「何ですか?」
「これも言っとかないといけない」
「……?」
「今回竹崎と会う時、君も一緒に来て欲しい」
「……へ……?」
「お願いできるかな?」
俺がそう問いかけたところで、時が止まったような静寂が訪れる。
笹は一瞬戸惑ったような表情を作り、目線を下の方にし、やがてまた俺を上目遣いで見てから、ゆっくりと頷いてくれた。
よし。なら二人で会いに行こう。